留学生とFメール

 久し振りの学校。光輝は一番後ろの自身の席に座り、机に頭を置いていた。ケータイを開き、メールを確認する。


『教室にて待機』


 言われなくてもそうしてるよ……。


 規則正しい生活とは暫く離れていた為、光輝は眠たくてそのまま寝ていた。


「はい、着席して下さい。寝てる者は起床」

 

 暫くして担任の静かな声が教室に響く。担任の数学教師、明海研二あかみけんじ。いつも何考えてるのか悟らせない、不気味な教師だ。


「はい、皆さんお久し振りですね。少しは勉強しましたか? まぁ、大体の人はしてないでしょうね」


 確かに。


 実際勉強してない生徒達が苦笑いで返すと、研二は白髪の頭を掻いた。


「もうすぐ受験です。もう少し危機感を持ちましょう……ですがそんな貴方方に、新しいクラスメートを一人、紹介します」


 転校生? 聞いてないけど……。


 いきなりの転校生の存在に、クラス中が騒ぐ。しかし研二に呼ばれて入ってきた転校生に驚いたのは、光輝一人だった。


「御門彩だ。短い間だけど、よろしく頼むよ」


 彩さん?!


 気付かれないように顔を腕にうずめて隠したが、光輝はすぐに無駄だと悟った。自分の隣に、新しい席が置いてある。


「君、隣だね。よろしく頼むよ」


 初対面の様に彩が話しかけてくる。光輝は顔を少し上げ、うんとだけ返事した。


 昼休み、屋上


「いやぁ、会えなかったらどうしようかと思ったよ!」


 おにぎりを一つ、彩が大きく開けた口で頬張る。光輝は呆れて、ペットボトルの水を喉に流し込んだ。


「Gメールで見たなら、会えない訳ないよ」


「アハハ! バレた?!」


 彩がケータイを持って振る。Gメールの情報力なら、光輝がどこの学校に通ってるかなんてすぐに分かる。彩はおにぎりを全部食べ終えて、唇を舐めた。


「僕一人より、他の参加者が隣にいた方がいいと思ったんでね。初めて君に会った時のメールを見て来たんだ」


「うん……確かにそうだね」


 光輝がペットボトルの水をまた飲むと、彩はメールを光輝に見せた。


『二年四組、浜崎はまさきティア・フレイ。Fメール所持のゲーム参加者。現在、下の階で一人――』


「さっき来たメールだよ。どうやらもう一人参加者がいるみたいだね」


 光輝は信じられなかった。まさかこんな近くに、ゲームの参加者がいるだなんて思わなかったのだ。


「さぁ、会いに行こうか! 光輝くん」


 四階、自習室


 部屋の中で金髪の女子生徒が1人、ピアノの音を響かせていた。鍵盤から指を離すと、女子はケータイを開いてメール画面を見た。


『今日は運命の出会いがあるかも! ラッキーアイテム、ケータイ』


「運命の出会い、ですカ? 楽しみですネ!」


 アメリカからの留学生、浜崎・T・フレイ。彼女はまた鍵盤に指を置き、音を響かせた。その教室の前に立つ2人。


「いい? 開けるよ!」


 動かしたばかりの指を止めて、彼女は二人を見た。黒髪を結んだ女子と、その後ろで立つ背の高い男子。その男子には見覚えがあった。


「えと、斉藤コーキクン……ですよネ?」


 名前を当てられ、光輝が驚く。光輝は愛想よく笑って誤魔化した。


「俺の名前を知ってるなんて思わなかったな」


「コーキクンは有名ですヨ? ピアノ弾いてるヒトなら、誰でも知ってまス」


 光輝が照れる。その横腹を、彩が肘で突いた。


「何何? 君って音楽家だったのかい?」


「いや、そういう訳じゃ――」


「コーキクンは有名デス! ワタシ、ずっとお話したかったですヨ? 占いが当たってホントにヨカタ!」


 浜崎はケータイを取り出し、メール画面を開いて見せた。


「運命のヒト、ですネ!」


「う、運命って……」


 照れて頬を掻く光輝の横腹を、彩はさっきより強めに突いた。彩が本題に移す。


「僕、今日転校して来たんだ。御門彩、よろしくね」


 彩が手を出すと、浜崎はケータイを持ったまま、両手で強く彩の手を握った。


「アヤさん! ティアと呼んで下さいネ! そだ、初めましてのシルシに占ってアゲマス」


 ティアはそう言うと、彩の名前をローマ字で打ってメールを送信した。そしてその直後にメールが返信され、ティアは彩にメールを見せた。


『友達に無理なお願いをするかもしれない! 友達を説得出来る様にしておこう!』


 彩から一瞬笑顔が消えた。だがすぐ、ティアに笑って見せる。その一瞬を見たのは、光輝ただ一人。


「メールで占いが出来るなんて、おもしろい物を持ってるね」


「YES! ワタシのメール、Fortuneフォーチュンメールは未来を占うメールですヨ」


 ティアが笑って言う。そんなティアに、彩は自分のケータイを開いて見せた。


「僕もおもしろいの持ってる。Genジェンメールはさっき、君の情報を全部送ってくれたよ、浜崎――ティアくん」


 ティアは驚いた様子でGメールを見る。そして彩に笑ってみせた。


「神探しのオナカマですね!」


「僕だけじゃないよ」


 光輝が彩の隣に出てきて、ケータイを出す。Eメールをティアに見せると、ティアは驚きからかまた笑った。


「まさかこんなに近くに参加者がいるなんてね」


「ハイ! 驚きマシタ!」


 二人の後ろに下がった光輝は一人、メールを見ながら俯き、考える。


 二六人が会いやすい人間にされてる……? ティアさんはアメリカ人だけど日本とのハーフらしいし……神は、日本を軸にゲームも、参加者も組み立ててる、のかな? 神は何を考えてるんだろう……。


 二階、職員室


「さて……質問しましょうか。今私の近くに、参加者は何人ですか?」


 ケータイが震え、メールが届く。


『三人』


 メールの答えに、白髪の頭を掻く。そして自身のパソコンを立ち上げ、キーボードを叩き始めた。


 路地裏


「こいつは……」


 Pメールの参加者、卓の目の前に血の跡が広がっている。そのすぐ側に、腹を斬られた死体が倒れていた。


「前の死体と殺され方が似てるな。テイラに間違いないが……」


 アイフォンを起動し、メールを見る。


『昨夜一時二〇分。殺人鬼、テイラ犯行――』


 昨日起こったこの殺人事件の内容が、文章となってズラリと並ぶ。その全てに卓は目を通すと、警視庁に電話をかけた。


「俺だ。テイラと思われる犯行現場にいる。すぐに来てくれ」


 植物園


「フゥ……風邪引いて全然来れなかったけど、相変わらずだなぁ……」


 植物園の責任者、幹未来みきみらい。白衣からケータイを取り出し、メール画面を開いた。


『二〇分後、十人入園』


「急いで準備しないといけないや!」


 未来は白衣を引っ張り、なるべくしわを目立たせないようにしてから草花の世話に向かった。


 現在日本にいる参加者、一五名。全参加者の日本集結まで後、十一名。




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