死ぬのは怖くない……けれど
「くっ……! うおおおぉぉぉ!!」
三人が顔を覆い、一人が失神している中、唯一最後まで戦い抜いていた者がいた。
ベアトリーチェだ。
彼女は異能力【幸せな私(フィールグリュック)】を発動させ、爆発を防いでいた。
ベアトリーチェの能力は、残りのマナの半分を消費して自分の複製を作り出すというものだ。その複製は創造後の本体と同じ量のマナ──つまり消費した分のマナを体内に持っている。同一人物なので会話による意思の疎通は必要なく、最短で最良の選択をできるというのが一番の利点と言えよう。
彼女は──彼女らは、赤いマナが火薬のように飛び出した爆弾に両手を伸ばし、その周りに自身の青いマナを球の形で出現させていた。
単純に硬度が二倍になっているそれさえも、時折亀裂を刻まれ、そこから高温のマナを噴出させていた。
「マナの量が足りていないんですわ……!」
即座に状況を理解したエイヤ=リーサがそう呟いた。
「止めなさいベアトリーチェ! ただでさえあなたはマナを消費している! このままじゃ死んでしまうわ……!」
「なるほど、だから島に不時着を……!」
遅れてきたシャルロッテも、ようやく事態を飲み込めたようだった。
「私は止めないよ、隊長。だってそんなことしたら、皆も死んじゃうでしょ?」
「ちょっと、集中してよ私! あぁ、またヒビが……!」
ベアトリーチェの特筆すべき技術──それがシールドの展開だ。通常の守護騎士は、加速に使うのと同じ魔法陣型のシールドしか展開できないのだが、彼女の場合は違う。球体だったり鉄製の盾と同じ形だったりと、自由自在にシールドを展開できるのだ。この形態変化は現在、エイヤ=リーサやヴィルヘルミーナにも真似できないベアトリーチェの特権となっている。それはすなわち、今彼女の手助けをできる者が存在しないことを意味していた。
「ビーチェ!」
シャルロッテが、せめて身体をあげようと接近する。
「シャル……!」
「近寄らないでシャル。私、いいこと思い付いちゃった」
最愛の友の優しさに感涙するベアトリーチェと、最愛だからこそ遠ざけるベアトリーチェ。これらはどちらも一人のベアトリーチェの感情だ。
後に発言した方のベアトリーチェがこう続ける。
「皆が助かる方法があったよ」
「それは一体──」
二人のベアトリーチェは互いに顔を見合わせ、海に向かって飛んだ。勢いを緩めず、海面を突き破り、そのまま海中に姿を消した。
そして、低い爆発音が轟いた。それと同時に、大きな水柱ができた。
降り注ぐ塩水。赤く滲む海面。浮かび上がってくる一つの黒い影。
それは絶叫しながら、再度宙を舞った。
「いったぁぁぁぁい!!」
顔をくしゃくしゃに歪ませながら叫び、呻く茶色い髪を持った少女は、両腕から血液を噴出させていた。
「ビーチェ!!」
シャルロッテら三人が、ベアトリーチェの方へと移動する。その時彼女らが見たのは、両腕の関節から下を失った仲間の姿だった。
「ヤバいヤバいヤバいヤバいマジで死ぬかもハハハハハ」
気が狂ったように笑い出すベアトリーチェ。集まった三人の中に、釣られて笑う者など当然いなかった。
どんどん顔色を青白く変化させていくベアトリーチェに思考停止していたシャルロッテとエイヤ=リーサだったが、直後に発せられた蘭子の声によって考えることを再開した。
「エカテリーナ、至急救援を! シャルロッテとエイヤ=リーサは、雑魚どもの相手をしてるヴィルヘルミーナのところに向かいなさい。急いで!!」
「は、はい!」
「承知致しましたわ……!」
一人になった蘭子は、マナで制服の袖を切り、それをベアトリーチェの二の腕に巻いた。ベアトリーチェは腕を動かされたことによって悲鳴を上げたが、それ以上の弱みは見せなかった。
「おまたせ!」
「エカテリーナ、悪いんだけど、あれをお願いできるかしら……!」
エカテリーナは頷いた。
「お安いご用。皆も、もっと私を頼ってくれていいんだからね──」
エカテリーナは両手にマナを出現させ、それを器用にベアトリーチェの体内に入れた。代わりにベアトリーチェのマナを同量取り出し、自分の身体の中へと突っ込んだ。
「ぐ、がぁぁ……!!」
すると、ベアトリーチェに刻まれていた全ての傷がエカテリーナの身体へと移動した。エカテリーナは暴れて血を撒き散らした後、蹲って動かなくなった。
「大丈夫!?」
心配になった蘭子は、彼女の背中を優しく擦った。
しばしの沈黙の後、エカテリーナが上体を起こして言った。
「て、てじなーわん……」
再生した両腕を顔の横で広げるエカテリーナの姿に、蘭子は手遅れだとでも言いたげに首を振った。
傷が治ったベアトリーチェが、エカテリーナに向かって、
「カチューシャさん、ありがとうございました」
とお礼の言葉を述べた。
するとエカテリーナは、
「エカテリーナさんねー……いいってことよ。私には、これくらいしかできないから……」
と返した。
『こちらシャルロッテとヴィルヘルミーナ。隊長、聞こえますか?』
一段落ついたところで、シャルロッテからの通信が入った。その声はとても落ち着いており、交戦中に発せられたとは到底思えないものだった。
「えぇ、聞こえているわ。何かあったの?」
『敵が撤退していきます。多分、そちらからも見えると思いますよ』
シャルロッテの言葉通り、蘭子達のいる位置からでも視認できる位置を敵の戦闘機が飛行していた。
『一応ヴィルヘルミーナが狙撃で何機か落としてるんですが……どうします?』
「スコアを稼がせておきなさい。気が済んだら帰るわよ」
こうして、
六つの影が護衛対象である新生軍艦に着艦し、多くの感謝の言葉に包まれながら基地へと帰っていった。
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