EとG
翌日、光輝は電車に乗っていた。気分転換に映画を見に行くのだが、光輝の住む町には映画館がない。故に、映画館のある二つ隣の駅まで電車に乗る必要がある。
光輝はケータイを開き、今までのメールを確認する。この日も何通もEメールが届き、光輝の日常をサポートした。お陰で満員電車に乗らずに済んだ訳だが、光輝は呆れて溜め息をついてケータイを閉じた。
「生活は楽になるのにな」
神を見つける為に与えられた能力だが、今のところ光輝の日常生活のサポートしか出来ていない。光輝は呆れて電車を降りた。
「どれにしようか……決めてくればよかったな」
どの映画を見ようか迷っていると、Eメールが光輝のケータイを揺らした。
『一三時三〇分上映。“皇后の神”の中央席』
“皇后の神”は、最近TVのCMで大ヒットと宣伝されている映画だ。確かに、それの中央は一番得するだろう。“神”と言う言葉には敏感になっているが、光輝は迷わずチケットを買った。
「随分……時間があるな」
ケータイで時間を見て光輝が呟く。現在一二時二七分分なので、一時間以上時間があった。
「何か食べようか」
エスカレーターで下のレストラン階に下りる。それと同時に、光輝のケータイが揺れた。
『端のハンバーグ店で学生割引中』
やはり神を探すのには向いてない。そう思いながら光輝は端の店の前に来た。かなり並んでいるが、光輝は仕方ないと並ぼうとした、その時だった。
「そっち、学生証がないと割引してくれないよ」
不意に声を掛けられ、光輝が振り返る。手にしていたケータイを開きかけたまま、固まる。話しかけたのは藍色の髪を束ねた、光輝と同い年くらいの女子だった。
「隣のパスタ店の方がお得だよ、斉藤光輝くん」
驚いて目を見開く、光輝はケータイを閉じて彼女の方に向き直った。
「何で……俺の名前を?」
彼女は自分のポケットから白いケータイを取り出し、メール画面を光輝に見せる。光輝はそのメールを見て、また驚かされた。
「僕は
「ジェン……って事は、君も――」
「そう、Gメールを貰った参加者さ」
彩はケータイをしまい、光輝に笑って見せた。
「僕もお腹空いてるんだ。一緒に食べようよ」
彩に誘われ、光輝は隣のパスタの店に入った。そして光輝は気付く。店内がカップルばかりだと言う事に。店の外に立つ看板をチラッと見ると、そこには確かに割引とあった。カップルという条件付きで。
「じゃ、今だけ僕の彼氏だからね、光輝くん」
「はぁ……」
彩には敵わないと、光輝は悟る。
暫くして、彩が食べ終わってから光輝に話しかけてきた。ストローでジュースを吸う。
「僕のGメールは、僕の周囲の情報を何でも集めるんだ。だから君の事も、君のメールの事も全部メールで知ってるんだ、光輝くん」
「そっか。情報量なら俺より断然上って訳か……」
彩はケータイを弄り、メールを見る。光輝にも見せたが、その記述量は光輝のEメールの何倍もあった。
「僕のメールは、確かに君より情報が多い。でも、君のは君が得するメールでしょ? Gメールより、Eメールの方がよほどお得だと思うよ」
確かに、多くの情報から自分の利益を計算するGメールより、既に利益が計算されているEメールの方が得ではある。だが、神を見つけると言う目的の上では、確実にGメールの方が適していると光輝は思った。
「そういやさ、さっきメール来たんじゃないの?」
彩に言われ、光輝は思い出してケータイを取り出して開いた。案の定、Eメールだ。
『十分後、映画館開場へ』
それだけ書いてあった。意味は分からないが、時間の余裕も大分減ったのは間違いではなかった。すぐに立ち上がり、光輝はケータイをしまう。
「そろそろ行くよ。誘ってくれてありがとう」
「え? あ、ちょっと……」
店を出て行った光輝を止めようとした彩だったが、テーブルの上に置かれたお金を見てその場に残り、ジュースを吸った。
映画開場に行き、自分の席に座った光輝は一人、メールについて考えていた。
さっきの……ハンバーグ店に行けってメール……もしかして、俺をあの子に会わせるメールだったんじゃ……。
額に指を当て、考える。光輝がじっくり考える時の癖だ。
Eメールは元々、俺が得するメールじゃなくて、俺の能力が上がる方法が書かれたメール。そう考えたら、彼女に会った事で神を見つけやすくなった。つまり、俺の捜索レベルは上がったって訳だけど……どうなんだろ? 俺の考えすぎかな?
「なぁに考えてるの、光輝くん」
隣の席から話しかけられる。隣を見ると、ポップコーンを頬張る彩が座っていた。
「君っ、どうし――」
「彩」
光輝が首を傾げる。彩はポップコーンを頬張りながら笑って言った。
「さっき名前言っただろう? 彩だよ、御門彩」
「あ、あぁ……ごめん」
彩にはやはり敵わない。光輝の悟りは確信となった。
「僕もこれ見に来たんだ。君が隣だとは思わなかったけど。いやぁ、運がいいね」
「……そうだね」
二人の会話が終わると同時に、映画開始のブザーが鳴った。
映画が終わり、光輝は彩と共に映画館を出る。彩はポップコーンの容器をゴミ箱に捨て、舌なめずりをした。
「いやぁ、おもしろかったね! 思わず見入っちゃったよ!」
「隣でずっと食べてたよね?」
映画の上映中ずっとポップコーンを食べていた彩が見入っていたと言うのに、光輝は素直に頷けなかった。どちらかと言うと、食べる方に集中してた気がする。
「まぁまぁ、いいじゃないか光輝くん。楽しかっただろう?」
「ま、まぁね……」
彩は食べ終わった後も光輝に寄りかかって寝てきたりと、光輝は映画に集中しきれなかった。だがそんな事を、今日初対面の彩に言える訳がない。光輝は頷くしかなかった。
「さてっと! 光輝くんはこの後どうするの?」
「いや……なんの予定もないけど」
「そっかぁ。じゃあ、もちっと付き合ってよ!」
彩に誘われ、下の階にあるゲームセンターに来た。車を運転するレースゲームの椅子に、彩が座る。
「よっしゃぁ! 来い!」
三回目……
「ま、また負けたぁ……」
「弱すぎない?」
「うぅ、自分でもこんなに下手だとは。もう一回!」
彩が何度も挑戦するがすぐに車が谷底に落ち、ゲームオーバーになる。十回も同じ事を繰り返し、千円も無駄にした。
「御門さん、もう止めたら?」
「うぅん……光輝くんやってみてよ! 一回でいいからさ!」
「え、えぇ? いいけど……」
彩に代わって光輝が座る。光輝は百円玉を入れ、ハンドルを掴んだ。
「あんまり、得意じゃなんだけどな」
そう言いながら、光輝はハンドルを巧みに動かして他の車を蹴散らし、一着でゴールした。彩は後ろではしゃぎ、光輝の肩を掴む。
「すごいよ光輝くん! 得意じゃないとか言っておいて!」
「ハハハ……ありがと」
光輝が笑う。実際、光輝は彩がやってる途中で来たEメールを見たのだ。そこに書いてあったテクニックどおりに動かしただけなので、やや反則である。だから光輝は彩に悟られないよう、笑って誤魔化した。
「そだ! 光輝くん、メアド教えてよ。一緒に神様見つけよう!」
「あ、あぁ……うん、そうだね」
彩に言われ、お互いメアドを交換した。彩は笑って、ケータイを振る。
「じゃあ、今から友達だね。よろしく、光輝くん」
「そうだね。よろしく、御門さ――」
彩が光輝の口を指で押さえる。彩はその指を自分の口に持っていき、笑って言った。
「彩って呼んでよ。苗字で呼ばれるのは好きじゃないんだ」
光輝は少々戸惑ったが、照れながら彩を見た。
「じゃ、じゃあ……よろしく、彩さん」
「あぁ!」
彩は笑って、光輝の手を握った。
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