入門
「お願いいたします。師匠の弟子にしてください」
入江誠は土下座をしている。ここは八代目若狭屋真夏の自宅兼稽古場である。
「おめぇさんも、そろそろ真面目に後継者を育てたらどうかねぇ」
言うのは若狭屋老虎である。
老虎は先代の真夏である。70を越えた老虎にとって孫弟子というのはのどから手を出しても欲しいものだった。
老虎には弟子が5人いたが、病死したり、廃業したりして今の真夏しか大成したものはいなかった。
その当代の真夏も「弟子を取ったことはあったが」逃げ出したりして、今のところ弟子はいない。
「そうはいっても、、、師匠。。やくざな商売なんですよ。我々は。」
「かといって、江戸からづづく「若狭屋」の名前を捨てろっていうのかい?」
「そんなこと言ってません。」
「いつも平行線だなぁ」と老虎はキセルに煙草を詰めて吸いだした。
「まあ、当代はおめぇなんだ。おまえさんに任せるよ」
しばらくの時間があった。
「顔をあげてごらん」と入江誠に真夏は言った。
「は、はい」
すっと顔をあげる誠。
真夏が誠の目を見据える。
「おめぇさん、なんか心残りをしてることがあるね?」
「え」
「女かい?」
「は、はい」真夏の目は誠のすべてを読んでいるようで、誠は観念した。
「とりあえず、その「心残り」を何とかしねぇとどうしようもねぇよ。一度国にけぇって型を付けてきな。」
「は、はい」
「まったくおめぇさんは。。。」老虎は再びにキセルをふかした。
とりあえず、夜も遅いので誠は真夏邸に厄介になった。
食事が出され、寝床も用意されていた。
まだ「客分」という待遇なのである。
翌朝、誠が目が覚めると、真夏はいなかった。
朝食の準備がなされていて、その上に一枚の封筒が見えた。
「入江誠さま」と綺麗な文字が書かれている。
誠は急いで封筒を開けると、中には「10万円」の現金と、一枚の手紙が一つは言っていた。
「とりあえず、この金で国に土産でも買って帰りなさい。「心残り」がなくなったら改めて入門を許可します。若狭屋真夏」
「師匠。。。。」誠の目から大量の涙が出てくる。
お察しがよろしい読者ならもうお分かりだと思うが、「入江誠」こそが「九代目若狭屋真夏」となる人物である。
「あいつも、昨夜一晩悩んでな。とりあえずは「内定」ってやつだ。」
と老虎が不意に現れた。
「とりあえず、国にけぇりな。「型が着いたら」晴れて弟子入りだ」
「は・・はい、大師匠」
「くぅー。大師匠ってのはいい響きだね」
まるで自分の孫のように誠の弟子入りを喜んだ。
とりあえず、一通り実家に戻る準備をして、駅に向かった。
「はやく型ぁつけてこいよ」と老虎は駅までついてきた。
そして、入江誠は故郷の宇和島に向かう。
その姿を当代の真夏も影から眺めていた。
「がんばれよ」そういうとその場を後にした。
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