第11話 きらきらスポットライトさんと、プリマドンナさん
「ねぇ、スポットライトさん。明日、私の最後の舞台は貴方にお願いしたいの」
プリマドンナさんは静かにそう言いました。
プリマドンナさんは遠い国からプリマに成る為に、まだ小さいな女の子の時から、大きな劇場のあるスポットライトさんの国にやってきました。
毎日、毎日、厳しい練習にも耐えて・・、夢を、『プリマドンナ』に成る夢を叶えました。
スポットライトさんは、毎日、毎日、夢に向かって異国の国で・・、
たった一人で厳しい練習に耐えて踊る小さな女の子を見て、いつか自分は彼女がプリマドンナの夢を叶えた時に、舞台で踊る彼女を、彼女だけを映し出す・・、
『きらきらスポットライト』になると決めたのです。
それは、スポットライトさんにとっても長くて厳しい道のりでした。
スポットライトさんよりも早く彼女はプリマドンナに成り、スポットライトさんは少し焦りましたが、彼女が舞台で踊る姿に励まされ、プリマドンナさんに話しかけていました。
「僕は、必ず君を一番美しく照らしだすことが出来る、きらきらスポットライトに成るからね!」
「ありがとう。スポットライトさん♫」
スポットライトさんの言葉に、彼女はいつもニコニコ笑顔でそう答えてくれていました。
でも・・、
それから暫くして・・、
彼女の国では内戦が始まり、
彼女はとても傷ついていました。
スポットライトさんは、そんな彼女を毎日、毎日、励ましました。
やがて彼女の国の争いは終わりましたが、国は荒れ、
みんな、とても疲れていると言う話を聞いた彼女は、プリマドンナさんは自分の生まれた国に帰って、人々の心に希望を、子供たちに夢を与えたいとスポットライトさんに言いました。
「プリマドンナさん!それでいいの?」
「ええ、私・・・、私が、夢を叶えたように、プリマドンナになれたように。皆に、子供たちに希望を、夢を諦め無ければ必ず叶うのだと言うことを伝えたいの。だから、私の最後の舞台は貴方にお願いしたいの。私を、一番綺麗に照らし出してくれる貴方に、いいでしょ」
「うん、わかった。ありがとう。僕、プリマドンナさんを『世界で一番綺麗なプリマドンナさん』にしてみせるよ」
こうして、きらきらスポットライトさんになったスポットライトさんは、ただただ彼女を、プリマドンナさんだけを見つめて、
見つめて・・・
『世界で一番綺麗なプリマドンナさん』
…大好きな美しい彼女のプリマドンナとしての消えゆく一瞬、一瞬を決して逃すまいと照らし続けました。…
プリマドンナさんの最後の舞台の夜は、観客の鳴り止まない拍手と、賛美の中で華やかに幕を閉じました。
そして・・・
誰もいなくなった劇場。
静まりかえった劇場。
ただ・・劇場の天窓から差し込む月の光だけが静かに舞台を照らしだしていました。
(きっと彼女は今頃、華やかなパーティーの主役として、たくたんの人に囲まれてお別れを言っているだろう。ああぁ、せめて最後に、さようならの一言を言っておきたかったなぁ…)
せっかく、きらきらスポットライトさんに成れたのに、もう、明日から、彼女は、プリマドンナさんはいないんだぁ。
スポットライトさんは、胸の奥で何かがキュンと鳴いたように思いました。
その時、舞台のカーテンが揺れて・・、
白いバラの花束を抱えたプリマドンナさんが現れると、劇場は華やかに息を吹き返しました。
プリマドンナさんは白いバラの花束をスポットライトさんの方に向けて置くと。
優雅に美しく、しなやかに、まるで女王陛下にご挨拶するように、深々と礼をして・・・。
いつものニコニコ笑顔で、きらきらスポットライトさんに手を振って「ありがとう」の言葉を残して舞台を去っていきました。
遠くで、プリマドンナさんを乗せた車の・・さようなら・・のクラクションが二回、聞こえました。
「さようなら」を、言いたかったのに、
言えなかった。
きらきらスポットライトさんは、天窓から差し込む月の光を見上げて小さく呟きました。
「お月様、どうか、どうか、もう少しだけ、僕の胸の奥にある小さな暖かさを、寂しさの裏側にある暖かさを忘れたくないから、もう少しだけ感じさせてください。もう少しだけ…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます