7話 面と向かって小説書いてるとか言われても反応に困るよね
加奈子の独壇場は延々と続いた。
検討などとはいうが口を挟む隙(すき)など雄一にはないし、そもそも前提となる知識もあやふやだ。
話は信長から始まったがどんどんと脱線していった。
島津の捨てがまりと撤退戦術や、佐賀鍋島武士の心意気と葉隠などそれは異世界に行ったときに本当に役に立つ情報なのかと雄一は疑問に思いもしたが、睦子と加奈子はすごく楽しそうにしていたのでこれはこれでまぁいいかと考えた。
「あ、もうこんな時間だわ!」
睦子が部室の時計を確認して言う。
雄一も窓の外を見てみた。夕日であたりは赤くなっている。六時を過ぎる頃だった。
「どうだったかしら! サバイバル部は!」
「まぁ……こんなもんだろうなぁって感じだよ。姉ちゃんといつも話してるのとそう変わんねー」
「えーと、全然話がわからなかったんですが……」
そう言う愛子は必死に議事録を書いていた。わからないながらも何とかまとめたというところか自身なさげな様子だ。
「大丈夫! 別にわかんなくてもいいわ!」
「じゃあ、何のためにやってんだよ……」
「まぁ部室であれこれ言ってるだけなのもあれだしね! 外に行って活動することもあるし、朝練で走ったりもするわ! いろいろやってるからまた来てね!」
「はい……部活の内容はよくわからなかったんですが、凄い先輩がいるんだってのはわかりました!」
「まぁ……織原さんはなんかすごかったよな」
雄一もしみじみと言う。
「私も部活はなにかしなきゃな、と思ってたけど特にこれといってしたい部活もなかったからここで頑張ってみます!」
「え? ……本気か? いや、したいってなら止めないけど……」
「あの……すいません……ずっと喋ってばかりで……」
加奈子が我に返ったのかおずおずと喋り出した。
「あぁ、いや戦国時代とかよくわかんないですけど、飢えて切腹するよりはって年貢米泥棒したって人の話とか面白かったですよ」
「そ、そう? よかったぁ。じゃぁ今度は中世風世界にトリップしたときの話にするね!」
何でこの人はトリップのことばかり考えてるんだと疑問に思う雄一だが、爽やかに微笑(ほほえ)む加奈子にはツッコミづらかった。
「あ、そうそう織原さん。ゆうくん達にあれを教えてあげたら?」
「え? あれって……あれ? でも……」
「大丈夫よ。それに見てもらって何ぼって感じよ! 見て貰わないと上達しないんだから!」
「……わかったわ。えとね。その……私小説書いてるの」
とても恥ずかしそうに加奈子は言った。
――そんなこと言われても困るわ!
雄一は思った。実際の所面と向かって小説を書いてます。と言われると微妙な気分になる。
「え! 小説書いてるんですか! すごいですね!」
愛子は単純なのか素直に驚いている。あまり本を読まない彼女からすれば小説を書くというのはそれだけで凄いと思えるのだろう。
「えーと、その異世界とかの小説を書いてるんですか? なんてタイトルです?」
雄一は一応聞いてみた。この流れで無視するわけにもいかない。
「えとね、「俺の大魔王が可愛すぎて倒せないから世界がヤバイ!」っていうタイトルで、小説投稿サイトに投稿してるんだけど……」
「全く中身が想像できないんですが……」
もう少し可愛らしい感じの小説を書いてもらいたかったと雄一はとても残念な気分になった。
「自分で説明するのは恥ずかしいから読んでみて」
「はぁ……」
雄一はそう言われてしまったからには読んで感想言わないとなぁ、と少し憂鬱な気分になりながらも、それまでずっと椅子に腰掛け黙って話を聞いていた茨木を見た。
「なぁ、お前いつまでいるんだ?」
「ん? 部活は終わったんだろ? ならそろそろ帰るよ」
「何がしたいのかわかんねーけど、約束は覚えてるな? 二度と俺らに手を出そうとすんなよ」
「あぁ、わかったよ。そんな気はなくなった……っと電話だ」
茨木が机においてあった携帯に出る。制服のポケットに入っていたものだが脱がせたときに取り出してあった。
「おぅ、お前か。あ? 出られなかったんだよ。何だっていーだろが」
「ん? あぁ……それね……」
茨木がちらりと雄一の方を見る。
「飽きただけだよ。それにこんなとこで殺しても後始末がめんどくせーなーって我に返った。あ、そんだけかよ。じゃーな」
そう言って茨木は忌々しそうに電話を切った。
続けて雄一の携帯が鳴る。番号登録をしたわけではなかったが表示される番号には見覚えがあった。武内奈月だ。
『こんばんは。坂木くん』
「今日休んでたよな。こっちも話はしようと思ってたんだ。ちょうどいい」
『今日休んでたのはね。約束通り皆殺しにしようかと思ってその準備をしてたの』
「なっ」
『ふふっ、冗談。最悪の場合はそれでもいいんだけど……今のところ坂木くんと野呂さんだけなんでしょ?』
野呂は確実にターゲットにされてしまっている。雄一はこれはまずいことになったと歯噛みした。今更誤魔化したところで無駄だと思える。
「ならどうする?」
『坂木くんだけならね。放っておいてもよかったの。けどね……男のおしゃべりはよくないと思う』
「だからどうするつもりなんだ?」
『そうね。とりあえず坂木くんと野呂さんだけ死んでもらうことにした』
「ふざけんな!」
『約束を破ったのはそっち。だから選んで。二人が死ぬか、学校関係者が全員死ぬか。明日決行するから』
「……俺らがお前の行動範囲内で死ぬのはまずいんじゃないのか?」
必死に考えて出てきたのはそんな程度のことだった。
『だからね、あなた達には私の狩り場まで来てほしいの。あ、そうそう書き置きも用意しておいて。そうね、今時ちょっと不自然な気もするけど、二人で駆け落ちするっていうシナリオでどう?』
「ちょっと待て……なんだそりゃ……」
『今夜十二時まで待ってあげる。二人で一緒に来て』
狩り場の住所を告げると奈月は電話を切った。
「ちょっと! 坂木くんどうしたの!」
顔面蒼白といった明らかに様子のおかしい雄一に愛子が呼びかける。
「かなりまずい事態だ……俺と野呂を呼びつけて殺すとか武内が言ってる……」
「はぁ? 何それ?」
「俺らが行かなかったら学校全員皆殺しだってよ……」
「えぇー! ってそれってやっぱり私がばらしちゃったから……」
昨日のことを思い出したのか愛子も意気消沈とした。
「あ? あいつ、んなこと言ってんの? ……まぁ皆殺しとかはハッタリだろうな。そんなんするぐらいならわざわざ学校生活なんてやってねーだろ。けどまぁ……それでお前らを呼び出して殺すとか言うのはマジっぽいな。どうすんだ? 行くのか?」
茨木が口を挟んだ。多少は奈月の性格や行動を把握しているらしい。
「そりゃ……行って殺される。逃げて皆殺し。この二択なら行くしかないけど……」
時間と場所を指定された。行くしかないとは思えるが、だからといって素直に殺されてやるつもりもない。それに野呂を巻き込んだ上に死なせてしまうなど言語道断と思える。
「もっと話しあってどうにかするか……」
「んだよ、俺ボコるときは嬉々として突っ込んできたくせによ」
「お前に話し合いの余地なんかあったのかよ!」
「ははっ、ねーな、そりゃ」
雄一はため息をついた。うなだれるもその視界の隅に何かうずうずとした様子の姉をとらえる。
――あぁ……これはいっちょかみたいって様子だよな……。
雄一は姉を見つめた。先ほど弟の自主性に任せるとかそんなことを言っていたのを思い出した。雄一が自分から言い出すまでは口出しはしないつもりなのだろうが、その態度はあからさまで、私も混ぜて! と全身で言っているかのようだった。
――仕方ねーか……
「姉ちゃん、助けてくれ」
「うん!」
睦子は満面の笑みを浮かべた。
「でだ……さっきは詳しく聞かなかったんだが、武内は外来種だとか言ってたよな? あいつもその、鬼とか吸血鬼とかの妖怪みたいなもんなのか? だったら何か弱点とかねーのか?」
雄一が茨木に聞いた。そこまで素直に答えてくれるのかは疑問に思えるがとりあえず聞いてみる。
「はっ、そんな弱点とか知ってたらあいつをのさばらしたりしてねーよ」
「じゃあ何だ、その種族ってのか? それは?」
こいつは知らなくても姉ちゃんなら何か知っているかもしれない。そんな淡い期待をこめて雄一は聞いた。
「あいつは
雄一達は夜の町を歩いていた。部活の後ファミレスで食事をしそのまま来たので制服姿のままだ。雄一、愛子、睦子の三人でやってきた。
加奈子は無関係ということで部活の後帰宅した。茨木も途中までは一緒だったがいつの間にかその姿を消している。奈月と対面するのが嫌だったのかもしれない。
雄一達の住む星辰市から電車を乗り継いで一時間ほどの場所だ。度々暴動が発生するということで有名な地域だった。日雇い労働者とホームレスであふれる街だ。
近隣では絶対に近づくなと教育されるような地域で成人男性でも夜には来たくなどないだろう。高校生、しかも女連れなどでは危険極まりない。
だが時間帯ゆえにかそれほど人通りが多いわけでもなかった。
「何だってこんなとこなんだよ……」
雄一がぶつくさ言う。
「ねぇ……あれってホテルなんだよね? 一泊千円以下ってどうなってるの?」
愛子が看板を指して不思議そうに言った。汚らしい手書き文字で宿泊代が書き殴ってある。看板が出ている建物はお世辞にもホテルなどと言いたい代物ではない。
「あれはね、ドヤっていうらしいわ! ドヤ顔とは違うのよ! 宿(ヤド)の反対でドヤよ」
「そうなんですかぁ。じゃあやっぱりホテルなんですね」
「何で窓に鉄格子ついてんだよ!」
「……逃げないように?」
「何から!」
「さすがは日本唯一のスラム街よね!」
睦子はあたりを見回しながら歩き感心したようにそう言った。
全体的に小汚いというイメージの街だ。
暖かくなってきているせいかそこら中に人が寝転んでいた。
雄一達の街にもホームレスらしき者は少数ながらいる。だが、家がないことをここまで全力で主張している人間を見たことはなかった。
「狩り場……ねぇ」
何となく雄一は思った。ここでなら人の一人や二人が死んでいようと、行方不明になっていようと大して問題にはならないのではないかと。
睦子ははしゃいでいた。この日本でありながらどこか異世界感のある街に興奮しているらしい。
愛子はというと特に何とも思っていないのか雄一の隣を怯えることもなく歩いていた。
この街が何なのか全く知らないらしい。このあたりは裕福な家庭に育ったお嬢様ということなのかもしれない。それに雄一の隣というだけで安心感があるのだろう。何があっても守ってくれると信頼しているようだった。
雄一達は携帯電話の地図を頼りに伝えられた住所へとやってきた。そこにあったのは廃工場だ。
打ち捨てられた廃工場などホームレスの溜まり場になりそうだがその気配はなかった。その一帯は一際静けさに包まれている。
明かりがついているため中に誰かがいるのだろうということはわかった。
警戒しながらも雄一達は中へと入った。
金属加工系の工場だったのか、鋼柱や薄い板を巻きつけドラム状になった鋼材などが放置されている。それらを運ぶためにかクレーンなどの施設もあったがこの寂れぐあいから見るに今でもまともに動くとは思えない。
入り口から入ってしばらく進むと制服姿の女子高生がいるのがわかった。武内奈月だ。やって来たことを察したのか待ち構えていたようだ。
切り裂きジャック。1888年にイギリスで発生した連続殺人事件の犯人の通称だ。
この事件は未解決で、もちろん犯人の正体は不明であり、その弱点などわかるはずもない。
睦子も幾つか事件についての仮説をあげることはできたがこれが真相だと確信を持って言うことはできなかった。だが、
「事件発生から百年も経てば伝説化するわけだし、妖異化してもおかしくないわね!」
と興味津々ではある。
もちろん武内奈月がこの事件の犯人そのものではないのだろう。どう見てもイギリス人ではない。多少エキゾチックな面も見られるが日本人としか見えなかった。
奈月は開けた場所に立っている。
電気などとうに止められているかのような工場だがそこかしこに明かりは付けられていた。タービンが回るような低い音がするため自家発電を行っているのだろう。
雄一達はその開けた場所に入った所で止まった。あまり近づきすぎるのもまずい。最低限会話ができるほどの距離をおいた。
「こんばんは。坂木くんに野呂さん……とその人は?」
奈月が睦子を見ながらそう言う。訝しげな様子だ。想定外だったのだろう。
「俺の姉ちゃんだ。お前の正体を言っちまったから連れてきた」
「へぇ? 殊勝な心懸け……ってことでいいのかな?」
二人を置いて雄一が一歩前へ出た。意図を察したのか睦子は愛子を連れて少し離れると鋼材の山へと腰掛けた。
「書き置きは持ってきた?」
「んなもん書くかよ。俺は話し合いに来たんだ。何も殺したりしなくても折り合いのつけられる所はあるはずだ」
「ふーん、まぁいいけど。携帯は持ってる? ならそれでいいか。そっちの方が自然かな。後でご両親にメールして……うーん、でもお姉さんの扱いが面倒ね」
奈月としてはこの状況にもってこられただけで全てが解決したも同然と思えたのだろう。そのためか今までと比べると幾分と穏やかに雄一には感じられた。
「なぁ……ここは何だ?」
雄一達を殺すのは決定事項なのだろう。まるで取り合わない奈月に別方面の話を振ってみた。
「闘技場」
「へ?」
予想外の言葉に雄一は間抜けな声をあげた。
「もしかして、私がそこらのホームレスを狩ってるとでも思った?」
「違うのかよ」
雄一は狩り場がこの町だと聞いててっきりそうだと思い込んでいた。このあたりでは年間に数百人単位で凍死者や餓死者が出るという。それに紛れて人殺しをしているのだとあたりをつけていた。
「そんな活きの悪いの殺したってお腹は膨れないわ。ここはね、命知らずの馬鹿達が鎬(しのぎ)を削る闘技場なの。もちろん全員自分が死ぬ可能性はわかってる。だからここで死んだって誰からも文句なんて出ないの。ここがそんな場所だってことは非公開なんだけどそれでも血塗られた雰囲気ってどうしても伝わっちゃうのね。だからこんな住みやすそうな場所でも誰もやってこないの」
「凄いわ! 東京ドーム地下闘技場だけじゃなかったのね!」
睦子が喜びの声を上げる。
「いや、東京ドーム地下闘技場なんてねーから」
雄一が奈月と対峙していることも思わず忘れ突っ込んだ。
「もしかしてネットで中継してたりするのかしら!」
「会員制で結構高いのだけど一応ネットでも見られる……ねぇ、この人何なの?」
奈月が空気を読まない睦子の雰囲気に呆気に取られたようになり、雄一に確認する。
「姉ちゃんは気にしないでくれ……。でだ、俺達は今後絶対にお前のことは喋らない。だから……見逃してくれねーかな?」
「駄目に決まってるじゃない。もう、貴方達を殺しちゃうのが一番手っ取り早いの」
「殺すってなら逃げるぞ?」
「無理だと思うよ? 入り口は仲間が塞いでるし」
「仲間!?」
雄一はその可能性を全く考慮していなかった。てっきり一人だとばかり思っていた。
「仲間……って茨木みたいな鬼か?」
「ん? どーゆーこと? あいつバラしたの? 状況が見えない」
「ペラペラ喋ってったよ。嫌われてんじゃねーのか? お前」
「へぇ? そんなことするのは想定外ね……なめられてるのかな。あの一族も見せしめに一人ぐらい殺っとけばよかったかな?」
複数が相手というのがまずい。雄一は焦った。それに奈月の実力もわからない。雄一は思い切って聞いてみた。
「お前……そんなに強いのかよ」
「ん? そうね。鬼に力では負けるかな。けどまぁ、現代人としては力だけにこだわるのはどうかと思う」
奈月は懐に手を入れると何かを取り出し、雄一へと向けた。
「はぁ?」
この映画のセットのような舞台を考えるとそれに相応しいとも言えるが、それでも雄一にとってそれはこの場面で出てくるとは思ってもいないものだ。
それは拳銃だった。
「鬼とか旧態依然とした人たちはこの手のものにひどく弱くてね。もちろん人間にも効果覿面」
雄一はできるだけ銃口から目を離さないようにしつつもちらりと睦子の方を見た。
「ゆうくん、ごめんね。お姉ちゃん銃には詳しくないの」
睦子が申し訳なさそうに言う。大して期待はしていなかったので落胆はなかった。
睦子は携行火器の基本的な構造に造詣はあるが銃個別の特徴までは把握していない。わかるのは自動拳銃であることぐらいだ。
「さて、あまり話ばかりしていても無駄だしそろそろ死んでもらおうかと思うんだけど……野呂さんと最後に愛を語らったりしなくて大丈夫? それぐらいなら待ってあげるけど」
「そんなんじゃねーよ」
「そ、そんなんじゃないから!」
雄一はやる気なさげに、愛子はムキになって反応した。
「そう? 抱き合って情熱的なキスでも交わしてくれるのかと期待してたんだけど」
「そうよ、ズキュゥゥンってするべきだと思うわ!」
「いや、姉ちゃんには聞いてねーよ」
雄一は呆れ混じりに言った。どうも緊迫感にかけてくる。
「はぁ、とりあえずだ。殺される気はない。そういうことなら力ずくでこっちの言うことを聞かせてやる」
「へぇ、男らしいとこあるんだ。そういうのは好きだけど……でもさよなら」
奈月は力むことなく自然に引き鉄を引いた。
*****
雄一は半歩右へと避けた。
「!?」
奈月が目を見張る。続けて二発。連続して発射された銃弾はかすりもしない。雄一はそれを最小限の動作でかわした。
「どういうこと!?」
「いや、なんかすげぇ超能力でも使ってくるのかと思ったら普通に撃ってくるだけかよ。安心した」
わざと外したわけではない。奈月は確実に当てるために胴体を狙っていた。彼我の距離は十メートル程だ。相手に何もさせずに一方的に殺せる距離、狙いを外すわけもない距離だ。実際狙い通りの軌跡を弾は描いている。だがその先に雄一はいなかった。
「そんな驚くほどのことか? 弾は銃口の先にしか飛んでこないんだ。これほどわかりやすいもんもねーだろ」
引き鉄が引かれる瞬間に銃口の先から移動して狙いを外す。言ってしまえば単純なことだがこんなことが常人にできるはずがない。
奈月は一瞬我を忘れかけたがすぐに狙いを変えた。
続けて発砲し雄一を部屋の隅へと追い込む。逃げ場をなくすのだ。それは半ば成功した。
雄一は狙い通り部屋の隅へと誘導された。
逃げ場のない雄一目掛けて発砲する。
だがそれも雄一を捉えることはできなかった。
奈月は呆けたように口を開けてそれを見ていた。
意味がわからない。
銃弾が弾(はじ)かれた。
雄一は右腕の側面を立てるようにしていた。正中線をかばうような形だ。
ブレザーの袖が破れ黒いものが見える。トンファーと呼ばれる武器だ。雄一はそれをブレザーの中に隠し持っていた。
「ゆうくんに飛び道具は効かないわ! 押し付けたボウガンだって避けちゃうんだから!」
「姉ちゃん……いきなり鏃(やじり)の付いたのから始められたときは死を覚悟したんだが……」
「それはトンファー型の特殊警棒! 鋼鉄製だから9mm弾ぐらいなら弾(はじ)けるはずよ!」
奈月は全弾を撃ち尽くしていた。反射的に弾倉(カートリッジ)を交換しリロードする。だが幾ら撃っても当たる気がまるでしなくなっていた。
「ふふっ、今ゆうくんはこんなふうに思ってるはずだわ! 「来いよ武内! 銃なんか捨ててかかってこい!」てね!」
「思ってねーよ!」
奈月は銃を捨てた。
「は?」
挑発にのると思っていなかったのか雄一が間抜けな声をあげる。
「まさかね……舐めてたわ……」
奈月は前傾姿勢を取った。その両手にはいつの間にか医療用メスが握られている。
「解体してあげる。皮膚も内蔵も全部バラバラにして飾ってあげるわ!」
奈月が雄一へと駆け出した。
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