無事
純警隊が駆けつけたのは、
だが
流れる時間が、止まって感じる。
悔しくて噛んだ唇から、血がにじみ出た。
「……!」
「どうするつもりだ、それ」
高く振り上げたストラディバリウスが、力なく置かれた。
扉の前で腕を組む二界道が、光輝のベッドにドッシリと座る。タバコに火を点けようとして、躊躇した。
「話は聞いた」
「……彩さん、探すなっていってました。だから俺は、何もしません……俺は、神を探します」
「まぁ、そのために俺達は
「お任せします。彩さんは、戻りたがらない――」
「それでいいのか」
二界道の言葉が、光輝を振り向かせるしかし光輝はすぐに力なく俯き、自暴自棄になったかのような強い声を出した。
「よくなかったら、探していいってわけじゃないでしょ?」
ふと息を漏らした二界道は、胸ポケットから取り出したそれを光輝のまえにチラつかせた。
光輝の目を見開かせたのは、彩のケータイだった。
震える手で、そっと受け取る。
「今さっき、どこぞの業者から連絡があった。窓ガラスの注文を承ったが、サイズを聞いてねぇって」
「ガ……ラス」
「金はもう払われてた。御門彩の口座から」
「で、でもいつ――」
「わかってたんじゃないか?」
光輝の中の時間が、完全に止まった。時間が動き続ける二界道は、そのまま推測を語り続ける。
「ケーブルが切られてた。もしそれを御門が見たなら、想像出来たんだ。視線をずっと感じてたなら、自分達を狙ってそいつが侵入してくるってことが」
「そんな……じゃあ、何でそのことを言わないで――」
「おまえ達を襲った
「でも――」
「もう一つ。神のゲームが始まってから、この辺りじゃ中高生の行方不明事件が多発しててな。そこには必ず、
――彩のお陰でまた、新たな下僕を手に入れる
――メールアドレスを交換しましょう?
――私はQ、
「薔薇園万理のQueenメールが、送信した相手を従えるメール?」
「俺は、そう考えてる。現に俺は、相手に送信することで力を発揮するメールを、一つ知ってる」
二界道の脳裏によぎったのは、
以前同盟に誘おうとしたとき、呪うぞと脅されたことがあった。そのときは隣にいた
「もしその考えが正しければ、あのとき御門がおまえを要らないと言わなければ、おまえも操り人形にされてたんじゃねぇか?」
――手下にしたって、使えないさ
助けられたんだ。
あの言葉の裏の優しさに、見事に助けられた。
言葉の表面だけを聞いて落ち込んだ自分が、悲しく見えた。
なら今は?
今、彩は何て言っている?
「演技派の人間じゃない、か……確かにそうでした。今になれば、本当に演技が下手でした」
彩のケータイを見つめて、自然と笑みがこぼれた。
涙もこぼれた。
助けてくれないかと、軽く笑う彩の顔が浮かんだ。
震える彩のケータイを握り締め、光輝は立ち上がった。
タバコに火を点ける二界道に頭を下げて、部屋から出て行った。
「……追いかければ、おまえら参加者は外に出る。外に出れば、おまえらを敵だと思ってる連中に居場所がバレて、保護どころじゃあない。だから、あのときは追わせなかった」
携帯灰皿にタバコを擦り付けて火を消すと、口の中に溜めていた煙を一気に噴き出した。
「準備してろ、送ってやる。どうせ行くんだろ? 何せおまえの今の立場は、仲間の思いやりの罵倒に気付いて立ち上がる、主人公のそれだからな」
両方のポケットにEとGのメールを持つケータイを入れ、第一ボタンだけ外したシャツに、ネクタイを締める。
紺の上着に袖を通した光輝は、フッと息を漏らして拳を握り締めた。
「コーキくん?」
リビングで着替えた光輝のところに、ティアが駆けつける。
そのとき見せた光輝のぎこちない笑顔に、一つの覚悟が現れているのを彼女は察した。
「……ティアさん、ちょっと待ってて。晩ご飯までには帰るよ」
「……行っちゃうですか? ダメだよ、危ないヨ」
「わかってるよ。でも、俺達を守ってくれた人が今、危ないってわかった。だから行かなきゃいけないんだ」
「コーキくん……あ、アヤのこと……好きデスか?」
察していても心配だから、でも、気になってしまって聞いてしまった。そんな質問、意味がないというのに。
「……好きなのかな? よく、わからない。でも……」
「でも?」
「今は、無事が気になって仕方ない」
「……ソですか」
ティアの手が、そっと光輝の手を握り締めた。そしてその手に、自分のケータイを握らせる。
「わかた、待ってるヨ。コーキくんのスキなの作て、待ってるヨ」
「ありがとう」
二界道が下りてきたのを確認して、上着の胸ポケットに自分のケータイを入れ、空いたポケットにティアのケータイを入れた光輝は、一人出て行った。
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