君のことがまた

 神様捜索ゲーム開始から約十一ヶ月が経過して、参加者の半数が懸命に探し始めていた。だが、動くのは全員人間。無論、三年間フルで動けるはずもなく、故障する。


あやさん、大丈夫?」


「うぅん……風邪引いた」


 自分の席でグッタリしている彩に、光輝こうきが心配して話しかける。顔は真っ赤で、声は出るようになった矢先に酷い鼻声。フゥフゥと息を切らしていた。よくこんな状況で学校に来たなと、変に関心してしまう。


 帰りのHRまで頑張った彩だったが、その反動でもう立てないほどフラフラになっていた。


「ちょ、肩貸して……帰る」


「帰るって、どこ? 友達の家を回ってるんでしょ?」


「あ、うん……大丈夫。電車乗って、二〇分歩けば……」


 本当によく来たね!


 学校から一番近い駅までは、普通に歩いたって一五分程度はかかる。そんな歩かせたら死んでしまうと、光輝は肩を貸しながら周囲にバレないようそっと耳打ちした。


「俺の家にとりあえず……行く?」


「ぅん? いいのかい……?」


「まぁ、ティアさんの家とかの方がいいんだろうけど、俺の方が近いから」


「……恩に着るよ。いい友達持ったなぁ、僕は。じゃあよろしぅ」


 まさか一歩も歩けないとは思ってなかった。肩を貸して、一緒に歩くぐらいの心構えならしてた。でもまさか、おんぶすることになるとは思ってもなかった。


 歩くたびに火照った彩の体温と体重を感じて、自分まで火照ってくる。しかも自分のすぐ隣に顔があって、息が——いけない、速く帰らないとと、光輝は自分を急かして早足で帰宅した。


 ベッドに寝かせて、まずは一息。深呼吸を繰り返して、まずは落ち着く。昨日ふと掃除をしようと思い、結構本気でやった自分を変に褒めた。とりあえず彩に体温計を手渡して、計ってもらう。


 三九.二度


 本当によく学校来たよね! 彩さん!


 予想以上の高熱。病院に連れて行った方がいいんではないだろうか。だがおぶってもらわないといけない今の彩を外に出すと、こっちの気が持たない。


『今日は安静にして、ゆっくり休ませるといい』


 Eメールにもそう言われた。


 とりあえず市販の風邪薬を飲ませて、明日まで様子を見ることにした。


「風邪薬、どこだっけ?」


 風邪薬を求めて、リビングの戸棚を目指す。そんな光輝の後姿を、彩はボヤッとした視界で見つめていた。


 思えば光輝の家には何度も来たが、寝室に来るのは初めてだ。洗って干しても、太陽の匂いとでも言うべき匂いから、彼の匂いがする。手を握ってもおぶってもらっても何とも思わなかったクセに、彼の匂いを感じた瞬間ドキドキしていた。


 匂いフェチだったっけかな……僕って。だとしたらすこぉし、変態っぽいな……


 そんなことを思いながらも、匂いを嗅ぐのは変に止められなかった。嗅ぐ度に、ますます体が火照っていく気がする。


「彩さん、彩さん。風邪薬持って来たよ、飲んで」


「うぅ、うん……ありがとね」


 風邪薬を飲ませ、一度肩の荷が下りた光輝だが、その荷は再び肩に乗っかった。


「あぁ、うぅ……こんなこと、なるなら……着替え持ってくればよかった……汗でグショグショだよ」


「着替えって、言われても……だよなぁ」


 とりあえず、彩にはタオルを手渡した。だが体を拭けても、制服は汗で濡れて気持ち悪い。何せ、翌日もそのまま病院へ連れて行くわけにもいかない。何とか着替えられる服はないかとタンスの中を物色するが、Eメールに書かれていた着替えは、一つしかなかった。


「いいのかい?」


「仕方ないよ。逆にゴメン……パジャマとか貸せればいいんだけど」


「いや、ここまでしてくれるんだ。ありがたい限りだよ……本当に、ありがと」


 着替え中……完了。


「もういい?」


「うん、頼むよ」


 彩の制服を洗濯機に放り込んで動かし、了承を得て部屋に入る。光輝の制服に着替えた彩だったが、はやりサイズが合わずブカブカだった。袖に関しては長すぎて、指先しか出ていない。


「やっぱり大きいな、君のは」


「ゴメン」


「いいんだ……謝らないでくれ。こっちは迷惑をかけてるんだ。礼は言っても、文句なんて言う気も起きないよ。でも……」


「何?」


 彩はゆっくり体を起こすと、真っ赤な顔をして二カッと笑った。


「君の事、また気に入りそうだよ」


「……あ。え、えと、お水飲む?」


「あぁ、頼めるかい?」


 光輝が置いていったケータイを見つめて、震えたのを確認する。水をもってきてくれた光輝にそれを教えると、Eメールの内容を見た光輝がカァッと顔を赤くした。


「どうしたんだい?」


「え? いや、何でもないよ」


「えぇ、いいじゃないか。見せてくれよ」


「何でもないよ。もう彩さんを寝かさないとって書いてあっただけだから」


 そう言って彩を横にした光輝は、布団を貸してさっさと部屋を出て行った。Eメールの文章を読み返してまた赤くなった光輝は思わずソファーにケータイを投げつけて、さっさと掛け布団を広げて床に寝る。


『一緒の部屋で寝るといい。いざというときに動ける。それに君のことがまた、好きになってくれるだろうから』


 神様は絶対捕まえると、光輝は変に決意を固めた。


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