第8話 オークション閑話 リーズベット

「なあ、、 リーズベット・・・」

「はい、エリス様!」

「て、、 手を放してはくれなか?」



今、エリスとリーズベットの手は固く結ばれている(一方的)。


場所はオークション会場最前列中央付近。

時はオークション中盤と言った所か。

様々な品目につけられる高額な提示額に会場では大きな歓声が巻き起こり、大いに賑わっていた。


そんな最中、エリスは困り果てていた。

それはリーズベットが手を放してくれないから、なのだが・・・


別に悪い気がしている訳ではない、友達と手をつなぐのは初めての経験であり、とても新鮮な気持ちだった。

それに、近くではリーズベットの親父さんが涙腺も緩み切った顔で、大粒の涙を貯めながらエリスに寄り添う娘の姿を確認しているのだ。


なんだこれ・・・ エリスは困惑していた。

ポンコツドラゴンにおいても現在の状況は理解の範疇外である。


友達と言うものはこういうモノなのだろうか??? そんな疑問が頭で渦巻く。

疑問の果てに、過去に居た唯一の友を思い浮かべた。

鮮血が舞い、肉が引き裂かれ、骨が絶たれようと、心が躍ったあの時を・・・

だが、今はどうだ・・・ 隣に寄り添うのは可憐な少女。

エリスが少女に目を向けると、感極まった表情と共に割れんばかりの眩しい微笑を向けて来る。


私の知ってる友と違う。 そんな気がした・・・

嫌ではないのだ。 しかし、違和感はぬぐえない。

だから、拒絶を示した。


「手を放してはくれないか?」


少女の顔が一瞬で曇り、涙が頬を伝う。

一時の沈黙。 そして、


「いけません」


その声はとても小さく掠れていた。

一つの落札を終えたオークション会場が賑わう中、聞き取るのも難しい声音なのだが、エリスにはハッキリと伝わる。

強い意志、それと共に次の言葉がエリスを叩く。


「エリス様は私の友達です」


それが全て。 彼女の理由。



短い時間でそんな、と切り捨てる事は出来た。 筈だ。


しかし、向き合う相手の目は真剣そのもの。

エリスは気付かない。

その目に宿るものの正体を、、、 それは狂気。

嘗て、ボコボコにされながらも『次』を望んだ男に垣間見たモノ。 それと同じ狂気。

エリスはどこかで人が持つ心を軽んじている。

だから気付けない、人が時折見せる狂った感情の力を。

ただ、その気迫に・・・ エリスは呑まれていた。


敗北・・・ 長い生涯でエリスが認めた2度目の敗北。

勿論、それはエリスが感じた心の中での出来事。

しかし、エリスはこれより後、リーズベットに一定の敬意を払うと決めた。


「すまない、どうかしていた・・・」

「うん。 グスン・・・」

「もうすぐ目的の品が出るから、気が高ぶったのだ・・・ 許せ」

「リズ!」

「?」

「リ・ズ!」


言わんとしてる事は分かる。

でも、照れるではないか・・・ 愛称で、呼ぶなど・・・



「リズ、すまなかった」


顔を真っ赤にしながら口にするその言葉は、今まで口にしたどの言葉よりも恥ずかしいものだった。

だが、辱めはまだ続く。


ギュ―――!

リズが抱き着いて来たのだ。

手は解放されたのだが、抱き着いたまま離れてくれない。


なんだこれ・・・ エリスは再び困惑する。

ただ、リズに逆らう気は既にない。

疑問に思いながらも、エリスはオークション最後の品を待つ事にした。


オークション会場最前列中央付近。

そこではオークションそっちのけで絡み合う二人の可憐な少女に目を向ける紳士が多発していたのだが・・・ この事実は伏せておこう。

エリスが知ったら大変な事になるからだ。


故に、この話を閑話とする。

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