無駄話
「なぁ、あれ
「えぇ、そっくりさんだろ」
「でもすっごい似てない? 最近TVとか控えてたけどさ」
「じゃあ隣のあの子、誰? 弟?」
目黒駅の東口前。ケータイを弄る帽子を被った女の子を見かけた通行人が、皆同じ話題で噂する。その噂を聞いていながら聞こえてないフリをする女の子の口から、我慢の限界を示す溜め息が漏れた。
女の子の手を握る少年が察して、グッと手を引く。
「お姉さん大丈夫?」
「……うん、大丈夫だよ。ただ、ちょっと目が、ね……」
まだまだ新人の頃、何だこいつという冷たい目で見られたことは幾度もあった。だがこうして、まるで不審者を見るような白い目で見られたことはなかった。だから怖かった。
冷たい目にはまだ、見てやろうという部分があった。だから認めてもらえれば、温かな目で見てもらえた。
だが白い目にはそれがない。敵か悪役と決め付けて、自分とは相容れないと決め付けて、自分の枠組みから完全に外している。だからもしそこに行けば容赦なく突き放されて、知らん顔をされるんだろう。
そう思って、怖くなった。
「お姉さん?」
「……大丈夫だよ、
「あ?」
ジッくん――
切り捨てたアテナの左腕が、気泡が割れるような気色の悪い音を立てながら生えていた。生えたばかりの手を握ったり開いたりして力の具合を確かめ、アテナは気に入った様子で口角を少し持ち上げた。
対照に清十郎の口角が引きつる。
「あぁあ、とうとうこのゲームも現実離れの産物に成り下がったか。二次元能力のバトル展開にはならないとか思ってたんだがなぁ。いつかは何? 時限の扉とか開くのか?」
「……なら一言言わせてもらうが、喧嘩上等で横浜の地を歩き、拳一振りで敵を気絶させる高校生の方が、現実離れの産物だと思うのだが。いかがだろうか」
「そうでもねぇよ。プロのボクサーが何年も特訓して自分の拳を凶器に変えてるのと、理屈は一緒だ。喧嘩して喧嘩して、自然と拳を鍛えていけば、人間を悶絶気絶させる凶器にだって拳は変わる。だがてめぇのそのピッ○ロ並みの再生能力は、そういうのじゃねぇ。だから現実離れだってんだ」
「なるほど、一応理屈はあったわけだ。確かに私の
「そりゃあな。ここは学○都市じゃあねぇんだ。そんなのが手に入るなら、みんな面倒がらずに努力してる!」
清十郎が殴りかかるのを、アテナは軽くステップを踏んで避け、膝蹴りを脇腹に叩き込む。
だが負けじと地面につきかけた片膝で、アテナの腹を蹴り返す。追い討ちで伸ばした拳がアテナの頬を捉えたが、同時にアテナの拳が自分の頬に叩き込まれた。
お互い、地面に片膝をつきそうでつかない程度に揺らぐ。
「フン、今の軽い攻防のダメージも、てめぇはあっという間に回復か? それとも、ダメージや体力は回復出来ないなんていう上限があるのか? え?」
「フン……余程のマンガ脳と見える。これは私の能力ではない。あらゆる怪我を回復する、という珍しい個性があるだけだ」
「個性も能力だろうがよ、大体――?」
清十郎は言葉を詰まらせた。
アテナの髪が伸びていく。肩までだった赤い髪は背中を覆い隠して床に届き、彼女の足元で広がった。前髪は顔全体を隠し、わずかにその下から覗く目が、清十郎を睨みつけた。
「何だ?」
「気にしないでくれ」
取り出したナイフで、前髪も後ろ髪も適当に切り落とす。伸びる前より少し短くなった髪を指ではさみ、不満足そうに見つめる。切りすぎたようだ。
「腕を生やすほどの回復の後、何故か伸びる。気にしていてはきりが無い」
「あっそぉ。ってかもう、こりゃあ作者やっちゃったフラグだな。ここまで来ると、もう皮肉も何も思いつかねぇわ。マンガとか小説なら、読者にやらなきゃよかったって言われるだけだしな」
「それは私を愚弄しているのか」
「少なくとも、こんな展開にした神様を恨みこそするな」
清十郎が拳を構える。
風でも起きそうなほど殺気を放ち、口角を持ち上げながらファイティングポーズでアテナを威圧した。
「最後に聞くぜ、戦いの女神。おまえは何故戦う? やっぱこう、神に何かしらの恩があんのか?」
「恩か……間違ってはいない。私はこの奇妙な体故、回りに気持ち悪がられ、拒絶されてきた。それを救ったのが神だった……あの方の正義に、私は一生を捧げる。その正義を邪魔するのなら、容赦はない」
「……そうですか」
「
「あぁ……覚悟しろよぉ?!
清十郎の拳が、アテナの刃が、互いに振られる。
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