小説とは――

 ある日、私は小説とは何だろう、と、そんな哲学的な事を考えたのです。端的な事を言えば小説とは文章で提示された物語です。もしかしたらそれ以上でもそれ以下でもないのかも知れません。


 物語とは何か。それは時間の流れと共に変化するものの描写です。時間の流れない物語はありません。必ず過去から現在、そして未来へと流れていきます。短編の場合はその一瞬を切り取った描写の場合もあるでしょう。


 人は何故物語を紡ぐのか。自然に降りてくる人もいます。伝えたいテーマがあって、そこから着想する人もいます。どちらの場合もまずは何かが思い浮かび、それを吐き出さずにはいられなくなったらから吐き出しているものと思います。執筆を仕事にしている人だと、また別の理由もあるのかも知れませんね。


 テーマのある場合、何故それが物語ではなくてはならなかったのか。そこはやはり考えてみてもいいのかも知れません。伝えたい事があるだけなら、わざわざ物語にする必要などないのです。論文でも、エッセイでも、日記でも、とにかくそれを言葉で直接伝えた方が早いでしょう。


 なのに何故、人は物語を通じてテーマを訴えようとするのか。多分その理由は人それぞれだと思います。執筆する人によって理由は様々でしょう。もしかすると、それは明確にこれだと断言してはいけない類のものなのかも知れません。

 ただひとつ言えるのは、物語にして語ると抵抗感が弱まると言う事が挙げられるのではないかと思うんです。


 直接語ると同意する人にはすっと言葉が入りますが、そうでない場合は真意が伝わらない可能性があります。反発してまるっきり拒否される事も有り得るでしょう。

 それを物語の中に仕込めば、そう言う反発もなしに感情移入と共にすうっとそのテーマが頭の中に入ってくる。苦い薬をオブラートに包んで飲むようなものです。そう言う効果があるのかもなと思ったんです。


 そう、小説とは、思想を伝えるテクニックのひとつ……なのかも知れません。飽くまでも、テーマが明確な作品についての個人的な意見なのですけどね。

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