第7話 意志がある生物すべてに黒歴史って存在すると思うんだけど、どうだろう。お、俺にも黒歴史あるし
熊との激闘から一週間。俺達はまだ、森の中にいる。そう、未だに迷子なのだ。
もう、野宿したくない。洋式トイレに座ってホッとしたい。部屋で寝たいの気持ちで一杯だ。
えっ? トイレは関係ないだろって?
バカヤロー! 意外と落ち着く瞬間だろうが!
まあ、それは置いといて。
あれから分かったことがある。一つは、ミルの『時空魔法』についてだ。
『時空魔法』には『収納』と言う便利な生活魔法があり、そこに何でも仕舞うことが出来るそうなのだ。
最初は、この世界に来て戸惑いがあり気にもしなかったが、野宿に関しての道具や食料、テント等はそこから出していたのだとか。
ちなみに、戦闘時のミルの刀は『収納』から取り出したらしい。
「すごいでしょー♪ トオルさまの荷物もちゃんとしまってあげるからね」
「おう、ありがとな」
本当にミルは良い子だ。このまま、邪に染まらず成長して欲しいものだな。
となるとだ。『時空魔法』の使えないアリシアはどこから鞭を出したのかと言うと、
「乙女の秘密ですよ、ご主人様。ご主人様も秘密があるじゃないですか?」
「何があるってんだよ?」
乙女の秘密らしい。そして、俺に秘密があるなんて言いやがる。俺には秘密なんて。
いや、あるか。
あれは小学五年生の時、好きな女子の机の上の匂いをこっそり嗅いでたことか? でも、あれは誰にも知られてないはず。
ならあれか。
あれは中学生の時、木刀やらメタルチックな指輪をはめたりして、「黒魔絶斬」やら、「闇に抱かれろ。ダークフレア」とかを叫んでいたことか?
てか、そんなことコイツらが知るよしもないじゃないか。ふぅ~、なんか焦ったぜ。
「なにやら、面白いことを考えていたようですが違いますよ」
「だから、な、なななにも秘密なんて」
「ご主人様が、私の自慢の胸を思い出してテントで何かをしているのを秘密にしていると同じですよ」
「ちょ?!! 、そんなことしてないから。マジで!!!」
アリシアは胸を隠すような動作をしながら言ってくる。
なぜそのことを知っている。あれは一回しかしてないのに。思わず、テンパって返してしまったじゃないか。
「ねー、トオルさまは何してたの? 楽しいこと?」
さらに追い討ちをかけるように、我らのアイドル、ミルが疑問に思ったことを聞いてくる。
その質問に俺は、ビクッと体を震わせてあさっての方向を見る。時には、子供の質問は大人を傷付けるのだ。
まだ幼い彼女には察することは出来ないだろう。そして、何をしていたのかなんて、知らないのだから分かるはずもないのだ。
ここで本当のことを言ってしまうと、ミルの教育に悪い影響を与えかねない。きっと、素直に知識として吸収するだろう。スポンジのように......
俺は再びミルを見る。ミルは、「まだかな、まだかな」と言っているかのように目をキラキラさせてこちらを羨望の眼差しで見ている。
「うっ」
眩しい。ミルが、こんなに眩しく見えるなんて。
「ご主人様、早く教えてあげたらどうです? 質問されたご主人様の口からはっきりと」
「くっ」
アリシアは楽しんでるかのように、クスクスと笑っている。くそー、上手く誤魔化すしかないか。
「ミル、あれはな」
「はい」
「お前にはまだ早い」
「えっ?」
ミルはまさかの答えに固まる。そして、目をウルウルさせて猫耳をぺたっと倒し、尻尾もダラーんと倒して、何で? と悲壮感漂う暗い雰囲気で俺を上目遣いで見る。
辛い。こんなコンボは反則だろう。だけど、俺の尊厳に関わることだからきちんとやりとおすぞ。
「これは難しい問題なんだ。この質問の答えを知るには、ミルが大きくなって、立派な淑女でレディになってからじゃないとダメなんだ。
今のミルはまだ幼い子供だろ。だからミルがせめて、あと十年位したら教えてやる。ミルは偉い子だから出来るだろ?」
もう、既に自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。でもいいんだ、これで。
だって、ほら。
「はい、分かりました。立派なレディになります。ミルは偉い子ですから」
ミルは満面な笑みで胸を張り、言う。
うん、誤魔化せた。とりあえずは安心か。
そんなこんな無駄な話をして森を進んでいたわけだ。
そして、もう一つこの森を進んでいる間に分かったことがある。俺の魔法の適性だ。
なんと、俺の魔法に対する適性が『雷魔法』以外ほぼないらしい。これはミルとアリシアに教えてもらい判明したのだ。
ミルが『収納』している、ある魔法道具の水晶に、魔力を流して水晶の色の変化で分かる方法なのだが、黄色に染まって変化がなかったのだ。
まあ、魔力を今まで流したことなくて量が少なかったのかなと思い、教えて貰った方法で魔力をさらに流してみたところ、
「ご主人様、それは無駄な努力ってやつですよ」
と、馬鹿にされて終わったのだ。火の魔法とか闇の魔法とか使いたかったな。
でも、これが悪いことだけではないらしい。これを見てミルなんて、
「すごーい!、すごいですよ。トオルさま!!!」
と、はしゃいでいたぐらいだ。実はこの適性を『単一』と言うらしく、かなり強い魔法が撃てるらしい。
まあ、あまり期待し過ぎずにしておこう。期待しまくって、後でショボかったらいやだし。
てな感じが分かったことだ。
そんなこんなでついに道に出るのだった。
「やっと道に出たな」
「やっと道だ~♪」
そう、きちんと人の手で整備されたような道に。
長かった。本当に長かった。
だけど、道に出たってことは人が住んでる場所があるはずだな。よし、やる気が出てきたぞ!
「ご主人様、さっさといきますよ。この先に都市『ベルトラ』がありますから」
「おう! ......て、道知ってたの? アリシアさん?」
「知ってますがなにか?」
このメイド、やはり知っていたらしい。でも、いいや。それより、さっさと先に進むとしよう。
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