後悔先に立つ
「悔しいっ!」
翌日の土曜、光輝の家に来た彩が声を上げる。昨日の明海の台詞がよっぽど悔しかったのか、何度も同じ事を言っていた。
「もう! 子供だって馬鹿にして!」
光輝は返事に困った。子供だからと除外されるのは確かに嫌だが、自分は参加したくない。故に明海に便乗して、ゲームから離れたいのが本心だった。
彩はそんな光輝の気持ちなど構わず、愚痴をぶつけ続ける。単に気付いてないだけかもしれないが。
「もう、イライラしてきた! 光輝くん、行くよ!」
「ど、どこに?」
「神様探しだよ!」
彩と共に外へ出る。電車に乗り、とりあえず都心の方に向かった。Gメールでより多くの情報を得るのが目的だ。駅に着き、彩が手を高く揚げてテンションを上げる。
「よし、じゃあ取り合えず!」
彩の動きが止まる。そして突然、恥ずかしそうに光輝の方を振り向いた。
「どっかで……食べたいな」
「そう、しようか」
駅の周囲でレストランを見つけるが、
「あ、あぁ……お腹す、空いたぁ」
遂に人の多い駅から離れ、二人は住宅の集まる場所に来た。Gメールの情報では、駅周辺で彩が満足出来る店は全て混雑していたのだ。
「どうするの、彩さん」
「うぅ! どこか食べる
Gメールを開く彩。すると暫くケータイを覗き込み、目を輝かせてケータイを閉じた。
「光輝くん! この先右曲がるよ!」
「え? 彩さん、ちょっと!」
走りだす彩を追いかける。だが彩の足は速く、光輝はすぐに見失った。彩が道順を先に言わなければこのまま
「光輝くん、レストランだよ!」
「え? こんな所に?」
目の前にある白い一軒家。確かに玄関にはランプが下がって、表札の所には英語で店の名前が書いてあったが、普通の家にしか見えなかった。
「入ろう! 光輝くん」
既に空腹状態の彩は、光輝の返事を待つ事なく店に入った。後から光輝が入ると、白髪雑じりの男性が彩を出迎えていた。
「ようこそ、レストラン“アイリス”へ。オーナーの
涼仙が席に案内する。周囲の席にも少なからず客はいたが、混んではいなかった。
「本日は、我がレストランを選んで頂きありがとうございます。メニューはお決まりですか?」
「二人共Aセットで!」
「かしこまりました。十二分お待ち下さい」
涼仙が厨房に行くと、光輝は彩に訊いた。
「ねぇ、Aセットって何?」
彩はグラスの水を一口飲み、指先で口を拭いた。
「ハンバーグステーキとコンソメスープ、それと……ゼリーだったかな、自家製の」
「そ、そうなんだ……」
「嫌だった?」
「そうじゃないよ。ただちょっと……自分で選びたかったかなぁって」
光輝がそう言うと、彩は少し黙ってからグラスを置いた。
「……次来た時は、君に選んで貰おうかな、光輝くん」
その頃厨房では、シェフの隣で涼仙がメールを打っていた。若者顔負けの速さで打っている。
「あの方々……少しお時間を頂きましょうかね。神様探しについて、少しばかり話したい事がありますから」
涼仙はアイフォンをポケットに入れ、ハンバーグの乗った皿を手に二人の席に向かった。
「おいしかったぁ!」
全てのメニューを食べ終え、彩がうんと腕を伸ばす。光輝もその後すぐに食べ終わり、ペーパータオルで手を拭いた。
「お客様方、ご満足頂けましたか?」
「はい! おいしかったです!」
やってきた涼仙が訊くと、彩が笑顔で答えた。涼仙は頭を下げ、お皿を下げる。だがそれと同時に、折りたたんだ紙を光輝の側に置いた。
「何それ?」
涼仙が行ってから彩が訊くと、光輝は紙を広げた。何か書いてあったらしく、暫く光輝が見る。
「少し座ってて欲しいって」
「ふぅん……なんだろね」
メモの通り暫く座っていると、涼仙がやって来て頭を下げた。
「少々無理を言ってしまい、申し訳ありません」
「まぁまぁ、それよりどうしたんですか?」
彩が訊くと、涼仙は少し真剣な顔付きになり、間を置いてから話始めた。
「率直にお尋ねします。お二人は神様について、どこまでご存知ですか?」
神と言う言葉に二人はピクリと体を震わせた。涼仙はアイフォンをポケットから取り出し、メール画面にしてテーブルに置いた。二人が画面を見ると、神からの招待メールを受信していた。
「申し遅れました。私、実はゲームの参加者でして……Tのメールを受け取っております」
「Tの参加者?!」
彩の声が引っ繰り返る。恥ずかしそうに彩が周囲を見渡すと、いつの間にか他のお客は皆いなくなっていた。涼仙がクスリと笑う。
「お店は二時半で閉店させて頂いておりまして。故に他のお客様がいなくなるまで、お二人にお待ち頂きました」
「涼仙さん、何で俺らが参加者だと?」
涼仙はアイフォンを手に取り、見つめながら話した。
「私のは
「そっか。僕らが貴方に会えば、貴方はゲームに本格参加って言うトラブルが起きるからか」
涼仙が頷く。アイフォンをしまい、二人に頭を下げた。
「私は早く神を見つけ、平穏を取り戻さなければなりません。ですが立場上動けず、もうすぐ一月経とうとしている始末……ですから、他の参加者であるお二人に、情報を頂きたく思った次第です」
「あの……涼仙さん。俺らも実際、殆ど神様については分かってないんです。ごめんなさい」
「……そうですか。すみません、妙に期待してしまいまして……」
明らかに気を落とした様子で涼仙が顔を上げる。光輝はいけない事を言ったと後悔したが、遅かった。だが何故か、すぐに涼仙は笑い出した。
「そんなに気を落とされないで下さい。大丈夫、これからずっと見つけられない訳ではありませんから」
「は、はぁ……」
「それに、既に予知済みですから」
涼仙がケータイを見せると、光輝は何故かおかしくなってクスリと笑った。光輝の笑みを見て、涼仙が笑い返す。
「お二人共、是非またご来店下さい。またお話出来る時を楽しみにしています」
「うん、ありがとう涼仙さん!」
彩が笑顔で返事した。光輝も笑みを浮かべ、頷く。何だか涼仙と話していると、光輝は安心出来た。
店を出て、彩は自分のお腹を擦って唇を舐めた。
「またここに来ようか、光輝くん!」
「……そうだね」
こうして二人は、行き着けの店を見つけたのだった。
その頃…東京都心の駅
一人の男が改札を出た。手に持っていたノートパソコンを閉じる。
「さて、どこを探すかな」
男がノートパソコンを脇に挟み、アイフォンを操作し始めた。
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