第7話 オークション2 VIPルーム
通されたのは大きめの談話室。
そこは、先客がいる事以外に不備のない場所だった。
しかし、
「申し訳ございません!
お客様、 うちの若い者が・・大変な失礼を・・・」
「よい」
先程から主催者と思しき男が付きまとうのである。
謝られるのに悪い気はしないが、、、 周りの視線がとても痛かった。
現在の状況としては、オークション開始1時間前と言った所だろうか、
会場では立食形式のパーティーが行われていた。
エリスが居るのは会場の近くにある談話室。
VIP用に解放されたその空間は、会場と打って変わって一定の静寂を保っている。
しかし、それは表向きの話。
水面下ではロストギアをかけての睨み合いが始まっていた。
そうとも知らず、エリスは一人鼻息を荒げる。
部屋に通された時に渡された『本日のお品書き』を確認していた。
目当ての品は・・・ やはり最後。
『最強』の武装。 そう書かれたお品書きを何度も確認。
ギューー! 思わずお品書きを抱きしめる。
差し迫る再会に胸が躍り、期待が弾む。
エリスは自分の顔が緩んでいる事にも気付かず、そんな奇行を続けていた。
◆
▼談話室の隅では男女が小声で談笑をしていた。
「姫様、必ずロストギアを勝ち取りましょう!」
「だまれ、フィドル! まだ決まった訳ではない!」
「ですが周りをご覧ください! どこぞで見た顔が・・・ ちらほら・・・」
「遺恨でもあるのか? 恨みがあっても騒ぎは起こしてくれるな」
「御意!
もし・・・」
「もしなど無い!」
女性の語気に男が黙り込む。
その態度に気分を変えたのか、一時の間をおいて女性が口を開いた。
「しかし、有るとすれば・・・ 全てが終わった後だ」
その言葉を男は待っていた。
口元が緩み、獰猛な笑みを浮かべる。
そんな笑みを姫と呼ばれた女性は優しく迎え入れた。
▼談話室に置かれた椅子では、二人組の男が鎮座していた。
「して、どうだ? 今回の品は?」
「はい・・・ 良い品ではあると、、、 カテゴリーAに該当する・・・ 品です」
「どうした? 歯切れが悪いな?」
「いえ、私の見間違いかと」
連れの態度を訝しむ男。
連れはしきりに部屋で奇行を繰り返す一人の娘を見詰めていた。
好意を持ったか? いや、違う!
連れは娘を見る度に怯えている様に見える。
それに連れは堅物。 仕事人間だ。
カテゴリーAのロストギアを確認して、他の事に気を割く様な男でないのだ。
「どうした? 気になる事があるなら言え、これは命令だ!」
連れはその声に従った。
「あの娘・・・ 漏れ出す魔力が異常です・・・ 」
「落ち着け、お前が言うのだ、間違いない」
汗を垂れ流す連れに優しく語りかける。
「して、その魔力は如何程だ?」
その問いに連れが重い口を開いた。
「カテゴリーSのロストギアが放つ魔力と同等・・・ いや、それ以上かと・・・ 相手が格上の為、それ以上の確認はできません」
男は連れを信頼している。
いや、連れが持つロストギアを信頼していた。
そのロストギアが告げているSクラス保有者。
いまだ奇行を続ける少女を盗み見る。
敵意は感じない。
しかし、一度怒らせれば・・・ この町周辺が全て消える事になる。
あの娘・・・ 何者なんだ?
大切なオークションの最中、二人組の男はそんな疑問に縛り付けられる事となった。
◆
▼子を連れた男。
「嬢ちゃん、わりー」
間の抜けた声が、談話室に響く。
エリスの前に一人の男が立っていた。
「コイツの話し相手になってくれないか?」
その声と共に、押し出される少女。
エリスと目が合うと顔を真っ赤にして男の後ろに逃げ込む。
「悪い・・・ おじさんトイレに行きたくて・・・ その間だけでもいい!
コイツの友達になってやってくれ!!!」
大きな声が談話室に響き渡る。
他の客を無視したその行動は、決して褒められた物ではない・・・
しかし、、、 ポンコツには響いた。 響いてしまった。
『友達』それも親公認の・・・
ボン!! そんな音が談話室に響いた気がする。
エリスの顔は真っ赤に染まり、引き攣っていた。
「どうした? 嬢ちゃん? 顔が真っ赤だ!」
「そ、、 そんあことないし・・・」
舌を噛んでしまったが、平静を装いしゃべり続ける。
「と 友達? どうしても?」
「ん? 年が近いと思って頼んだんだが・・・ 嫌、、 だったか?」
男がシュンとした顔をする。
「自慢の娘なんだ・・・
でも、友達がいなくてな・・・ おじさん期待しちゃった・・・」
それ以降黙り込み、顔が青くする男。
そして、自慢の娘は顔を赤くしてポカポカと親を殴り続ける。
・・・
この状況は私のせいなのだろうか? と、エリスは思う。
何か居た堪れない気持ちに、、、 だからだろうか?
動いてしまった。
「友達になるから! 落ち着け!」
その言葉は劇薬!
親子そろってエリスを見詰める。
その瞳には神でも見るかの様な信仰心(狂気)が込められていたのだが・・・
エリスは気付かない。
「私はエリスだ」
「私はリーズベット」
ぎこちない名前の交換。
後に、この出会いが大きな意味を持つ事になるのだが・・・ それはまだ先の話。
今はオークションの話を続けよう。
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