犬王

 この映画は2022年の5月に公開されました。んで、2022年度ゴールデングローブ賞ノミネートされた記念で、去年末から期間限定で地元シネコンで上映されているんです(※執筆時)。

 映画はサイエンスSARUが作っています。そう、湯浅監督作品ですね。舞台は南北朝から室町期の京都。その時代に活躍した能楽師の犬王の物語です。湯浅監督のオリジナルな物語かと思ったら、ちゃんと原作があったのですね。


 原作は2017年に出版された古川日出男先生の小説『平家物語 犬王の巻』。そう、この物語は平家物語と繋がっています。平家物語と言えば、同じくサイエンスSARUでアニメ化していましたよね。犬王は平家が滅びた後の話なので、実質平家物語の続編と言えなくもありません。繋がっていたのねえ。

 私は原作を未読なので、映画が小説の忠実なアニメ化なのか、アレンジされているのかは分かりません。劇中の犬王のライブシーンとか、あれは多分アニメオリジナルだとは思うのですけどね。


 この映画は犬王と、彼の親友の琵琶法師友魚(友一、友有)が成り上がっていく話です。猿楽の才能を持って生まれた異形の犬王が友魚と一緒に自分達の芸を磨いていくのがメインの描写なので、必然的にライブシーンがメインとなります。映画のジャンルもミュージカルアニメですしね。

 主役の犬王の声を演じているのが『女王蜂』のボーカルのアヴちゃん。なので、ライブシーンの迫力は流石なものがありました。歌以外のシーンの声の演技も違和感なかったですよ。相棒の友魚の声が森山未來氏で、彼も歌います。この作品って歌がメインだけあって、キャスティングありきなのでしょうね。


 時代的に南北朝の頃の話だけあって、最初の琵琶法師の歌は普通によく聞く感じの伝統的なものなのですが、犬王と友魚が出会ってからは一転して現代風の曲調に変わります。映像の中に入っていない楽器の音も入っていたりして、その辺りはこだわってはいないようですね。深く考えちゃダメだぜ。

 犬王が歌い踊るシーンも時代劇の舞っぽいものではありません。現代アーティストのライブシーンか、それ以上のパフォーマンスを見せてくれます。時代を超越しているなおい。ここも細かい事を気にしちゃいけません。全てはノリです。考えるな、感じるんだ!


 ちなみに舞台裏の描写もあるのですが、当時の技術でも可能なんだぜと言う風な演出をしております。まぁハッタリですけど。でも色々考えているんだなと言うのが分かって面白かったですよ。

 友魚の路上ライブも回数を重ねるごとにどんどん衣装が傾いてきて、時代を超越していきましたね。その変化も注目ポイントのひとつかなと思います。


 この物語が平家物語の続編と言うのは、平家物語の因縁から物語が始まっているからなんですよね。友魚はそのせいで視力を奪われますし、犬王は体を異形に変えられてしまいます。

 友魚や犬王のライブで歌う歌も、テーマは平家物語なんですよ。そして、平家の亡霊が満足するごとに犬王の身体は人間に戻っていきます。そう、この物語は芸能版どろろなんですな。犬王が異形になった経緯もどろろと一緒ですし。


 物語の最後は2人の悲しい別れになって、時の権力の理不尽さが浮き彫りになります。最後まで自分の信念を貫いた友魚と、迎合した犬王。ここも色々と考えさせられます。までも現実って案外そう言うものなのかも知れませんね。


 映画の売りはやっぱり犬王のライブシーンです。これ本当にすごいですから。アヴちゃんの歌声は勿論なんですけど、ライブの演出もすごい。一見の価値ありですよっ! そりゃゴールデングローブ賞にノミネートされるのも納得ですわ。


 ミュージカルアニメなのでそう言うのが苦手な人は敬遠すると思いますが、でも歌のテーマが普通のミュージカルアニメのそれではないので悪くないのではないかと思います。ミュージカルアニメって、普通はキャラのその時の心情を歌で表現するじゃないですか。そう言うんじゃないですから。歌もかっこいいですしね。


 と言う訳で、この映画は湯浅監督ファンの人やアヴちゃんファンの人にオススメです。ミュージカル映画が苦手な人も是非観て欲しいな。とは言え、歌そのものが苦手な人には無理かも知れません。

 私は十二分に楽しめました。面白かったですよっ。

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