再来

 ↓とまあ、こんな感じ。


 俺は久和に一真との出会いを語った。


『作者の桐華さんに「つまらん」なんて言ったんだ、一真』

『つまらんからつまらんと言ったんだ。それに、たぶん俺は自我に目覚めたんだからな』

『どういうこと?』


 ↓実は、それまでに書いていた小説全部に「斑目一真」を主人公、もしくはサブとして登場させていたんだ。


『ええっ!? 全部に!?』


 久和が驚愕の声をあげた。


『そうよ。「斑目一真」があっちゃこっちゃで動き回っているんだ。しかも物語は素っ気ねぇし、面白味も欠けてる。そんな話の主人公を延々やらされてみ? いい加減にしろ! って思っても致し方ないだろ? それで俺は目覚めた』

『じゃあ、江戸のミステリーの主人公も?』


 ↓斑目一真の予定だった。


『いや、でも普通名前は毎回変えるもんじゃないんですか?』


 ↓いや、なかなか思い付かなくてね。とりあえず一真でいくかって書いてたんだけど。


『変えるのが面倒になったんだと』

『それ作者としてどうなんですか!?』


 うう……帰す言葉もない。


『はあ~。じゃあ、その江戸のミステリーが桐華さんと自我の目覚めた一真の第一作になるわけですね』


 ↓そうなんだけど……。


『ありゃお蔵入りになった』

『お蔵入り?』


 ↓いやいや、お蔵入りになったのは一真のせいだからな!


『はあ~? テメェ、人のせいにするなよ!』

『あの~、何でお蔵入りになったんですか?』


 ↓ちゃんとミステリーになってたんだよ。事件が起きて探偵が犯人を特定、ってとこまで書いたんだけど。


『もう終盤じゃないですか』


 ↓探偵の一真が犯人をボコボコにした。


『一真! 何で!?』

『だってよ。その犯人、女子供ばかり殺す野郎だったんだぜ? 許せねぇだろ』


 ↓んで、殴られた犯人は死亡。


『死亡!? 探偵が犯人殺しちゃマズイでしょ!』

『はっはっは~、ついな。歯止めが利かなくて』


 ↓おかげで殺人犯になって、流浪人探偵が逃亡人探偵になったんだよ。とてもじゃないが続編は書けない。


『ああ……でも、なぜか容易に想像できる』


 久和が頭を抱えながらも納得している姿が浮かんだ。


 ↓久和の場合はこの世界の空が赤くなったせい、だったっけ?


『ええ。でも、大半の原因は一真と接触したからだと思います。そのせいで、僕にも自我の目覚める種みたいなものが植え付けられたのでしょう。そしてあの赤い空がきっかけとなった』


 ↓そして、あの魔物が現れた。


『ええーーおおっと』

『来たな』


 ↓来たなって、まさか!?


『ああ、あいつだ』

『話に出たとたん姿を現すとは随分寂しがりやな魔物みたいですね』


 一真と久和の台詞には恐怖という感情は読み取れなかった。どうやら大分落ち着きを取り戻しているようだ。


『おい、作者。何か思い付いてるんだろうな? まさか何もないなんてことは』


 ↓いや、一つ思い付いたことがある。


『今度は大丈夫なんだろうな?』


 ↓ああ。これなら大丈夫だ。


『じゃあ、それでいきましょう』

『次は頼むぜ』


 ↓ああ。


 一真と久和、そして俺は魔物の襲来に備えた。


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