第9話 オークション3 舞台上の主役

暑苦しいモノが頬にぶつかる。

それは、リズの顔に他ならない。

リズの腕が首に纏わりつき、放そうとしてくれない。


仲睦まじい少女達。

周りから見れば微笑ましい光景かもしれない。

しかし、リズのスキンシップはどこか常軌を逸している様にも思える。

近くではリズの父親が、娘の笑みを見て感涙し、破顔を続けていた。



『友達』関係に固執する少女、リーズベット。

リズ・・・ この子に対しては、どこか腰が引ける・・・

そんな風に思ってしまう自分に驚くエリス。

エリスの中で確実にリズに対する苦手意識が芽生え始めていた。



オークションは進行していく。


残すは最後の品。

本日のメインイベント。

エリスの目的。


この為だけにVIP席を辞退し、会場最前列中央に陣取った。

リズが付いて来たのは想定外だが、構う事は無い。

最終兵器の晴れ舞台が、目前に迫っているのだ。

もはや、エリスの興奮を止められる者は、誰もいなかった。



壇上にて。


「皆さま、お待たせいたしました!

 次に出品するは、本日の最終商品! 本日、最高の品に御座います!!」


その読み上げに、高額提示を期待した歓声が沸く。


「驚くなかれ!

 これから皆様方がお目にするのは、かのロストギアに属する一品!

 それも普段市場に流れる事のない上級品で御座います!」


「うぉおおおおおおお!」


皆が期待したロストギア。

それも上級品との触れ込みに、弥が上にも会場の熱気は最高潮の時を迎えた。

勿論、エリスも例外ではない。


「それでは、 皆さま! こちらがその商品です」


言葉は一瞬。

ライトに照らされ一つの商品が運ばれてくる。

そして、その姿は・・・



横合いから心配そうな声が響く。


「エリス様! 大丈夫ですか?」


反応が無いエリスをリズは支えていた。

エリスの体からは魂が抜けた様に力が抜け落ち、俯いたままプルプルと体を震わせている。


オークションは進行し、提示額は膨れ上がっていた。

しかし、エリスは動かない。

ただ俯いたまま、ぶつぶつと口を動かす。


当てが外れていた。

舞台の上に陣取る商品。

それは、最終兵器などではなかったのだ。




エリスを取り残し、オークションは続く。

続々飛び出す高額提示に、競売人は声を荒げる。


「1億5000万はいりました!

 VIP席の貴婦人よりの提示です!

 ほか! 他はありませんか!!」

「1億7000万!!」

「こちらもVIP席の方より高額提示!! 1億7000万!!!

 他は!! 他は・・・」

「2億!!」

「これは貴婦人からの反撃だーーーーーーーーーー!!

 2億!!! 他には・・・ ありませんか?」


・・・

「これは決まりですかね・・・ 他には・・・ ないですか?」

「10億!!」


その言葉に会場は静まり返った。

提示したのはやはりVIP席の客人、二人組の男だった。


「よ・・・ よろしいので?」


想定した額を超えたのか、競売人が恐る恐る確認。


「構わん、10億だ!!」


ダメ押しの言葉。

黙り込む会場に、競売人も競りを終わらせる事にした。


「それでは、こちらの商品、10億で落さ・・・」


「愚かな人間共!!」


落札は寸前で止まる。

壇上では競売人が不意に現れた少女の姿に驚きの顔を見せていた。


「お客様、壇上に上がるのは、お辞め下さい!!」


勿論、競売人もプロだ。 即時対応してみせる。


「黙れ、下郎! 我が思い出を・・・ 金で汚す愚かな種よ!」


エリスは・・・ 怒っていた。

それも過去最大級の怒り。


怒りの理由。

それは、最終兵器がいなかった。 からではない。

彼女が述べた通りの理由。


本日、舞台上に展示された最後の品目しゅやく

思い出の中の一品。

嘗て戦った男が用いた武装。

そのしゅやくが汚されている。


抑えのないエリスに、我慢など出来る筈がなかった。


「金か? ならばくれてやる!!」


涙交じりに告げられるその言葉。

それと同時に膨れ上がるエリスの魔力。

エリスは腕を薙いだ。


何も起こらない。

会場に一瞬の静寂が訪れる。


その静寂を壊したのは外からの悲鳴。

会場の外では・・・ 金が降り注いでいた。

金の雨。

それも一瞬の集中豪雨。

その雨は、建物を破壊し、町を呑み込んだ。

オークション会場も例外ではない。


エリスは見下ろす。

目の前に残るは金の砂漠と思い出の品。


それは世界から町が一つ消えた瞬間だった。

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