第2話契約はじめます
第2話
「俺の願いは…幸せになる事だ。」
少女の問いに対して俺は即答した。
いつも考えていた事
いつも妬んでいた事
それ全てこの『願い』だった。
白くて短い髪の少女は、目を丸くしてこちらを見る。
ロリコンではないが吸い込まれそうなスカイブルーの瞳に見入ってしまった。
「あなたの願いは…幸福?」
掠(かす)れそうな声を俺は聞き逃さない。
「あぁ。そうだ。俺は幸せになりたい。」
走っている最中でも一生懸命答えた。
「そうですか。分かりました。」
何か勝手に納得されてしまった。
初対面の少女に願いを聞かれて、それに対して全力で応える高校生の姿がそこにはあった。
「私と契約してください。『願い』の契約。」
「ん?」
(俺の聞き間違えだろうか。しかし、今この少女は私と契約しろという意味で言ってきたと思うんだけど。何これ。)
「私と契約すれば、追ってくるあの人達を追い払えるし、それにあなたの願いも叶えられる可能性が十分にありますよ。」
(よくわからない。変な少女に契約をせがまれている?結婚とか?でも流石にそれは…ないだろう。)
俺はそう思いつつ後ろの2人を確認する。
もう5メートルくらいしか離れていない。
(どうする?どうする?このままだと直ぐに追いつかれてボコボコだ。それなら、この少女の口車に乗るという選択肢しか残っていない。)
「わ、わかった。契約しよう。早くあの2人を追い払ってくれ。」
「契約承りました。私の右手があなたの左手を握るので出してください。」
「俺の左手は絶賛君を抱え中だよ!どうしてもするなら、握りあってる間に君が右手からずり落ちるだけだ!」
「ぐぬぬ…わかりました。じゃあこちらでなんとかします。」
(ぐぬぬ…って何 今時言うか?)
少女は、少し不貞腐(ふてくさ)れたように両方の頬っぺたを膨らませながら、少女の右手は俺の左胸…つまり心臓付近に当てられた。
「汝…願いをもって我と契約せし。この白羊宮アリエスの名に於いて、我と汝がこれより契約せんとする。」
そういいつつ俺の左胸に☆マークが黄色く光る。
「な、何だこれ?」
慌てて立ち止まってしまう。
走っていた勢いで、どっと息が荒くなり疲れが押し寄せてくる。
みるみるうちに俺の体には蛇模様のような薄く赤い模様が張り巡らされていく。
虫が肌を伝って服の中に潜り込んでくるような、こそばゆい感覚に襲われた。
「う、うわぁぁぁあ」
俺は思わず少女を離し、体に張り巡らされた模様を掻き毟(むし)る。
「はぁはぁはぁ…ようやく追い詰めたぜ、クソガキ、さっきはよくもセコイ真似してくれたなぁ」
丸坊主の男が息を切らしながらも立ち止まって呼吸を整えた後歩いてきた。
「安心してください、その模様はあなたを強化させる追加価値(エンチャント)ですよ。殴るだけで床が抜けるくらいに。」
「え、えりちゃん?ん?」
バカなので分からない。
というか声が小さくて聞き取れない。
「何をキモいことを言っているのですか?猿でも分かるように言えば、あなたのパンチが相手に当たれば勝てますよ。絶対。だから早く倒してください。」
「キモいとか言うなよ。少女に言われると傷つくじゃんか。」
そういいつつ俺は自分の右手の拳を見つめる。
(パンチすれば…いいんだな?)
丸坊主の男が、俺たちが言い合っている隙に襲いかかってきた。
どこから調達してきたか分からない鉄の棒を振りかざす。
刹那
俺には信じられないことが起きた。
相手の動きが遅く見える。
避けられるのが簡単すぎる。
まるでテレビでスローにして見ているようだ。
真正面から突撃してきた男に対し、俺は左側に避けた。
まだ遅く見える。
相手が振り切った棒が地面に当たる瞬間までもスローに見えた。
隙が多すぎるだろ。
とっさに俺は右の拳を握りしめ、男めがけてストレートをぶちかました。
2メートルくらい吹っ飛んでしまった。
「ん?」
アホヅラになる。
こんなに人が飛ぶことを知らないので、
こんなに自分自身の能力に関して理解できなくて、アホヅラになる。
たぶん人には見せられない。
すると
「何をキモい顔しているんですか?決着は着きましたよ。」
見られていた。
しかもこんな少女に。
「な、何なんだコイツ…やべえ、一旦引くぞ」
長髪の男が先ほどまでクールで怖い感じだったのに、慌てて逃げている。
(キャラ崩壊してんじゃねえか)
俺が殴った男は脇腹を抑えながら這いつくばって長髪の男を追っていった。
丸坊主の男が無事追いつけたかどうか俺にはもう関係ない。
「んで、何?これ。状況が把握できないんだけれど。」
暗い夜道、月明かりが照らすだけの暗い道路。俺が振り向いた先には白い髪の少女の頭には2本のツノが生えていた。
(!!!!!?????)
何も理解できない。
契約して
変な模様が体に付けられて
と思えば、見知らぬ力が使えて
ふと少女を尋ねると、ツノが生えていて
「何これ。意味わからん。」
思わず、思っていたことが口に出てしまった。
「私の名前はアリエス。白羊宮のアリエス。この度はあなたと契約することになりました。よろしくお願いします。」
不明な情報がありすぎて、頭がパンクしそうだ。
(何?白羊宮のアリエスって。しかもよく見るとメイド服だし。イカれてんのかな。)
「お、俺は禍々見 亜月…高校2年座の禍々見だ。」
「ふざけないでください。そんな星座は聞いたことありません。」
面白そうだったので、思わず真似してしまった。(それにしても毒舌だなぁ)
「禍々見亜月さんですね。長いので、アツキでどうですか?」
初対面の人に…しかもロリ少女に下の名前で呼び捨てにされた。
「あ、あぁ。別にいいけど、アリエスたんは何年生なの?」
「私は小学生ではありません!!先程ちゃんと名乗ったではありませんか!聞いていなかったのですか?それとも日本語が分からないのですか?」
酷い言われようだ。
見た目では小学6年くらいか中学1年といったところかと思っていたが、何年生でも無いらしい。
「は、白羊宮だっけ?どういう設定?」
「設定ではありません!!日本では牡牛座として名が通っているはずです! 黄道十二宮の白羊宮です!」
頬っぺたを膨らませる。
かわいい。
「俺は…何だか色々あり過ぎて、理解が苦しいんだけど。」
困惑して頭が痛くなってきた。
気づくと、体に張り巡らされていた蛇模様のようなものも消えていた。知らないうちに。
「と、とりあえずお家に帰ろう!家はどこに住んでるの?」
「私はあなたと契約した身です!少し悩ましいですが、これからはパートナーとしてあなたの家に居させて頂きます!」
「はっはーん、つまりは家出少女というわけだな?分かった。今日はもう遅いから、明日家に行こう!そうしよう!」
聞かなかったことにした。
聞こえなかったことにした。
(何?パートナーって!!)
そして俺たちは
夜道を歩き家路に着いた。
牡羊座でもない俺が牡羊座の少女と契約はじめました 後期高齢者 @Kizki
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