第2話

「それが正しいなら、過去が変わる」皆、爆笑してる。

西条も、自分で説明しておきながら笑ってる。

「たった1週間で編み出しました」ニヤニヤしてる西条。

「実験を考えてみるとどうなるの」

「それは1週間ではムリですよ」周りを見渡して同意を求める西条。

「山本ちゃん、実証実験を考えるとアイディアある?」

「急に言われても。この数式自体、理解できませんし」メガネを持ち上げ直す山本。


「立証方法はわかってる」研究室の外から声がする。

「狭山さん?」研究室の扉を背に、狭山研究長がいつもの鋭い眼差しを注いでいた。


2001年の初春はこうして過ぎ去り、20年の時が流れ、研究所に新たな初春が訪れていた。


1人の若い女性が研究所のゲートに佇み、じっと一号施設に目を向けている。暇を持て余している警備員が早速チェックすべく声を掛けた。


「どちらへご用事でしょうか」

「ああ、あの、いえ、王と言います」

「はぁ、それで?どちらへ?」

「いや、なんでもないです」女性は踵を返し、駅の方角へ歩き出した。

「あの?」警備員は怪しんだ。

「いえ、いえ、なんにもないです」

女性は立ち去りながら顔だけを警備員へ向けてそう言うと、早足で去っていった。


女性は飲み屋でアルバイトしていたあのルルだった。

20年前と変わらぬ美貌。清楚な服装。そして、、、変わらなさすぎた。


ちょうどそこへ山本が出張から帰ってきて、警備員と女性のやり取りを目にしていた。立ち去る女性をしばらく目で追い、

「どうしました?春日さん」警備員に声を掛ける。

「さあ誰なんでしょうね」

「びっくりしましたよ」山本の目には驚愕が見て取れる。

「お知り合いなのですか?」警備員はちょっと山本を怪しんでいる。

「いや、昔、、、あの人にそっくりな女性を知ってるたのですけど、あまりに似ているんで、その人のお子様か何かかと思いました」

「ああそうですか」警備員には意味がわからないようだった。すでに興味を失っている。

「ちょっと声掛けてみるかな」山本はそう呟くと、早足で去って行った女性の後を追うように、駅の方角へ消えていった。


「いや、びっくりしましたよ」山本が大きな声で話しかけてきた。

「なに?」考え事に集中している時にデカイ声をだすなと言いたいところだ。

「ルルさんですよ」

「?」

「ルルってあのルルちゃん?」

「そうなんです」

「まだ日本にいるの?」

「会いましたよ、駅前で」

「?」

山本はかつての俺とルルの関係は知らない。

「綺麗でしたよ、相変わらず、惚れ惚れしちゃいました」

「そうか、まだ日本にいたのか、知らなかった」本当に知らなかった。

最後に彼女に会ってから20年近く経つ。彼女ももう四十近いはずだ。あの美貌は確かに衰えを知らないような未知の力を感じたものだ。山本は彼女にご執心だったが、彼女に一番ぞっこんだったのは実は俺の方だ。


酒場で会うだけではなく、何度となく食事を共にしていた。そんな彼女とは本気で結婚でもしようかと考えたくらいだった。その彼女が突然目の前から消え、連絡が取れなくなって20年近くが経つ。


「最初は彼女の娘さんが立っているのかと思いました」山本はまだ興奮している。

「彼女は何をしに来たんだって?」

「それがですね、はっきりとはわからないんですけど、調べてもらいたいことがあって、相談する人もいないんで、研究所まで来てみた。でも実際誰にどう連絡すれば良いのかわからなくて、警備員には怪しまれるし、困ってしまって」俺の電話番号すら忘れてしまったのか。

「で、結局何をしに来たんだって?」相変わらず説明がくどい奴だ。

「だから相談」

「わかった、で、その相談の内容は?」

「あれ興味ありそうですね」面倒臭い奴。

「わかった、もういい」


「老けないことが不思議なんだそうです」山本はそう言った。

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