力になってください

 ダメだった、また……。


 また何も出来なかった。


 二人を助けようと飛び出して、法律無視して銃を撃った。


 そう、人の腕や肩や脚や腱を撃った。


 床いっぱいに鮮血を溜めて作り上げた池の中央で、換気扇に送り込まれた風を体で受けて思った。


 清清しいと。


 ハッキリした、自分が狂っているということに。


 正当の理由をつけて邪魔者を消し去り、相手が勝手につけてくれた怒りの炎を素直に燃やして暴れ周り、化け物のように殺戮を続けて、全てを排除した後に何も残らないことを清清しい?


 やはり狂ってる。


 自己中心的もいいトコだ。


 前は、自分が孤独の中にいるという寂しさから暴走した。


 だが今、誰も彼もいなくなって心地よくなっている。


 わからない、何も……この矛盾の意味も。


 今はどうなんだ? 


 冷静になって、今はどう感じてる?


 ……ダメだ、わからない。


 結局何がしたいんだ?


 神を見つけるために邪魔者を消して、神を見つけて、人類滅亡を阻止して、いつもの生活に元通り、ハッピーエンド……。


 ハッピーエンド?


 人を殺して、それが正当な理由だと言って罪から逃れて、また殺して、許されて、どこがハッピーエンドなんだろうか?


 どうせその後、また人を殺すんじゃないのか?


 今度は正当な理由なんてなくて、本当に自分勝手に殺して、それでまた罪から逃げようとして、結局はそれでまた誰か消すんじゃないのか?


 だとしたら、俺――僕――斉藤光輝の生きてる意味ってなんだ?


 人をただ蹴散らす暴力と殺意の塊じゃないか。


 意味がない?


 意味がないなら?


 消す、自分を。


 この先僕がいたって、邪魔になるだけだ。


 結局また孤独になって、自分で自分を追い詰めていくだけだ。


 馬鹿馬鹿しい。


 一度だけ、考えたことがある。


 もしメールの参加者が途中で死んだらどうなるのか。


 そのまま所持者不在で続行されるのか、それとも参加者の一人が代行するのか、それとも……新しい人が所持者になってくれるのか。


 それだったら、次のEメールはいい人がいいな……そう、僕のような狂った人なんかじゃない。


 人のため、明るい未来のために動いてくれる人が。


 まぁ、こんな危険なゲームに参加させられるのは迷惑でしかないと思うが、それでもこの短い一生の願いで頼みたい。


 あやさんの力になってください。


「それは君がなるんだよ」


 え?


 誰かの膝を枕に、眠っていた。


 首に尖った管を突きつけて、固まる俺を見下ろしていた。


 目尻から、涙が流れ落ちた。

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