ほっとけない

「神様ってさ、相当機械とかに強い気がするんだよ」


「あぁ、TVとかジャックしたから?」


「そうそう!」


 植物園を出てから、二人でまた神を探す。だが光輝は正直、こんなに簡単に探してて見つかるなんて思ってはいなかった。


「どこ探せばいいだろうかねぇ」


 頭の後ろで腕を組んで彩が言う。光輝は少し考え、一瞬躊躇ってから言った。


「彩さんのGメールは……何か書いてないの?」


 彩はケータイを開き、メール画面を見る。いくつか送られてはいたが神に関する情報は全くなかったらしく、彩は首を横に振ってケータイをしまった。


「Gメールは、僕の周囲の情報を集めるからね。とりあえず、近くにはいないって事は分かるけど……それじゃあ、ねぇ?」


 不十分だよなぁ……。


 内心ガッカリしていた光輝が、彩に呼ばれる。とある家の前で泣いていた少年の頭を撫でて、彩がなだめていた。


「彩さん、この子は?」


「お母さんが帰ってこないんだって」


 泣き続ける少年が頷く。光輝はしゃがんで、少年の目線と自分の視線を合わせた。


「お母さん、どこに行ったか分かる?」


 少年が首を横に振る。それを見て、彩が溜め息をついてケータイを開いた。


「よし! 探しに行こうか、光輝くん!」


 腰に手を当てて言う彩に自信を感じ、光輝は頷いた。


「俺達が探すからさ、一緒に来てくれるかい?」


 手の甲で涙を拭く少年が頷く。光輝は立ち上がり、彩にメールの内容を訊いた。


「少年のお母さん、ここからは少し遠いスーパーに行ってるみたいだね。鍵をかけて出掛けちゃったみたい」


「じゃあ、そのスーパーに行ってみるのがよさそうだね」


 光輝の服を少年が掴む。彩が可愛いと言うので、光輝はそのまま連れて行く事にした。実際は気に入っていた服に変な皺がつくので嫌だったのだが。


 三人がスーパーに行くと、少年が自転車を指差した。お母さんのだと言う。


「中にいるかも。探そうか、光輝くん」


 スーパーは大きく、三階に分かれていた。手分けすれば早いのだが、少年を再び一人にする訳にはいかない。三階のおもちゃ売り場から下へと探す事にした。


「いるかなぁ」


 少年が光輝の服を掴んだまま周囲をキョロキョロ見る。が、いないらしい。


「三階はいないか……」


「よし! 二階に行こう!」


 二階でも探したがいなかった。最後の一階に下り、彩が少年の目の高さに合わせてしゃがむ。


「大丈夫、絶対にいるから」


 一階の食糧コーナーを探してみる。すると少年がスナック菓子をジッと見たのに彩が気付いた。


「欲しいの?」


 少年は恥ずかしそうにして頷いた。すると彩は手に腰を当て、笑った。


「よしよし! 正直だな、少年は! 僕が買ってあげよう!」


「いいの?」


「いいのいいの! これくらいしてあげなきゃね」


 彩はスナック菓子の袋を一つ手に取り、少年に渡した。少年は嬉しそうに頬を赤くして、彩にしゃがませて耳打ちした。


「何だって?」


 光輝が訪くと、彩は少年の方を見てから、笑って人差し指を唇の前に立てた。


「秘密だよぉ」


 先に買ってしまおうとレジに並ぶ。すると、少年が持っていたスナック菓子の袋を落とし、奥の女性を指差した。


「もしかして、お母さん?」


 少年が頷く。彩が会計を済ますと、3人で一緒に少年のお母さんの元へと急いだ。


「いやぁ、いい事した後は気持ちがいいねぇ」


 帰り道、彩が満足げに笑って言う。光輝は息を吐いて答えた。


「少年、お母さんに会えてよかったよかった」


「確かによかったけど、これはなぁ……」


 少年のお母さんがお礼にとくれたアイスを見て光輝が言うと、彩が笑った。


「まぁいいじゃんかさ。この調子で、神様も見つけちゃおうよ!」


 そんな簡単じゃないでしょ、絶対。


 光輝がアイスを舐める。


「ってかあのスーパーに行った時点で、Gメールを見ればよかったんじゃないの?」


 光輝がそう言うと、急に彩の動きが止まった。そして急いで自分のアイスをくわえると、ケータイを開いてメールを見た。


「そのふぇがあっらは!」


 どうやら彩は忘れていたらしい。メールにも気付かないとは、すごい集中して探していたんだなと光輝は思わされた。


「だってだって! ほっとけなかったんだもの!」


 急いで言い訳をする彩。初めて慌ててるところを見た気がした。彩は更に言い訳を考えるが、思いつかなかったらしく素直に謝った。


「神様見つける時は、ちゃんとメール見るからさ」


「うん」


 後何回か見ないなと、光輝は思わされた。


 さて、明日から学校である。








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