第6話 「いいよ」「行っておいで」「お帰り」…の三言♪念樹さん
三言♪念樹さんの前には、どこまでも、どこまでも広がる大きな田ぼが、
後ろには、これまたどこまでも、どこまでも広がる大きな、大きな海がありました。
「三言♪念樹さん。三言♪念樹さん。綺麗な蝶々に成る為に、葉っぱを食べてもいい?」
青虫さん達が聞きました。
「ああ、いいよ」
三言♪念樹さんはこたえます。
「三言♪念樹さん、休ませてもらってありがとう。私達は、これから海を越えて暖かい国に旅立ちます」と、渡り鳥さん達がお礼を言いました。
「ああ、行っておいで」と、三言♪念樹さんは答えます。
秋の終わりの夜も更けて、三言♪念樹さんは、まん丸お月様の優しい光が心地良くて、うつらうつらとしておりました。
「三言♪念樹さん。三言♪念樹さん。」と、下の方から小さく呼ぶ声がします。
三言♪念樹さんが目を開けて下を見ると、つばめさんの親子が寒さで震えていました。
…どうしたんだろぉ?つばめさん達は随分前に暖かい国へ旅立って行ったのに…
三言♪念樹さんは不思議に思いました。
「三言♪念樹さん、すみません。どうか今夜、貴方の暖かい、その葉っぱのベッドで寝かせてもらえませんか?」と、つばめさんのお父さんが言いました。
「ああ、いいよ」と、三言♪念樹さんがこたえます。
「ありがとう。実は、この子が怪我をしてしまい、飛べるまで治るのを待っていたら。すっかり秋の風が冷たくなってしまって困っていたのです」
お父さんつばめは、横にいる子つばめさんをかばう様に寄り添いながら話してくれました。
お父さんつばめの話を聞きながら、三言♪念樹さんは思い出していました。
そう言えば、
暖かい国へ旅立つ、つばめさん達の中に三言♪念樹さんの頭の上を、名残惜しそうに三回廻って旅立って行った、つばめさん達がいたなぁ。
きっと、この子つばめさんのお母さんと兄弟達だろう…、と三言♪念樹さんは思いました。
三言♪念樹さんは枝を伸ばして、つばめさんの親子を包み込む様に救い上げました。
そして、暖かな葉っぱのベッドで、つばめさんの親子はスヤスヤ寝息をたてて眠ります。
三言♪念樹さんも眠ります。
まん丸お月様は、その様子を見ながら思います。
明日の朝、つばめさん親子がお礼を言って旅立つと・・・。
きっと三言♪念樹さんは、つばめさんに「行っておいで」と言い。
来年の春、旅立ったつばめさん達親子がこの丘に帰って来たら、何もなかった様に「お帰り」と声をかけて、
三言♪念樹さんの何気ない毎日が、優しい時間を刻んで…、過ぎて行くのだろうと思いました。
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