第3話 神秘の湖にて
エリスの巣にある財宝を全て散らばめたかの様な満点の星空の下で、最終兵器は絶句していた。
闇を照らすその光はエリスが見せたどの財にも負けておらず、神秘的な輝きをこちらに向けている。
星一つ一つが見せる煌きは淡く弱い物だが、星々が密集した帯が齎す輝きは空を分断する力強さを見せつけていた。
足元には湖が広がっており、星空を映す鏡になっている。
その光景に思わず走り出した。
バシャバシャ!バシャ!
足が水に沈み、湖面を汚す。
気付いた時にはもう遅い。
光輝いていた鏡は、濁りの波紋によりその美しさを大きく失っていた。
バッシャン!
取り返しのつかな事をしたと思い、最終兵器は尻もちをつく。
お尻から冷たい物が浸透してくる感覚は罪悪感をさらに加速させることになった。
どうにかしたいけど、どうする事も出来ず、そのまま空を見上げる。
そこにはやはり美しい星空が自身を見守っている。
だから、その星空に願った。
両手を合わせ目を瞑り、真摯に願った。『あの美しき世界をもう一度』
その願いは時間と共に叶う。
だが、最終兵器には時間など必要なかった。
湖面の汚泥が一瞬で引き、湖に透明度が戻って来る。
すると、湖からは新たな光が生まれていた。
その美しさは、願う以前の湖と比べて一目瞭然。
最終兵器が目を開いたそこには、星空に呑まれた自分という光景が広がっていた。
思わず立ち上がり、一瞬の後悔。
しかし、汚泥の波紋は広がらなかった。
湖面は透明度を保ち、世界に波紋だけが広がっていく。
湖面が揺れるたびに世界が煌く。
それは自分の動きに合わせて世界が創り替わっている様な錯覚を最終兵器に与えた。
飽きるまでそこで遊ぶ。
気付いた時には、星空が霞み、日が世界を照らし始めていた。
楽しく短い時間だった。
エリスと共にいた時間を考えると尚更である。
名残惜しいがこの場を後にする。
最終兵器には目的がある。
自身のパートナーを探す事。
その為に旅に出たのだ。
まだ、その旅も始まったばかり。
きっとこの先にも美しい事はある筈だ。
そんな期待が、最終兵器の心を満たしていた。
◆
一方、その頃・・・ エリスはというと。
捜索の為に飛び続けた疲れをとある湖で癒していた。
「うんめーーーーーーーーー!」エリスの咆哮がこだまする。
「なにこれ・・・ ここの水、マジうめ――――ー!
何ですか、これは・・・
バシャバシャしても濁らない!
ヤベーーーー!
この湖欲しい。 絶対欲しい!!
あの子にも飲ませたやりたい!!!」
一人浮かれるドラゴン。
しかし、その湖を創った張本人が最終兵器だと気付く事は無かった。
勿論、湖を持って帰られる訳もなく、この後エリスは大きく項垂れる事となった。
後に、この湖は観光名所として栄える事になる。
そこには一つの噂が流れていた。
神の願いで生まれた湖。
この湖は神が創った! 神が創った神秘の湖!
そう、目撃者がいたのだ。
・・・うん、アホのエリスがそれに気付く訳が無かった。
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