破滅のルイフォン
先にせかせか行ってしまうさやかを車で追いかけ、
「四年前、この町に立ち上がった教会がある。キリストやブッダを崇めてるならまだいいが、聞いたこともない神を崇めてるらしい。そこのシスターが最近、妙な予知能力を得たって噂だ」
「その予知がメールってことなの?」
「それをこれから確かめるんだ。だから頼むぜ、
「まぁいいわ。私が見つける。あなたは危険がないか、せいぜい見張ってなさい」
「おい、中川! ったく……」
車が通れない裏道を通って、さやかが消える。二界道はタバコの火を消すと、車を急発進させた。舌を打ちながら、さやかが来たときのことを思い出す。
全国四七都道府県に存在する警察という部隊の総本山、東京の警視庁。崩れ去ったその跡地で、二界道はタバコの煙を吐いていた。そんな二界道のところに、さやかが突然やって来た。
「おまえ、Cメール……」
「京都に行くんでしょ? 私も連れて行ってくんない?」
「……ヘッ、ガキの修学旅行じゃねぇんだ。遊びなら――」
「遊びに行くために、私が大嫌いな警察に頼むと思ってるの? あなたが参加者を探して京都に行くのは、マイクに聞いてるわ」
マイク? Sメールの参加者だったか……Bメールの野郎、勝手に情報を流しやがったな?
さやかが詰め寄り、ケータイ画面を見せる。メール作成画面になっていたそこには、二界道のアドレスとCメールの名が刻まれていた。
「私のメールが、人を呪うメールだって知ってるでしょう? イヤなら連れて行って」
「おいおい脅すなよ……ったく、しょうがねぇなぁ」
強引に押され、結局連れて来てしまった。さやかの頭の中が分からず、溜め息が出る。そして分からないのは、Bメール――ジャックの意図だ。何故マイクに情報を流したのか、何を考えているのかと、二界道の喫煙は止まらなかった。
日本の歴史を残す京都の町の中に、明らか新しい洋風の建物が建っていた。体育館ほどの大きな屋根が、白い石柱八本に支えられている。人の倍の背丈はある扉の上で、天使の形をした色鮮やかなステンドグラスが光っていた。
ルイフォン教、そう書いてある。
「出せ……出せぇ!」
教会の地下で唸り声が響く。ガラガラの声で唾液を垂らしながら声を出していると、見かねた番人が声を掛けた。
「すまんが、出すわけにはいかない。おまえを外に出せば、破滅が起る。分かれ、マリー」
「マリーだと?! 俺は……俺はルイフォンだぁっ!」
鉄格子に飛び掛り、番人の胸元でぶら下がる鍵に手を伸ばす。だがその手は届かず、苦し紛れに鉄格子に噛み付いた。
「本当に、悪魔に憑かれたというのか。マリー……」
番人が見つめる先で呻くのは、黒い衣装に身を包んだ、小麦色の髪をした女性だった。両手の長く伸びた爪には固まった血と泥がこびり付き、歯を剥き出しにして唸り続ける。血走った目で男を睨み、落ちている砕けた
その姿、まるで獣の如く。彼女の名は、マリー・ルイフォン。ルイフォン教が崇める、神祖その人だった。
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