第5話 ケセランパサランさんと春風さん
ケセランパサランさんが、お家に来ると幸せになります。
ケセランパサランは、丸ぁるい小さな身体で、ふわふわの白い毛でおおわれていて、お空をふわふわ泳いでいます。
皆が自分のお家に来て欲しくて、ふわふわ春風さんに乗って泳いでいるケセランパサランさんに声をかけます。
「ケセランパサランさん、うちに来てくれたら毎日ご馳走が食べれますよ」
「いやいや。うちに来てくれたら毎日きれいなお洋服が着れますよ」
ケセランパサランさんは、ただニコニコ笑って。
春風さんも笑って・・・。
また、ふわふわ泳ぎだしました。
町の外れの小さな家の前に来ると、白いエプロンをした若いお母さんが泣いていました。
ケセランパサランさんは、若いお母さんに声をかけました。
「どうしたの?」
若いお母さんは言いました。
「子供が病気になってしまって、お金がいるから夫が大きな町に働きに行ったのですが。大きな町でいなくなってしまって、帰ってきません、・・どうして・・いいのか・・・」と言うと若いお母さんは涙を流しました。
「私が、あなたのお家にいてあげる」
ケセランパサランさんは、そう言うと春風さんに「ねえ、いいでしょう?」といいました。
「いいよ、だって君がいるところが、僕のいるところだから」
春風さんはニコニコ笑顔で答えます。
ケセランパサランさんと春風さんのお話を聞いて驚いた若いお母さんは言いました。
「家には何もありません。この春も、秋も、オレンジの木にも、畑にも何も出来なくて…。だから、家には何も無いんです。ケセランパサランさんと春風さんにしてあげられるものは、何も無いんです」
「いいのよ」
ケセランパサランさんは優しく笑ってお家に入りました。
春風さんはニコニコ笑顔で、お家のまわりを優しくそよそよと回りだしました。
家の中では、小さな女の子がリンゴのほっぺで苦しそうな顔でベッドに寝ています。
ケセランパサランさんは、女の子の頭の上をゆらゆらと泳ぎだしました。
すると!キキキィ~と、お家の前で車の止まる音がしました。
そして、ドアをドンドンと激しく叩く音が聞こえて、若いお母さんがドアを開けると、そこには立派なお髭のお医者さんが立っていました。
家の前で車が急に動かなくなったから、お迎えの車が来るまで休ませて欲しいと立派なお髭のお医者さんは言いました。
そして、立派なお髭のお医者さんは、そのお礼に小さな女の子を診てくれて、お薬もくれました。
お薬を飲んだ小さな女の子のほっぺは、真っ赤なリンゴ色から、ほんのりピンク色になって笑顔になりました。
お迎えの車が来たので、お医者さんを見送って外に出ると!あらあら不思議!
家の前の木にはオレンジがいっぱい、畑にはお野菜がいっぱいになっています。
若いお母さんが驚いていると、大きな黒い車が家の前に止まって中から出て来たのは、大きな町でいなくなった女の子の若いお父さんです。
若いお父さんは、黒い車の持ち主の社長さんからお礼に貰ったお肉やお魚、女の子の大好きなケーキを持って帰って来たのです。
なんて不思議なことでしょう。
「もお大丈夫ね」
ケセランパサランさんはそういうと、小さな女の子のお家を出て、春風さんに乗ってゆらゆらと泳ぎだしました。
「ケセランパサランさん、大丈夫!?身体が重いよ」
春風さんが心配そうに言いました。
そうです。
ケセランパサランさんは人を幸せにしてあげる為に、自分の『優しいふわふわ』を分けてあげるから、今は、とっても疲れて身体が重いのです。
「もう少し我慢してね。あの丘を越えたら淡いピンク色のコスモス畑があるからね」
春風さんはそう言うと、ケセランパサランさんを優しくしっかり抱いて、そよそよと丘を越えました。
そこは一面のコスモス畑、淡いピンク色のコスモスのお花さん達がどこまでも続いています。
春風さんが言います。
「コスモスさん。コスモスさん。貴女のその淡い花びらで彼女を元気にしてあげて」
「まあまあ、春風さん。ケセランパサランさん。どうぞ、どうぞ」
そう言うとコスモスさん達が、ピンク色の花びらでケセランパサランさんの為に花のベッドを作ってくれました。
春風さんは、優しく、そぉ~っと、そぉ~っとケセランパサランさんを花のベッドに寝かせてあげました。
「ありがとう」
ケセランパサランさんは春風さんにお礼を言うと、スヤスヤ寝息をたてて眠ってしまいました。
「大丈夫だよ。僕がずっと側にいてあげるから…」
春風さんの言葉は、スヤスヤ眠ってしまったケセランパサランさんには聞こえませんが、優しい心は、そよ風に乗って届きました。
なぜかって?
それはね。
コスモスのお花さん達や、あごのシャープな三日月さんが。。。
あくびを一つ、
春風さんの優しいそよ風に吹かれて、心地良く寝てしまったからですよ。。。
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