第4話 金色の海原
風がそよぐ平原の一風景。
辺り一面に続く麦畑の世界に圧倒され、最終兵器は足を止めていた。
そこは緑の海原。
風の力に流されながらも耐える麦が、波の様に行っては来りを繰り返す光景。
麦が擦れる音は心に染み渡る様にして流れ、消え去っていく。
その情景がどこか寂しく思え、最終兵器は顔を曇らせていた。
不快だったわけではない。
この光景を見ていると心安らぐ。
雄大にして美しい、素晴らしい風景だ。
風が止むまでこのまま、ずっと眺めていたい。
そう思わせるのに十分な世界だった。
暫し感傷にふけりながら時を潰す。
近づく者に気付かなかったのは仕方ない事だったのかもしれない。
???「少年! いや、娘か? そこで何をしている」
少し不機嫌な声音を含むファーストコンタクト。
初老を迎える頃の男が、こちら睨みつけていた。
明確な敵意。
しかしながら、話すだけの余地は残してくれている。
そんな態度の男だった。
「風景を見ていました」
素直に返答。
そう答えるしかなかった。
「町でガキどもと遊べ! ここは遊び場じゃない!」
もっともな意見。
拒絶の意がそこに含まれているのは、最終兵器にも感じ取れた。
しかし、最終兵器は空気を読まない・・・ だって兵器だもん。
「美しい風景です」
「ふん! 当たり前だ! わしが育てた!」
「でも、どこか寂しい! そんな風景です!」
「ガキが一丁前な事を言いおる! さっさと消えろ! わしは忙しい!」
初老の男は、痩せ細った背中を向け、話の終わりを急かす。
「でも・・・ どこか寂しい!」
大切な事なので二度繰り返す。
太々しい子供の態度に表情に怒りを滲ませ、男が振り返った。
しかし、怒声が飛ぶ事は無かった。
男は戸惑ったのだ。
目の前には子供の姿、でも、その表情は・・・
大切な者を失い長い時を過ごした者が持つ、哀愁の様なものを漂わせている。
その顔に・・・ 男は感じ入るものがあった。
だからかもしれない。
この少年? いや、娘か? と話がしたい。
そう、思ってしまった。
▼
それは、よくある話。
戦争にまつわる悲しい出来事。
男が守りたかった者。
守る為に出て行き、守れなかった者。
全てが終わり、帰る場所。
そして、その惨状。
何もなかった。
全て燃え尽きていた。
全て荒れ果てていた。
帰りを待つ人も場所も、そして時さえも。
男は守るつもりで、全てを失っていた。
そう、戦争にまつわる、よくある不幸。
そして、その続き。
辺り一面の金色の海原。
嘗てあった光景。
守りたかった者と一緒に迎えてくれる筈だった世界。
それを取り戻す。
男は長い時を荒れ地で費やす。
しかし、時は来た。
次の実りの季節。
あの金色の海原が蘇る。
悲願が叶うのだ。
▲
一人語りを終えた男は抜け殻の様になり、生気が薄い。
溜め込んでいたモノを吐き出して燃え尽きてしまったのかも知れない。
遠くの地平を見詰め、緑の海原を見守っている。
これは時が解決する。
そう、結論付けるべきだったのかもしれない。
しかし、最終兵器は動いた。
この地に息吹く生命に願った。
両手を合わせ目を瞑り、真摯に願った。『あの美しき世界をもう一度』
一瞬の光。
目を覆いたくなる様な閃光の後、世界が一変した。
金色の海。
そうとしか言えない世界。
最終兵器の隣に立っていた男が崩れ落ちる。
目からは大粒の涙をたらし、掠れた声で何かを呟いている。
それは守りたかった者達の名前。
そして言いたかった言葉「ただいま」
男は手を金色の海原へと向けている。
夢か幻かそこには人影が写っていた。
「おかえり」確かにそう聞こえた。
それと同時に、人影は霞、消えて逝った。
男は満足そうに何度も頷いていた。
風がそよぐ平原の一風景。
辺り一面に続く麦畑の世界に、最終兵器は圧倒されていた。
そこは金色の海原。
風の力に流されながらも耐える麦が、波の様に行っては来りを繰り返す光景。
麦が擦れる音は心に染み渡る様にして流れ、消え去っていく。
傾き始めた日の光が、海の光を尚強くしていた。
最終兵器にはやはり、その情景が寂しい物に思えた。
◆
―――数日後。
とある町の露店にて。
「新麦で作ったパン?? 嘘だろオヤジ! 季節がおかしい!!」
露店の男に絡むドラゴンが一人。
「へい、そうなんです。 しかし新麦で間違いありまん! どうです? お一つ? 美味しいですよ」
露店の男を疑いながらも一つ購入。
文句を言いたいので、その場で一口・・・
「うんめーーーーーーーーーーーーーーーーー! オヤジお代わり!!」
騒がしい女の姿に少し呆れながらも露天商は対応した。
勿論、関わりたくないのでこれ以上の会話は無い。
やはり、ポンコツドラゴンは最終兵器への手がかりを得られないのであった。
しかし、エリスも考え無しで動いていたわけではない。
手にはとある紙が握られている。
それはオークションのチラシ。
その品目の一つに・・・ 『最強』の武装。 との文字が書かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます