冗談ならば
「警部さん、何の用だろうね」
「さぁ、山手線全駅の爆弾解除のために掛け合ってみるっていってたけど……」
「許可が下りなかたデスか?」
「うぅん……わっかんない。とりあえず、行ってみようじゃないか」
だが心の中では、何とも言えない違和感を感じていた。
特に電話を受けた光輝の違和感は大きく、悪い予感すらさせられていた。
――少し、相談したいことがある。車を用意するから、それに乗って来てくれ
今まで用があれば勝手に来た人が、自分達を呼ぶ。
暗いトーンの声と感じた雰囲気に、疑いの目まで光りだした。
信じたい気持ちと闘わせながら、純警隊本部に到着する。
「二界道さんは……」
「七階の取調室です。エレベーターで向かってください」
「……わかりました」
違和感が、大きく膨らむ。
エレベーターで上階へ行くにつれてさらに大きく、部屋に入るとそれは鼓動をも早めるほどになった。
「来たか」
長椅子に座った二界道が、上目使いでこちらを睨む。
その目が笑っていないことには、誰でも気付けた。
「に、二界道さん、大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない。疲れてるだけだ」
「それで? 僕らを呼んだ理由はなんだい、警部さん。わざわざ危険も承知で僕らを呼んだんだ。それなりの理由がないと、納得しないよ」
「……まぁ、座れ」
二界道に促され、座ったその一瞬だった。
二界道の背後、部屋の扉、周囲を囲んでいたカーテンの裏から、銃を手にした純警隊の人たちが飛び出してきたのは。
全銃口が光輝達三人に向けられる。
「どういうことですか」
「……悪いな。こっちの都合で、おまえらのケータイを回収することになった」
「か、カイシュー……?」
「てめぇらのメールと、力を発揮するためのその身柄、こっちに渡してもらう」
「何を言ってるのかな? 冗談じゃすまないよ、拳銃なんか向けさせ――」
パァンッ!!
焦げた床と火を噴いた銃口から、煙がたなびく。
「冗談なら、拳銃なんか抜かねぇよ。冗談で拳銃持つ健全な人間はこの世にいねぇんだ」
「……二界道さん」
「?!」
光輝の手から、ケータイが天井近くに投げられた。
全員の視線がケータイへと向けられる。
ただ一人、投げた本人を除いて。
「……しまっ!」
二界道に飛び掛り、奪った拳銃を眉間に突きつける。
「彩さん!」
「わかってる!」
ティアの手を引いて逃げる彩のまえに、男二人が両手を広げて立ち塞がる。
だがその両手は何の躊躇もなく撃った光輝に撃たれた。
男の手が、手首からもげ落ちる。
「ヒッ!」
「止まるな! 走れ、ティア!」
宙に弧を描いて落ちたケータイをキャッチして、光輝の銃口は再び二界道へと向けられた。
二界道の顔に、悲しい笑みが浮かぶ。
「いいのか? あいつら、部下達が追っていったぞ」
「……今四発撃ちました。残り後三発であの人数は止められません。だから、ここで貴方達を止める」
彩達を追ったのは二十数人。
そして、今自分と二界道を囲んでいるのが三十数人。
その全てが銃口を向け、今か今かと撃つタイミングを計っている。
「何でですか」
「……上の命令だ」
「あなたは、間違ってることには間違ってると反対できる人じゃないですか!」
「さっき言ったろ、疲れたって。これ以上職を失くすわけにもいかねぇんだよ」
「そのためなら、彩さん達に銃を向けても構わないと」
「
「……ジャックさんは?
「殺すわけねぇだろ。まぁ、抵抗したんでちょっとばかし痛くしたが」
頭頂部に突きつけられた拳銃を握り締める。
そしてその銃口に、銃弾を放った。
破裂した拳銃が、純警隊の男の手を砕く。
「おい、こっちも訊きたいんだが……聞こえてるか?」
見開いた目には光が欠けていた。荒々しく震える呼吸が、獣の唸り声に聞こえる。
「おまえ、やたら銃の扱いがうまいが……ハワイでおやじに教わったか?」
「行ったことねぇよ、ハワイとか。知らねぇよ、クソおやじのことなんか」
(あ、ヤバイ……こりゃあ久々にキレたな)
二界道の胸座を掴み上げ、思い切りヘッドバッドを叩き込む。
頭を押さえてイスごと倒れる二界道に注意が欠かれ、隙が見えた部下の腕を膝蹴りで叩き折った。
またその手から、拳銃を奪う。
「壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺すっ!!」
容赦なく、戸惑いも無く発砲する。
銃弾は腕を、肩を、脚を撃ち抜いて、人間の動きをことごとく奪っていった。
撃った相手からすかさず拳銃を奪い、空になれば後ろに投げ捨てる。
二界道以外の三十数人が虫の息で倒れ、生臭い鮮血の池を広げた。
「冗談なら銃は抜かないんだろ? なら、ここで死んでも文句はないよなぁ?! 満場一致で壊してやる……覚悟改めろぉっ!」
光輝の咆哮に、鼓膜が震える。
溺れそうなほど赤黒い血の池に片膝をついて、二界道は部下数人を見回した。
「……本当に、どこでも習ってねぇのか? あんだけ銃を乱射しておきながら、誰も致命傷に至ってない。道具を持てず、動けないギリギリのラインだ。プロでも難しい」
「褒めたら許されるとでも? 人を散々脅しといて、調子いいですねぇ? 疲れたって言ってましたけど、肩撃ち抜いてあげましょうか?」
「出来れば、揉んで欲しいもんだがな」
(やっぱりこいつ……だが、もう遅ぇよ、
拳銃を抜くと同時に、光輝の右膝を撃ち抜いた。
悲鳴と共に崩れ落ち、光輝の額を汗が流れる。
「“早撃ち”って呼ばれててな。スピードで負けることはまずねぇよ」
「っそ……」
銃を持った手が撃ち抜かれた。
破裂した拳銃が、光輝の手を血塗れに引き裂く。
「悪いな。大人の事情ってのに、少し付き合ってくれや」
「ギィィッ!」
「御門と浜崎は捕まえた。後は、おまえだ」
捕まった?
「少々抵抗があったらしく、銃撃があったようだが……死んじゃいねぇから安心しろ」
撃った?
「あぁあぁぁあぁぁぁぁぁああぁあぁ!!」
「悪いな、斉藤」
無慈悲な銃声が、部屋中で鳴り響いた。
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