恋とかいうあやふやな感情表現

星河夜空

1 面倒な転生

ザワザワ……


いつも通りの帰り道だった。

駅のホームに立って、電車が来るのを待つ。

片手でスマホを弄りながら、今夜の夕食のメニューを考える。


あの子は昔から料理とか家庭的な事が大得意だったから、毎日すごく美味しい料理を振舞ってくれる。彼もそこに惚れたのかなぁ。人間って胃袋掴まれると弱いよね。


ドンッ


「え?」


強く背中を押された。


一瞬の浮遊感の次に襲う、全身の痛み。


遠くで誰かの悲鳴が聞こえる。


視界に入るのは、投げ出された自分の手と、ひび割れたスマホと
































ブレーキ音を響かせて此方に突っ込んでくる電車だった――――






















「っ!?」


恐怖を感じて、私は跳び起きた。

心臓がドクドクと早鐘を打ち、嫌な汗がだらだらと流れる。呼吸も荒い。


ゆっくりと深呼吸を繰り返し、漸く今の現状を思い出す。


開けていた窓には小鳥が泊まっており、チュンチュンと鳴いていた。

私が近付くと飛んで行ったけど。


朝日が差し始めた空は眩しく、透き通る程綺麗だった。


コンコンッ


「失礼致します。まぁ、もうお目覚めでしたか?」


寝室に入ってきたメイドに頷き答える。


「では、直ぐにお着替えを」


メイドに促されるまま、寝間着を脱ぎ、ドレッサーの前に座る。

鏡に映るのは18年間見続けた、薄い金髪にブルーサファイヤの瞳を持つ、人形の様な公爵令嬢。


あの時、私は誰かに背中を押され、電車に轢かれて死んだ。

次に目覚めた時、私は魔法が溢れかえるファンタジー世界に転生していた。

しかも、乙女ゲームの悪役という面倒な立ち位置で。


シルエ・メーディ


それが私の今の名前だ。

この世界で一番大きな大陸の中心から南に向かって広がる大国・クロセス国。

私がいるのは、クロセス国王都の王立ファミリア学園の寮。


寮といっても、日本の一般的なこじんまりした部屋ではなく、無駄に広く、寝室と客室とトイレと浴室が全部バラバラにあり簡易キッチンまで付いているマンションの様な部屋であった。


まぁ、私の実家が公爵家ってのもあるだろうけど。


この世界、瞳の色で魔力――魔法を使うための燃料もどき――の量が決まる。

青は高・金と銀は中・その他の色は低と別けられ、更に濃さによってランクが変わる。


まぁ要するに、シエルこと私は魔力が異様に高いのだ。


そのお陰で家族や使用人たちが甘やかす甘やかす。

10歳の時点で教師の魔術師に逆に教えを請われた時は家がフィバー状態。


まぁ、弟は快く思わなかったみたいだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋とかいうあやふやな感情表現 星河夜空 @kokoroutusi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ