第10話 女性に頬を叩かれる。実際にそんな体験をする人はどれほどいるのだろうか?

「アリシア、ミルを!」


「はい、ご主人様。ミルは見てはいけません。目に毒です」


「えっ、あ、はい」


 俺とアリシアは閃光の如く、ミルの目を隠し、この光景を見せないようにする。ミルの教育に悪いしな。


 それにしても、何だこれ?


 おっさんの全裸の土下座。これはいったい誰に対してのご褒美だろうか。まず、俺に対してのご褒美ではないのは確かだろう。周りを見渡しても、その光景を面白がって見ている冒険者らしい人達だけ。では、いったい誰?


「ご主人様、それは関係ないと思いますが」


 アリシアが苦笑しながら俺を見ているが、もしかしたらってあるだろ。ご褒美かも知れないだろ。

 だけど、俺はこんなのを見て喜ぶ趣味はない。アリシアとミルに対しての物ではないだろう。なら、土下座されている女性のご褒美か?


 俺は女性を見てみる。朱色の髪を肩まで伸ばした髪。整った顔立ちで、きっと美人な部類に入るだろう。

 そしてエプロンのような服を着ている。


 カウンターには同じような服を来ている人がいるので受付嬢ってやつではないだろうか。


 それにしても、綺麗な肌をしているな。アリシアやミルも綺麗な肌をしているし、もしかして、この世界の人は肌がみんな綺麗なのか? ならば、是非素足で......


ギロ。


 なんかものすごい目で、とある人物から見られた気がしたため考えるのをやめた。怖いし。


 改めて女性を見ると、怒ったような表情をしている。これを見る限り、女性のご褒美ではない。

なら、誰だ?


 俺の視線は最終的に全裸のおっさんに向かう。


 もしかしたらこのおっさん、喜んでいるのではないだろうか? そうに違いない。

 土下座していて、表情を見ることは出来ないがきっと顔を歓喜に歪んでいるだろう。

 そして、「グヘヘ、たまらんな~この視線」なんて考えているのだろうか?


 コイツは変態の極みだな。


「ねぇ~、まだ~?」


「ミル、もう少し待ちなさい。それにしてもご主人様は......」


 ミルは目を手でふさがれ、くすぐったいのか手を退かそうとしている。アリシアはミルの手を払いながら、俺を哀れみの目で見てみる。


 何だよ、まったく。俺は間違ったことを思っていないぞ。


 そんなことを思いながら、俺はおっさんに近付き、肩を叩く。


「おっさん良かったな、ご褒美だろ?」


「はあ?」


「え?」


 その瞬間、本当に一瞬だが時間が凍り付いたように感じた。周りで面白がっていた冒険者達も静かになる。


 そしておっさんは、


「はあ?!! 違うからな、マジで」


 全裸なのに、立ち上がり怒鳴り散らす。その結果、


「キャーー!!!」


「おい、あいつにはご褒美になるのかよ」


「最低なんですけど」


「ないな~、あいつ」


「ウホ、いいカラダ」


 もはや、カオスだった。俺はとんでもない扉を開けてしまったのかも知れない。おっさんの禁断の扉を......


「ご主人様、どうするんですか? なんか、大変なことになっていますよ」


 あのアリシアですら、困惑した表情をしている。俺は彼女のこんな顔をしているのを見たことない。それほどまで、この状況は凄いのだろう。


「えっ? どうゆうことです?」


 そんな中、ミルは目を塞いでいた手を払い、全裸のおっさんを見ていた。そして、困惑して「キャ~♪」なんて言いながら顔を手で覆い、指の隙間から覗いている。


 このお年頃は全てが楽しいのかも知れない。何だか、楽しそうである。


「もう、そんなことを考えていたのですか!!!」


「いや、違うんだ。誤解だ!」


 土下座されていた女性は、顔を真っ赤にして先程より怒りを顔に表している。

 まあ、怒っているのにご褒美だったら怒るわな。


「いい加減にしてください!! マスター!」


 そして、大きく振りかぶった手でおっさんの顔を叩く。そして良い音がなり、大きな紅葉模様が頬に出来ている。


 素晴らしいスナップだな。あれは手練れだな。


 なんてことを考えながら、ふと思う。......マスター? って言わなかったか?


 もしかして、


「ギルドマスター?」


 そう、この全裸の変態はギルドマスターだったのだ。

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