質疑応答

「へぇ、じゃあティアの練習見てたんだ。良いとこあるじゃんか光輝くん」


 ピアノの前で座るティアの隣に立つ光輝の背を、彩が後ろから叩く。


「コーキクン、聴いてて下さいヨ?」


「う、うん」


 ティアが鍵盤に指を走らせ、叩く。部屋中にピアノの音が響き、彩は聴き入っていた。だが途中で音が止まる。光輝が止めていた。


「二回間違えちゃったよね?」


「気付かれちゃいましたネ」


 笑って誤魔化したティアに、光輝は笑みで返した。そして少し注意を加えると、ティアにまた弾かせる。それを何度か繰り返し、休憩時間となった。


 水筒のお茶を飲むティアが光輝に自分の欠点克服の秘訣を訊くと、光輝が丁寧に教える。その様子を見て、彩が笑った。


「なんか光輝くん、先生みたいだな」


「せ、先生?!」


 彩の言葉に光輝が戸惑う。だがその隣で、ティアが笑って言った。


「コーキクンは立派なTeacherですよ!」


「ティアさん……」


「教え子が言うんだから、嘘じゃないよね」


 彩とティアの二人に言われ、光輝は反論の言葉を無くした。光輝は自分が先生みたいと言われて嫌ではなかったが、先生と言われるほど教えるのが上手いとは思えなかったのだ。


 二人に言われたが、光輝は冗談で言ってるとしか考えられなかった。そう言葉を疑っていた光輝の後ろに、誰かが立った。


「皆さん、そろそろ下校時間ですよ」


 光輝の後ろで響く静かな声。その声を光輝は覚えていた。振り返って声の主を確認する。


「明海先生……」


「何ですか、そんな化け物を見るような目で」


 本物の先生、明海研二が光輝を見下ろす。光輝も割りと背の高い方だが、明海はそれをも見下ろした。白髪の頭を掻き、三人を順に見る。


「随分と練習熱心ですね。部活動をやってた生徒達も、皆帰ったと言うのに……まぁ、いいですが」


「調度良いや。先生、僕は少し貴方と話したい」


 彩が前に出て言うと、明海は面倒そうにまた頭を掻いた。


「何の話ですか? 三学期のテストならまだ――」


「先生はAメール所持の参加者ですよね。どこまで神様の事、掴みましたか?」


 光輝とティアが驚いて明海を見る。だが明海本人は動じず、まだ頭を掻いていた。彩がケータイを見せて続ける。


「僕はGメールの参加者だし、光輝くんもティアもそれぞれEとFの参加者です。同じ神様を探すと言う目的があります。先生が知ってる事、全てお話――」


「お断りします」


 明海が頭を掻くのをやっと止め、自身のケータイを取り出した。


「私が受け取ったのはご存知の通りA、Answerアンサーメールです。神に直接関係する質問以外、全て答えるメール……」


 明海はピアノの椅子に座り、三人をジッと見た。ダルそうだが、その目はしっかり三人を捉えている。


「こんな危険な遊びに付き合う必要はありません。全参加者は二六名と聞きますが、貴方方子供は参加しない方が今後の為です」


「でも!」


 彩が問おうとすると、明海は座ったばかりなのに立ち上がり、扉を開けた。


「子供が出しゃばり過ぎると、後で後悔する事になりますよ。少しでも明るい未来を歩きたいと願うのなら、自ら危険に飛び込むのは止めなさい」


 明海の目が三人を一瞥すると、明海は扉を少し閉めて止まった。


「十分後には学校閉めるので、それまでに退出しておいて下さい」


 扉の閉まった音が、自習室に響いた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る