第9話 オークション3 舞台上の主役
暑苦しいモノが頬にぶつかる。
それは、リズの顔に他ならない。
リズの腕が首に纏わりつき、放そうとしてくれない。
仲睦まじい少女達。
周りから見れば微笑ましい光景かもしれない。
しかし、リズのスキンシップはどこか常軌を逸している様にも思える。
近くではリズの父親が、娘の笑みを見て感涙し、破顔を続けていた。
『友達』関係に固執する少女、リーズベット。
リズ・・・ この子に対しては、どこか腰が引ける・・・
そんな風に思ってしまう自分に驚くエリス。
エリスの中で確実にリズに対する苦手意識が芽生え始めていた。
オークションは進行していく。
残すは最後の品。
本日のメインイベント。
エリスの目的。
この為だけにVIP席を辞退し、会場最前列中央に陣取った。
リズが付いて来たのは想定外だが、構う事は無い。
最終兵器の晴れ舞台が、目前に迫っているのだ。
もはや、エリスの興奮を止められる者は、誰もいなかった。
◆
壇上にて。
「皆さま、お待たせいたしました!
次に出品するは、本日の最終商品! 本日、最高の品に御座います!!」
その読み上げに、高額提示を期待した歓声が沸く。
「驚くなかれ!
これから皆様方がお目にするのは、かのロストギアに属する一品!
それも普段市場に流れる事のない上級品で御座います!」
「うぉおおおおおおお!」
皆が期待したロストギア。
それも上級品との触れ込みに、弥が上にも会場の熱気は最高潮の時を迎えた。
勿論、エリスも例外ではない。
「それでは、 皆さま! こちらがその商品です」
言葉は一瞬。
ライトに照らされ一つの商品が運ばれてくる。
そして、その姿は・・・
◆
横合いから心配そうな声が響く。
「エリス様! 大丈夫ですか?」
反応が無いエリスをリズは支えていた。
エリスの体からは魂が抜けた様に力が抜け落ち、俯いたままプルプルと体を震わせている。
オークションは進行し、提示額は膨れ上がっていた。
しかし、エリスは動かない。
ただ俯いたまま、ぶつぶつと口を動かす。
当てが外れていた。
舞台の上に陣取る商品。
それは、最終兵器などではなかったのだ。
エリスを取り残し、オークションは続く。
続々飛び出す高額提示に、競売人は声を荒げる。
「1億5000万はいりました!
VIP席の貴婦人よりの提示です!
ほか! 他はありませんか!!」
「1億7000万!!」
「こちらもVIP席の方より高額提示!! 1億7000万!!!
他は!! 他は・・・」
「2億!!」
「これは貴婦人からの反撃だーーーーーーーーーー!!
2億!!! 他には・・・ ありませんか?」
・・・
「これは決まりですかね・・・ 他には・・・ ないですか?」
「10億!!」
その言葉に会場は静まり返った。
提示したのはやはりVIP席の客人、二人組の男だった。
「よ・・・ よろしいので?」
想定した額を超えたのか、競売人が恐る恐る確認。
「構わん、10億だ!!」
ダメ押しの言葉。
黙り込む会場に、競売人も競りを終わらせる事にした。
「それでは、こちらの商品、10億で落さ・・・」
「愚かな人間共!!」
落札は寸前で止まる。
壇上では競売人が不意に現れた少女の姿に驚きの顔を見せていた。
「お客様、壇上に上がるのは、お辞め下さい!!」
勿論、競売人もプロだ。 即時対応してみせる。
「黙れ、下郎! 我が思い出を・・・ 金で汚す愚かな種よ!」
エリスは・・・ 怒っていた。
それも過去最大級の怒り。
怒りの理由。
それは、最終兵器がいなかった。 からではない。
彼女が述べた通りの理由。
本日、舞台上に展示された最後の
思い出の中の一品。
嘗て戦った男が用いた武装。
その
抑えのないエリスに、我慢など出来る筈がなかった。
「金か? ならばくれてやる!!」
涙交じりに告げられるその言葉。
それと同時に膨れ上がるエリスの魔力。
エリスは腕を薙いだ。
何も起こらない。
会場に一瞬の静寂が訪れる。
その静寂を壊したのは外からの悲鳴。
会場の外では・・・ 金が降り注いでいた。
金の雨。
それも一瞬の集中豪雨。
その雨は、建物を破壊し、町を呑み込んだ。
オークション会場も例外ではない。
エリスは見下ろす。
目の前に残るは金の砂漠と思い出の品。
それは世界から町が一つ消えた瞬間だった。
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