第6話 熊ってこんなに弱かったけ?
燃えるような真っ赤な熊。これを見て、ビビらない人はいないのではないだろうか。
「トオルさま、下がって」
「ご主人様、下がりなさい」
メイド二人は俺の前に立つ。その姿は不思議と頼もしく感じた。お、お前ら平気なの?
明らかに冒険の始まりにエンカウントするヤツじゃないじゃん。普通はスライムとかだろ。
勇者だって最初はスライムとかコウモリみたいなヤツと戦って、俺最強みたいな乗りで魔王討伐に向かうんだぞ。
こんな強そうなやつは、チート持ちだけが最初にエンカウントするべき敵だろ。
「あれは、『グリードベアー』です。ランクはAですね」
「ランクA?!!」
アリシアが熊の名前を告げる。てか、ランクってなに? よくある設定で強さを表すってやつか? それならヤバイだろ。どうするの、これ。
「と、とととりあえず、鑑定っと」
俺はグリードベアーを鑑定してみる。今は少しでも情報が欲しいからだ。そして、鑑定結果はこれだ。
グリードベアー
ランク: A
Lv: 55
能力値: 不明
属性: 火
... ... ... ...まったく、やくにたたねぇー。
使えないにも程があるぞ。きっとスキルのレベルが低いからなのだろうけど。
「さ~て、トオルさまに良いところ、みせちゃうぞ」
「そうですね。ご主人様に私達の力を見せてあげましょうか」
メイド二人、ミルとアリシアはどこから出したのか分からない武器らしい物を持ち、笑顔でグリードベアーと向かい合う。
ミルが持っているのは、髪の色と同じ、真っ黒な刀だ。いや、刀の方が色は濃そうだ。
まだ、幼いミルの身長には不釣り合いな長さの刀。一体どのように振るのだろうか? それより、ミルはこんな化け物を見て怖くないのだろうか?
「ご主人様、ミルは"へなちょこ"のご主人様と違って、強いですよ」
「へなちょこは余計だ」
俺の考えていることを読んだアリシアは、少し馬鹿にしながらミルの強さを語る。
まあ、強いのは持っているスキルから分かるけど、どうしても外見を見てしまうとな。
そして、アリシアが持っているのは鞭だ。スキルからそうだろうなとは思っていたが鞭なのだ。どこも変わったところはない皮の鞭だ。
えっ? 他に説明はないのかって?
だって説明する事ないし。でも強さはこちらもスキルの質から分かる。きっと強いんだろうな。
「では、いきます」
それは唐突だった。アリシアが鞭を振り大きな『胸』を揺らし、ミルが気付いたらグリードベアーの後方に居て刀を振り、『尻尾』を揺らす。
その光景は凄まじかった。一瞬、本当に一瞬だが『胸』と『尻尾』に視線がいってしまったが凄かった。
おい、二人のそんな情報は聞いてないぞ? だって?
だって言ってないし。べ、別に忘れてたわけじゃないんだからね。ちょっと、それどころじゃなかっただけなんだから。
さて、話を戻す。
なんと、二人の一瞬の行動によりグリードベアーの両腕が無くなったのだ。
片腕は綺麗に切断され、片腕は肩の付け根から千切れている。
「ぐぁぁおぅぉ!!!」
最初、何が起こったのか分からず睨んだままだったグリードベアーも、やっと何をされたのか理解して痛みに声を荒げる。
だが、ここで傍観しているメイド達ではなかった。
「まだまだ、いくよー」
ミルが刀をグリードベアーに向け、また瞬間移動のようにグリードベアーを通過する。すると、グリードベアーは細切れのように切り刻まれる。
「......ミル、強いな」
俺はグリードベアーに少し同情してしまった。先程まであんなに怖かった熊が、今ではなんか可哀想である。
「これでは森が汚れてしまいますね。『ダークホール』」
「え?」
そんな状態の熊に、アリシアが何か呪文のようなものを唱える。
すると、熊を包むように黒い穴のようなものが現れる。そして、穴に吸い込まれていき、辺りには静かな風の音しか残らなかった。
熊よ、御愁傷様です。
「トオルさま、どうですか? ミル、強いでしょう!」
「ご主人様、これが私達の実力です」
「ウン、スゴカッタ」
きっと、俺の顔はひきつっているのだろう。片言になってしまう。そして改めて思う。
俺はこの二人の主として務まるのだろうかと。
それから二人のある部分を見て、せめてその『部位』だけは守り通せる位には強くなろうと決めたのだった。
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