第11話 ギルドマスターのイメージって、おっさんかイケメンの青少年みたいなやつしかないんだが、ハゲの中年おっさんはいないのだろうか。えっいる?

「いや~、誤解が解けてよかったよかった」


「暑苦しいのですが」


 助けてください。


 俺は今、おっさんことギルドマスターに肩を組まれています。


 結局、なんだかんだあり誤解をとくことに成功したギルドマスターは俺を逃がさないように、肩を組んでいるわけだ。


 そして、俺は不快な想いをしているのだ。おっさんのゴツい肌が首にかかる妙に熱っぽい感触を感じることによって。


 くそ、せっかくなら綺麗なお姉さんにやって貰いたかったな。何が悲しくてこんな野郎と。


「でも、お前のせいで大変な目にあったな。だが、何故かお前とは気の合いそうな気がする。だから許してやるよ」


 ギルドマスターは「グハハ」と荒く笑いながら俺を解放してバシバシと背中を叩く。

 痛いのですが。ものすごく痛いのですが。訴えますよ?


「トオルさま、よかったね。許してもらって。ミルも安心したよ」


 そんなことを言い、ミルは笑顔でニコニコしている。ああ、ミルはいい子や。癒されるし。


 そしてアリシアはと言うと、


「ご主人様、笑です」


 こちらも笑顔でニコニコしながら、親指を立ててこちらに向けている。どちらも笑顔なのに、どうしてアリシアからは悪意しか感じないのだろうか。


「でも何でおっさんは、全裸で土下座なんてしてたんだ? そのせいで、勘違いしてしまったんだが」


「勘違いする意味は分からんが......まあ、ついつい彼女の尻を触ってしまってな。そしたら、鬼の形相で怒ってくるもんだから、仕方なくな」


 なんてアホなのだろう? ついつい、触る?

そんなことしたら怒るのは当たり前だろう。確かに、触りたい気持ちは分からなくもないんだがな。


「あなた達もマスターは変態さんだから、近付いては駄目よ」


「はーい!」


 俺達から距離を置いたところで、先程の受付嬢、名前はユリスと言うらしいが、ユリスさんがアリシアとミルにギルドマスターの危険性を語っている。部下から信頼がないって、ギルドマスターとしてどうなんだろうか?


「で、おっさんに「ジョンだ」」


「ジョンさんにお願いがあるんですが」


 俺はせっかくなので、ギルドマスター改め、ジョンに本来の目的である『職業』の変更とついでに冒険者登録を申し出る。


 これで、俺は無職から抜け出せるだろう。

 この世界に来てからアリシアに、無職無職言われ続けてきたのがやっと終わるのだ。何度、涙を吹いたことか。


「ガハハハ、別にいいぞ」


「本当か!」


 ジョンに対して、あんなに無礼を働いた気がするが許可が降りる。よかった。ジョンはいいやつだな。


「ただし、条件がある」


「え?」


 ジョンは根に持っていたようだ。いいやつだなって思った一瞬を返せ。


「俺と模擬戦をしろ。それで俺にかすり傷でもつけることが出来れば、職業も冒険者の登録もさせてやるさ」


 そんなことを言いながら、「グハハ」とジョンは笑う。


「おい、俺は戦闘に関しては素人だぞ。そんなの」


「なら、諦めな。別にしなくてもいいんだぞ」


 これは積んだかもしれない。いかにも冒険者って風貌をしているジョンに傷をつけるなんて無理だ。こっそり、『鑑定』をしてジョンを見てみたが、スキルのレベルが低いのか分かる内容が少なかった。


 その内容は、


『ジョン』


種族: 人族


Lv: 45


職業: 魔纏士


能力値: 不明


スキル: 不明


魔法: 不明


 これだけの情報しか分からず、全く使えない。もしかしたら、俺に気を許している相手等に対してはある程度覗けて、その他の人は『鑑定』のレベルが高くないと覗けないのかもしれないな。


 だけど、職業の『魔纏士』を見る限り、ヤバそうだ。勝てるわけない。


 俺が持っているスキルや魔法は全くなく、唯一道中で覚えた『雷魔法1』しかない。でもレベル1じゃ、せいぜいスタンガン程度の魔法しか使えないことも検証している。


 どうする。


 そんな絶望の状況の中、黙っていないもの達がいた。


「何をやらせようとしてるんですか! ふざけないでください」


「ふざけるな! 殺すよ」


 メイドの二人、アリシアとミルだ。アリシアは普段の馬鹿にしたようなからかいはなく、真面目に怒っている。

 ミルは口調もかわり、尻尾と猫耳をピンとたてて、凄まじい殺気を放っている。その殺気で、周りの冒険者達が静まり返るぐらいだ。


「嬢ちゃん達は、ヤバイな。たぶん、俺より強いんじゃないか?」


 確かに元々性能が高いメイドであるため、あり得るかもしれない。


「でもな、これぐらいの逆境を乗り越えれないようじゃ、いざ一人になった時に、自分の身を守れないぞ。

 それにさっきはかすり傷を付けたらなんて言ったが、実際はどこまで出来るか見る程度だ。場合によっては、傷を付けなくても合格にしてやる」


 俺は、はっとする。確かに、このまま二人に頼りきりじゃ、この世界で暮らすのは難しいかも知れない。


 それに、強くなろうって熊に会った時、決めたじゃないか。なら、


「わかった、やるよ。だから受けさせてください」


「ご主人様?!」


「トオルさま?!」


 アリシアとミルは驚き、そして悲しそうにしている。すまないな。でも、これだけは譲れない。


「おう、いいぞ。なら地下演習場に行くか。誰か、案内してやってくれ」


 そして、俺にとって分岐点となる道を選んだんだった。






「どうして、あんなことを言ったんですか?」


「ん、なにがだ?」


 トオル達が案内されて、地下演習場に降りて行き、その場にまだいるジョンに受付嬢のユリスが近付き、言う。


「模擬戦のことです。別に、職業の変更ぐらい」


「アイツは化けるぞ」


「え? まさかまた見つけたんですか?」


 ジョンの言葉に、驚くユリス。ジョンは時折、出世する者を勘で見抜いたりするのをユリスは知っている。そしてジョンは、今回も勘でトオルを評価する。


「アイツは、たぶん異世界人だ。だが、アイツには力は特に感じられなかった」


「なら、化けるなんて」


「だがな、俺の勘が告げるんだよ。アイツはとんでもないヤツになるってな。だから勘を信じるさ」


 はあ~、と溜め息をついてユリスは仕方ないなとジョンを見る。


「なら、程々にしといてあげてくださいね」


「分かっている。半殺し程度にするさ」


「ちょっと、それは危ないですってー」


 これが後に、トオルを世界を揺るがす程の男にする切っ掛けになるのだが、この時はまだ、誰も知らない。

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