一旦
「君がピアニストだなんて思わなかったよ、光輝くん」
「聴きたいですヨ、コーキクン!」
下校中、二人に挟まれた光輝が笑って誤魔化す。彩とティアに何度も言われる度に、こうして誤魔化していた。
「ねぇ、こんな可愛い二人がお願いしてるんだからさぁ。少し位いいだろう?」
「で、でも……もう一年近く弾いてないしさ」
光輝がそう言うと、ティアはケータイを取り出して光輝に見せた。
『今日は運が悪い日、なるべく友達のお願いは聞くようにしよう』
「お願いは聞いた方がいいですヨ?」
随分と都合がいいなぁ……Fメール。
光輝が言葉を選ぶ。だが先に口を開いたのは、光輝ではなくて彩だった。
「そんなに弾くのが嫌かい?」
彩の問いに光輝は戸惑った。
確かに弾きたくはないのだが、嫌という程ではない。その矛盾が自分の答えを迷わせる。そもそも、何故ここまで弾きたくないのか、自分でも分かりきっていなかった。
するとまた、光輝ではなく彩が口を開いた。
「まぁいいよ、今じゃなくても。聴かせてくれる時になったら、私達に聴かせてね」
「……うん」
頼りない返事。ティアも少し残念そうだったが、無理強いはしなかった。
ティアと分かれてから、光輝は彩と自分の家に来た。彩は勝手に椅子に座り、脚を組む。光輝はそんな彩にジュースを手渡し、彩の前に座って俯いた。
「さて、神様探しだけど……どう探せばいいものかねぇ」
「うん……そうだね」
現在光輝の近くにいるのは二人。自分を含めて三つのメールがあるが、その内で神を探せると思われるのは彩のGメールだけだ。EとFのメールは、どう考えても捜索には向いていない。
「二六のメールが全部集まったら、何か起きるのかな?」
彩が言う。光輝もそう思ったが、半分諦めていた。何かが起こるとしても、26人もの人間が自然に集まるなんて思わない。この3人は偶然近かっただけだと考えてしまう。光輝はまだ始まったばかりのゲームに、敗北を予感していた。
「ねぇ光輝くん。僕の提案なんだけどさぁ」
彩がジュースを飲み干し、口を手の甲で拭いた。
「一旦神様探しは止めようか」
「え?」
以外な提案に驚かされた。光輝が顔を上げると、彩は自分のケータイを見ながら話を続けた。
「今の状況で神様を探すのはちょっとばかしキツいと思うし、ゲームは最大3年かかるんだ。まずは半年、できれば一年位は参加者探しにしようと思うんだ。二六人全員が日本にいるとは思わないけど、とりあえずは僕のGメールで探してみよう」
「……うん、そうしよう」
現状は厳しい。その判断は光輝も感じていた事そのものだった。否定する理由はない。その話をすると、彩は帰っていった。
「一年で見つけられるのか?」
一人残った光輝が呟く。先ほどの彩の提案を否定する理由はなかったが、それでも思うところはあった。今呟いた事もそうだが、もう1つの疑問が光輝の頭にずっとくっ付いていた。
二六人全員が、神を見つける為に動くのか?
実際自分は、他の人達に任せたい。考えれば考えるほどマイナスの事を思い付き、考えてしまっていた。そんな自分に嫌気が差し、光輝は夕方からベッドに潜った。
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