第12話開け! 俺の禁断の左目。邪気眼解放......は、恥ずかしい

 静まり返る中、俺はジョンと向かいあっている。距離的に二十五メートルあるかないかくらいだろうか。


 場所はギルドの地下演習場と言われる場所だ。

 広さは、学校の体育館をイメージしたら良いだろうか? それぐらいの広さがある。そして、床は土で出来ていて、少し高い位置に観客席が用意されている。

 そこには、アリシアとミル、そして受付嬢のユリスさんがいる。


「トオルさま、がんばってー!」


 ミルから声援が聞こえてくる。いつもみたいな無邪気な声じゃなく、心配そうな声色をしている。


 ここで、絶対勝つ!って言ってやりたいが、はっきり言って、まず勝てないだろう。でも傷を付けることぐらいなら......


「では、トオル。準備はいいか?」


「ああ」


「では、コインを投げてそれが地面に落下したら始める。いくぞ」


 コインを高く投げ、構えを取るジョン。それを真似するように俺も構える。構えるって言っても、貸し受けた模擬戦用の木刀のような物を構えるだけだ。こんな時のコイツ投げは、ものすごくスローに感じるな。


 その間に、色々と作戦を考えてみるが出来ることが少なく、一つしか思い付かない。


それは「電撃」を浴びせることだ。『雷魔法1』でも、スタンガンぐらいの威力がある。何とか浴びせることが出来れば、いいんだが。


 ちなみに、これが今現在のステータスだ。



『カミヤ・トオル』


種族: 人族(異世界人)


職業: 未定


Lv: 2


能力値: 攻 12

守 10

魔 10

  魔防 5

速 20

運 3


魔法: 雷魔法1


スキル: 鑑定1


ユニークスキル: 



 前回に比べて、『雷魔法1』が増え、能力値がちょっと上がっただけだが、勝機があるならこれしかないだろう。



 そしてついに、コインが地面に落ちる。その瞬間だった。ジョンが一瞬ぶれ、俺は何をされたのか分からず吹っ飛ばされる。


「グハァ?!」


 口から色んな物が出そうになる。腹が何故か痛い。殴られたのか? 蹴られたのか? 魔法を使う隙もない。


「おいおい、この程度か? これなら赤ん坊の方がマシじゃないのか?」


 そんなわけないだろう。と悪態を付きたいが、声が出ない。あまりの痛みに何もできない。だいたい、能力の差があるのに大人気ないだろ。それに、あんなに速く動くヤツに対して、どうすればいいんだ。


「まだまだいくぞ」


 それからはただの地獄だった。蹴られ殴られ、骨も折れているかもしれない。そんな中、メイドの二人が何度も助けに入ろうとするが、俺はその度に立ち上がり睨み入れさせない。


 体がボロボロだが、でも立ち上がる。


「降参しても、いいだぞ。何だか虐めているみたいじゃないか」


「うるさい!.....降参なんか......するかよ」


「あっそ。だが、俺が言うのもなんだが無謀すぎたな。終わらせるぞ」


 ジョンは冷たい目で俺も見て再び一瞬で、間合いを詰める。そして、殴りかかろうとした時、俺はタイミングよく発動させる。ずっと、待っていたこの瞬間を狙って。何度も殴られ見つけたタイミングを狙って。


 体から微弱な電気を出し、ジョンにくらわせる。その際に、殴られ吹っ飛ばされそうになるが木刀を地面に差し止まり、振りかぶる。


 きっとジョンは電気で動きが一瞬止まってくれているだろう。


 だが、俺の考えは虚しく終わる。


「その程度で止まるわけないだろうが!」


 ジョンはまるで効かなかったように、そこから俺を殴り付ける。


「っ、」


 俺は吹っ飛び、地面に倒れる。やべぇ、完全に動けない。意識も朦朧としてきた。周りから聞き慣れた二人の声が聞こえている。


 もう、駄目か。俺はここで意識が無くなった。


ーーー

ーー


 な、わけないだろ。ここで、諦めるのか。駄目だろそれじゃ。いつまでも二人にお世話になりっぱなしになるのか? 違うだろ。立てよ! 俺。立たなくちゃいけないだろ。


「ほう、まだ立つか。今回も勘が外れてないかも知れんな」


 何を言ってるのか分からない。だけどこのままじゃ終われない。


 俺は立ち上がり、ジョンを睨む。もう、この際だ。情けなくみっともなく向かうだけだ。


 その瞬間だった。頭にノイズが走る。


『ユニークスキル解放。スキル名: 『パーソナル・スペース』が使用可能になりました。 一時的に『適応』が使用可能になりました』


 なにかは知らないが、ユニークスキルが増えたらしい。だけど、何で増えたんだ? まあ、いっか。今はジョンだけに集中だ。


『ユニーク・スキル『適応』発動。今現在の状況に適応します』


 再びノイズが走り、勝手にスキルが発動される。『適応』のスキルは、慣れない状況に適応すること。


 俺は今、『異世界』という未知の世界と『戦闘』という未知の状況に適応する。


 すると、わずかながら能力値が上がった気がした。いや、気がしたのではなく上がったのだろう。

 目の前のジョンは何やら驚きを隠せないのか、目を見開いている。


「おいおい、何の冗談だ?! さっきとは別人格じゃないか」


今の言い方だと、前よりは強くなったのだろう。俺でも分かる。不思議と思考がクリアになっていて、どうすれば傷を付けられるか見えてくる。


 だが、先程ボコボコにされた影響で体力がない。決めるなら、一発だけだろうな。


 俺は、木刀を拾い上げ構える。そして、全速力でジョンに向かう。前より、明らかに速くなっているのが分かるが、これではダメだ。簡単に避けられるだろう。


「おい、そんなんじゃ当たらないぞ」


「分かってるさ。でもこれなら」


俺はジョンの目の前で木刀を振りかぶり雷の魔法を解き放ち、フラッシュを起こす。一瞬だけ視界から消えるために。


「だから、無駄なんだって、おい?!」


 ジョンの驚く様な声が聞こえる。それはそうだろう。俺はフラッシュと同時に木刀を投げていたのだから。


 だけど、俺の体力もここまでみたいだ。


 ジョンの慌てる声を聞きながら俺はゆっくり倒れ、今度こそ意識が途絶えるのだった。

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