第23話 聖剣エクスカリバー

 

「これが、俺の【個能ユニーク】か」



 瞼を開けると、俺の掌に一振りのロングソードがその質量を主張してきた。


 両刃の刀丈は俺の腰くらいか、やや長めの剣だ。

 滑らかに光を反射する刀身には十字架を描くように鍔が交差しており、白銀の刃を引き立てる金色の鍔には麗美な装飾が施されていた。


 鍔に付いている装飾は、七色の水晶石が、表四つ、裏に三つ、それに刀身と柄の交差部分に大きな紅石が一つと、合わせて八つの宝石が輝いている。

 また、俺の手に吸い付くように馴染む柄には刀腹まで延びる繊細な彫刻が刻まれており、剣全体に麗美な一体感を醸し出していた。


「美しい…………」


 俺の美顔を反射させる鏡のような刀身に、俺は思わず はぁ…… と息を吐いた。

 息をで薄っすらと曇った刀身が、が映る俺の顔に妖しいスモークを掛け、これもまた美しい。


 ――なんて完璧な【個能】なんだ。

 婉麗かつ洗練された美観、しかしそれだけでなく業物らしい力強さと研ぎ澄まされた危うさも兼ね備えている。


 ああ、これこそ正に――――。


「いやいや水燈。なにそれ。何なのその剣は? ナルシストワールドにトリップする前に僕達に教えてくれない?」


 俺がロングソードの美しさを噛み締めていると、それを遮るように空楼が問いかけてきた。


「んだようるせぇな。俺の魅惑的な美貌に個能の研ぎ澄まされた美しさが合わさったんだぞ。この歴史的な瞬間にこの美を堪能する以外にすることなんてあるのか?」


「あるよ、いっぱいあるよ。どうやって個能出したの? それに、その剣なんなの? 説明してくれない?」


「いや、個能は頭の中に思い浮かべたら自然と出てきたんだよ。この剣の説明っつっても、俺も出現させたばっかりだから、この剣が持っているであろう神の如き力までは分かんねぇぞ」


「神の如きってなんだよナルシスト。何を根拠に自分の能力に無限の可能性を信じているのか一回聞いてみてもいいかい? ――ってか、僕が訊きたいのは水燈の【個能】の能力とかじゃなくって、その剣に書いてあ・・・・・・る文字が何なの・・・・・・・? ってことなんだけど」


 空楼の視線が俺の手にあるロングソードの刃を見据えた。


 確かに、この剣にはもう一つ装飾が施されていた。

 それは剣の身に刻まれている刻印。

 その文字が記すのは『エクスカリバー』――かの伝説の剣の名前だった。


「伝説の剣の名を冠しているとは、完璧すぎて怖いくらいだな」


 悪を切り、全てに光をもたらす聖剣。

 正にこのイケメンの王である俺に相応しい武器――――


「すっとぼけんじゃないよ。何が刻印が刻まれている・・・・・・・・だよ。刀身にカタカナ・・・・悪ふざけみたいな・・・・・・・超巨大文字・・・・・が彫り込まれてるんじゃないか」


 空楼が俺の独白をブツ切って頭痛でも堪えるように頭に手を当て言った。

 俺の頬を何とも言えない汗が滴った。


 ……そう、俺の手で輝くロングソードの剣腹には、3インチくらいのカタカナで、切っ先から鍔元にかけて剣腹めいいっぱいに『エクスカリバー』という文字が力強く彫り込まれていた。


 先に記したように、この剣を飾る宝石や彫刻はどれも完璧過ぎるまでに完璧だった。

 それゆえ、この フォトン設定ミスっちゃった、てへ☆ みたいな無駄に力強い巨大文字が浮きまくっている。


 ――何故このサイズにした。

 明らかに過剰な大きさだ。

 名前を記したいなら柄口とかに小さく付けといてくれればいいだろ。

 しかもカタカナて。


「なんか、大学生がサークルのノリで作った模擬刀みたいだね」


「グハ……ッ!」


 空楼の言葉が容赦なく俺の心を抉る。

 ハートは、胸を押さえ蹲る俺に向かって、オロオロしながら。


「その……ほら、水燈が出したような、武器や道具の形になって現れる『顕現型』の【個能】の本領はそれに宿っている能力の強さで決まるんだ。例え剣の見た目・・・・・がクソダサくても・・・・・・・・大丈夫だぞ!」


「グボハッッ!!」


 気遣うように言ってくれるが、素直過ぎる感想がより一層俺の心を削る。

 俺のHPはもう0だ。


「あ~……ハートたん、水燈は見た目が全てだからその言葉はむしろ追い打ちだよ。慰めるのは僕がやっとくから、水燈が立ち直るまでハートたんは……」


「黙れ、ハートたんと呼ぶなと言っただろう。切り取るぞ」


「あれぇ!? 今のそういう流れじゃなくない!?」


 ハートは深く傷ついた俺にどうすれば良いのか分からず、少し涙目になってアタフタしていたのに、そこに空楼がさり気なく声を掛けた途端、ゴミを見る目で空楼を見下して舌打ちした。

 フォローを入れただけなのにあまりにもな対応を取られ空楼が素っ頓狂な声を上げる。


「え、いや、僕はただハートたんに……」


「誰が喋っていいといったこの七三」


 しどろもどろに言い訳をする空楼をハートが追撃する。

 あわれ変態。日頃の行いなり。

  

「う、うぁあああっ、水燈おお。ハートたんが罵ってくるよお」


 空楼が泣きついてきた。


「でもちょっと気持ちいよおお」


 救いようが無かった。


 抱きつくな気持ち悪い。

 てかこいつら俺を慰めてたんじゃねぇのかよ。

 何で俺が空楼をシバキながら慰めなきゃいけないんだ。



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