第21話「差別と同化と中つ国」


 結城の声は、絞り出されるような声量だった。

「私もポックルたちも、裏方かもしれんが、この国を必死に護っておる。他ならぬ私らの魔法、でだ。」

「・・・・・」

「私はそのことに誇りを持っている。それはトゥスクルとしての誇りであると同時に、中つ国人としての誇りでもある。私は、君にも同じものを感じて欲しかった・・・。」

「・・・わかる、気もします。私もここに来て、胡沙を見た時、胸が熱くなりましたから・・・。文化として、いつも見られていないように思えていたからかな・・・。こうやって私たちの魔法が中つ国の中心で影響を持っている姿を見ていると、嬉しくて・・・。」

「・・・そうか。・・・だが私は、「誇り」という概念が、今、少しわからなくなったよ・・・。」

「・・・・」

「・・・私の抱く「誇り」と、土蜘蛛つちぐもでテロを起こしているトゥスクルの「誇り」は、違う・・・」

「そ!そんなことを言ったら、土蜘蛛には大和ヤマトの陰陽師や妖怪たちだっているじゃないですか・・・・そんな、結城さんが悩むことじゃ・・・・」

 土蜘蛛は・・・・、ミナはかき乱される心で思った。

(土蜘蛛は、中つ国で魔法テロリズム活動を行う非合法組織だ。

魔族(魔法使い)独立、中央政府打倒を目指し、ゲリラ的な活動を繰り広げている。

噂では、土蜘蛛の構成員の中には、和人やまと系の魔法使いに差別を受けていたトゥスクルもいるという・・・。

元国家陰陽師で、今も国家を守る守護者として重要な立場にいる結城さんにとっては、この手の噂は、ひどく悩ませるものなのだろう。

私は結城さんを気遣う一方で、突然、大きな不安に襲われた。)


「あ、あの・・・」ミナの表情は、固かった。

「ま、まだ大和やまとからトゥスクルに対する差別って、あるんでしょうか・・・?」

結城は、ミナの顔を見ずに、答えた。

「どうだろうな・・・。私らの世代では、そういう経験もあったかもしれんが、君らの世代では、そんなことはないと信じているよ。」

曖昧な返事だった。結城は、ミナを安心させようとしているのだろうか。それにしても、つかみどころのない返事だ。


蝦夷流陰陽師トゥスクルには、私たちトゥスクル大和やまとと呼ぶ南部の魔法使いたちと長らく対立していた歴史がある。

その歴史の中、お互い勝ったり負けたりしながら、最終的には数に勝る大和が私たちトゥスクルに勝利し、私たちの土地を併合する形で中つ国は統一された。

その後、おばあちゃんやおじいちゃんの話を聞く限り、大和からトゥスクルには、大きな差別もあったらしい。

私はずっとこたんで育ってきたから、幸運にも特に意識せずにいられたけど、たまに村に訪れる魔法庁の役人の中には、私たちに対して横柄な態度をとる人もいたような気がする。

だから村の中には、私を国家陰陽師エボシにスカウトしに来た魔法庁の人に強く反対する人もいたんだけど、その魔法庁の人はとりわけ人が良くて、とりわけしつこかったから、みんなも特別に許してくれたらしい。

大人の話だと、ああいう国家陰陽師エボシは珍しいのだという。(その人は自分を常世系巫ユタの陰陽師だと言っていた。)

 それだけみんな、辛い差別の過去を背負っているのだと思ったものだ。


 そして、私もそういう過去を背負うことになるのではないかと、不安になったものだ。)


「・・・ミナちゃんは、中つ国の歴史を知っているかい?」

結城は、突然ミナに聞いた。

「・・・ゴメンなさい・・・歴史の方はあまり・・・・」

彼女は嘘をついてはいない。

正直に言って、彼女は歴史が苦手だった。

本に書いてある歴史は、私たちトゥスクルが不在の過去で、村の人から聞かされる歴史は、悲しい迫害の過去だった。

ミナにとって、歴史は面白い知識ではなかった。

彼女にとっては、歴史学よりもむしろ、物理学や魔法学のような、今の目の前の世界を知る知識の方が、ずっと没頭できたし、身近に感じることができた。


結城は、寝物語を聞かせるように、ゆっくりとミナに語り始めた。

「・・・神世七代によって国土が創られてから、初めてその国土を治めたのは、天つ神(天国の神)ではなく、国つ神(地上の神)であった。ミナちゃんも聞いたことがあるかもしれん。常世の国の少日子根アマミキヨ様と、根の国の大国主ダイコク様、そしてもちろん、渡島わたりしまには落雷と共にオキクルミ様がお生まれになり、大日女ペケレチュプさまに育てられ、よく統治なされた。」

 ミナも、神代の記録は読んだことがあった。はるか昔の、お伽話のような・・・

「のちに天つ神々が国土に降臨し、「国譲り」が行われたが、その時にあってさえ、この国土では血は流れていない。アマミキヨ様とオキクルミ様はひとりでに御隠れになり、ダイコク様もまた、天つ神々との平和裡の交渉の末、統治権を天に委ねられ、ご自身は冥界の神事に務められた。その後も天地両神が憎しみ合うことはなく、天つ神々でさえ、天国でも大和やまとの社でもなく、国つ社である出雲までわざわざお降りになり、年に一度の神々ヤオヨロズの会合を持たれることとなった。それがこの中つ国肇国ちょうこくの経緯、そして肇国以来の伝統だ。」

結城の声は、何か悔しさのようなものを滲ませていた。

「多様性の中にあって対話による団結、非分断こそ、我が国の神代からの伝統であったはず・・・。決して、流血の支配や、単一勢力による圧政、異なる者同士の対立・差別・疎外そがいが、我が国の精神ではなかったはずなのだ・・・。後代にヤオヨロズは、青丘せいきゅう震旦しんたん天竺てんじくなどのくにから渡来してきた神々をも受け入れてきたが、ヤオヨロズのおさである大日女ペケレチュプ様は、太陽が照らす者を選ばぬがごとく、先代の神々と同様、一視同仁いっしどうじん(差別をつけず、すべての人を同じように愛すること)に渡来神様を遇された・・・。神々ヤオヨロズは決して、優生学的な誇りや、対立や差別や疎外を誇ったことなどないのだ。」

「・・・疎外・・・?」

「お互いが「わかりあえぬ者」だと諦めて、その関係が固定化したものであると信じて、対話も交渉も諦めることだ。」

 よそよそしくなる、ということだろうか・・・。ミナは思った。

そして、今はこたんのみんなに愛されている故郷の付喪神たちを思い出していた。


(付喪神さんたちも・・・最初は村のみんなに受け入れられていなかった・・・

でもそれは、「差別」とか、そういう言葉がイメージされるものが原因ではなかった気もする・・・

もちろん、あからさまに彼らを馬鹿にする人たちもいたけれども、それよりも村を覆っていたのは、「無関心」だった・・・。

あるいは、「無関心を装う慣習」だった・・・。

実際、人間界から逃れてきた付喪神さんたちに同情する人たちは村の中には少なからずいて、そういう人は「傘ばらない」を影で応援してくれていたから、心の底から無関心という人が多かったわけではなかったと思う・・・。

でも、言葉も文化も異なる付喪神さんたちは、やっぱりどこか「村の腫物」で、触れるには、エネルギーが必要だった。

村では、常識として、彼らは自分たちとは「全く異なる存在」であって「分かり合えない」というイメージを持っていたから、そのエネルギーはなおさら大きく思えていた。(それは自覚できる差別ではなくて、空気のようなものだった。)

私たちを影で応援してくれたある人は、自分は自分のことで手一杯だから、そのエネルギーが使えないと言っていた。

疎外とは、彼らの持っていた「」のことだろうか?)

ミナは、差別と同じ勢いでもって結城が批判する「疎外」に対して、善悪のつけられない決まりの悪い感覚に陥っていた。

ミナとて、その無関心の装いを積極的に認めたいわけではない。

しかし、彼女たちの活動を影で支えてくれた消極的善人を、差別者と同じ悪と断罪することは、彼女にとって極めて難しいことだった。

そして彼女はまた、彼ら消極的善人を悪と断罪することは、そのまま自分自身を悪と認めることだということにも気がついていた。

(・・・本当は、私だって彼らと同じなんだ・・・。もしお兄ちゃんがいなかったら・・・私だってきっと・・・・)

 関心を行動に移すには、勇気とエネルギーが必要とされる。

彼女はその中で、自分に勇気が足りないことを、今まで嫌という程思い知らされていた。

(私はやっぱり・・・悪い子なんだろうか・・・・・)



「・・・もしかすれば、差別という問題は、今もあるかもしれん。しかし、多様性と対話と団結が、中つ国の精神であるならば・・・古代には大和出雲熊襲隼人やまといずもくまそはやとに、百済高麗新羅震旦天竺くだらこましらぎしんたんてんじくと集まり、中世には白人や黒人の侍もいたという多様な彼らを、和人やまとと一括りに別けて一般化してしまう私らの方にも、その問題の遠因はあるのかもしれん・・・。」

「・・・で、でも・・・」

ミナは自分をだと抵抗を覚え、口ごもった。しかしそれでもそれは、彼女の心に生まれた、抑えることのできない疑問だった。

「・・・彼らは和人やまと同化どうかされたのではないのですか・・・?私たちも、和人やまとに同化すべき、ということでしょうか・・・?」

「同化などありえんっ!」

結城は少し声を荒げた。

それは温厚な彼しか知らないミナを、怯えさせるほどであった。

「・・・すまない・・・でも、同化なんてなんだよミナちゃん・・・」

萎縮するミナに気づき、結城はまた穏やか声で語りかけた。

「・・・そうだ・・・カフェオレだ・・・」

「・・・カフェオレ?」

ミナは、先ほど結城にご馳走してもらった優しいブラウンを思い出していた。

「そう、カフェオレだよ・・・。コーヒーの量に対して、たとえミルクの量が少しであったとしても、ミルクの注がれたコーヒーは、元のコーヒーではないだろう?ミルクの存在が消えて無くなってしまうことはないんだ・・・。」

「・・・・・」

「同化というのは、原理的に不可能なんだよ。たとえ強者が同化を目指して弱者を吸収しようとしても、その二つが関係を持つ限り、強者もまた、弱者の側から影響を受けざるを得なくなる。関係を持ちながら、お互いが不変であることは不可能なんだ。AがBに働きかけるということは、そのままAがBより働きということであり、そのエネルギーは環のように互いへ働きかけ、再帰的にお互いを変化させる。それを回避するには、関係を一切持たないことしかない。つまり、ミルクとコーヒーを分ける以外にはない。それが疎外だ。」

結城の声は、少しずつ熱を帯びてくる。

「国譲りの神話でも、決して国つ神いずも天つ神やまとに同化されることはなかった。それは二つが関係を持つ限り、不可能であるからだ。だから国つ神も天つ神も対話によってお互いを変化させていった。中つ国書記のあるふみに曰く、国つ神は天つ神の主張をそのまま受け入れたわけではない。国つ神は天つ神に議論を投げかけ、天つ神もその議論の正当性を認め、自らその主張を変化させておる。天つ神もまた、関係の中で大きく変化していったのだ。そして国つ神と天つ神は、対話によってお互いを変化させることによって、国つ神と天つ神という。つまり、「国つ神と天つ神」という「対立関係」「不幸な関係」を否定し、「八百万の神々ヤオヨロズ」という全く新しい高次の存在へと統合したのだ。

このヤオヨロズに至るまでには、確かに「国つ神」という存在の大きな変化があるから、見方によっては「国つ神が否定された」と受け取られることもあるかもしれない。しかしそれは断じて、天つ神への同化ではないのだ。国つ神が否定されているとしたら、天つ神もまた、ヤオヨロズに至るまでに否定されているのだ。・・・そして私は、このヤオヨロズの止揚しよう的精神を、中つ国肇国ちょうこく以来の伝統だと考えている。」

止揚しよう・・・?」

「対話によってお互いが変化し、お互いを高次の次元で統合することによって、対立を乗り越えることだ。」

「・・・それは、妥協とは違うのですか・・・?」

「・・・違うと言いたいな。だが、妥協という言葉がどのように定義され、ある合意形成に適用されるかどうかは、その合意形成を見る人の主観にもよるだろう?

中つ国とコロンビア合衆国では、「compromise(妥協)」という言葉は弱腰の後ろめたさを言霊シニフィエに持っているが、アルビオンの英語では、compromiseという言葉はプラスのイメージを持っている。・・・私はこのプラスのcompromiseの価値まで貶めたくはないな。」

「・・・・・」

「・・・私が言葉を定義しても良いなら、合意形成の中で、お互いに「新たな文化を創り出すという意志」が感じられ、お互いの「納得」を重視した結果が生まれるのならば、それは「妥協」ではなく「止揚」と呼んでもいいと思うよ。」

「・・・「新たな文化」、ですか・・・?」

「そうだ。巨大な文化に押し潰される形で妥協するのでもなく、相手を拒絶・疎外して、自ら古い原理主義的文化に窒息するでもなく、第三の道として、対話によってお互いが納得できるような文化を新たに創り出し、そこに未来を託す。それこそ、「止揚」だ。たとえば、現代の我々は「洋服」を着ている。しかし、だからといっていつまでも洋服に着られているわけではないだろう。西洋の文化を受け入れ、学びながらも、それを咀嚼し、対話し、付加価値をつけ、我々なりの服を、文化を創ってきたはずだ。これが「止揚」だよ。」

結城は力強く、ミナに主張した。

「この対話の姿勢は弁証法べんしょうほうとも呼ばれるが、この弁証法はトゥスクルの伝統とも通じるものだ。そして大和とも常世とも。我々は交易民として多様な異文化、多様な異魔術師と交流し、そしてその影響を受けてきた。決して自然のままに、保守的な、原理主義的な文化で閉じていたわけではない。私たちの魔法は蝦夷流陰陽道とも呼ばれるが、それは反閇へんばいやケガレ祓いなど大和の陰陽道と交流し、その影響を受けているからだ。だがトゥスは、そうした外部の魔術をただそのまま受け入れてきたわけではない。我々の魔術と対話させ、我々なりに咀嚼し、そして全く新しい魔術として発明してきた。我々にとって今は古き伝統魔法も、当時では世界的視野から外来魔法を取り入れたモダニズム(現代主義)だったんだよ。それが可能であるという、偏見なく世界中の文化を受け入れることのできるという進歩的、寛容で創造的姿勢こそが、我々トゥスクルの伝統であり、誇りなのだ。・・・・少なくとも・・・私はそう信じていた・・・・」

結城は、急に、今まで熱っぽかった声のトーンを下げ、自嘲気味なため息をついた。


「・・・すまないなミナちゃん。今日会ったばかりの君にこんなことを・・・。私は、変なオヤジだろう・・・?」

「い、いえ・・・そんなことは・・・・」

先ほどの熱意から一転、卑屈にミナに謝る結城は、とても疲れているようだった。


「・・・実は、私にはミナちゃんと同じくらいの歳の息子がいるんだがね。

先日その息子に言われてしまったんだ。

「父さんの言っていることは、被征服民の憐れな慰めだ。父さんはずっと大和の番犬をやっていたから、敗北主義の負け犬根性が染み付いているんだ。洗脳されているんだ。話し合いだなんだと言っているが、初めに力で僕らを支配したのは大和の方じゃないか。結局、話し合いなんて支配者側が体制を守るための詭弁でしかないんだ。この世には勝つか負けるか、支配するか支配されるかしかないんだ。父さんは、トゥスクルの誇りを踏みにじる同化主義者だ。大和の犬だ。」・・・とね・・・。」

「・・・・・」ミナは言葉が出なかった。

「・・・私は、息子にトゥスクルとしての誇りを持って欲しかった・・・。

だから、そのように育ててきたはずだった・・・。しかし、私の持って欲しかった誇りと、結果として息子が抱いた誇りは、違うものとなってしまった・・・。・・・ミナちゃん・・・私は、正しかったのだろうか・・・?」

結城の声は、震えていた。


「・・・は・・・みじめだろうか・・・・?トゥスクルとして・・・恥ずかしいだろうか・・・?・・・俺の信仰は・・・救いは・・・希望は・・・負け犬の慰めと・・・嗤われるのだろうか・・・?」


 ミナは血の気が引くような感覚に陥った。

彼女は「違う」と言いたかった。

しかし、目の前の深刻な彼に応えるには、そのあとに続く自分の言葉があまりにも陳腐になりそうで、うまく言葉が出なかった。

その代わり彼女の口をついて出たのは、頭の中に広がるあまりにもイヤな予感だった。


「・・・あ、あの・・・息子さんは・・・・」

「・・・わからないんだ。先月家を出て行ったきり、何の連絡もない・・・。」

結城は小さく首を振り、苦笑いを一つした後、付け足した。

「土蜘蛛に入っていたら、私も年貢の納め時だな。」

「そんな・・・っ!」

「身内にテロリストのいる門番なぞ、笑い話にもならない。・・・本当は今月にも辞表を出そうと思っていたんだ。」

結城はそう言って、ミナに微笑んで見せた。

ミナにとってその笑顔は、彼の仕事への熱意、誇りを知っていただけに、ひどく彼女の心を締め付けた。


 そうこうしているうちに、地上「霞が関四丁目」に続く階段が見え始めた。


「・・・そうだ、ミナちゃん。MoTに興味があるなら、坂上さかがみげん博士の話を聞いてみるといい。世界で初めてMoTの構想を発表したお偉い先生だよ。たしか今年東都大学を退官で、来年からは東洋大学の新学部の学部長を務めるらしいから、その関係であちこち講演しているらしいんだ。質問でもなんでも、君みたいな真面目な学生なら話も聞いてくれるはずさ。」

唐突に話をそらしたように見える結城は、ミナにはとても痛々しく見えた。

彼女は、階段を踏みしめる自分の足が震えていることに気づいた。


 結城が外の世界へと続く扉に手を伸ばしたその時、ミナは自分のせり上がる感情と一緒に、言葉を吐き出した。


「結城さんは立派です・・・っ!!誰にも恥じることなんてないです・・・っ!!きっと・・・きっと認められると思います・・・・・。

私は・・・っ!少なくとも私は、結城さんを誇りに思います・・・っ!!だから・・・」

ミナは涙を流していた。


「だから・・・辞めないでほしいです・・・・・私のわがままですけど・・・辞めないでほしいです・・・・。」


途中何度もしゃくり上げながら話す少女を前に、結城は穏やかに、静かに微笑みを返した。


「・・・ありがとう、ミナちゃん。・・・私はきっと、誰かにそう言ってもらいたかったんだよ。」

彼は、冷静だった。


「・・・笑いなさい、ミナちゃん。豊間根ミナの「」は、私らの言葉で「」という意味だ。そんな顔じゃ、お外でみんなに笑われてしまうよ。」

「・・・あ゛い・・・っ!」

ミナは涙を拭って、結城に無理やり笑って見せた。

それを見て、結城も笑い返す。


「・・・歴史をかんがみて、一つだけ反証の見つからない法則を見つけたよ。」

結城は扉のノブを掴みながら言った。

「未来を正確に予測できる者は、誰一人としていやしない。」

結城は扉を勢い良く開け放った。


「さぁ若者よ、不確実性の中へ。未来は想像するよりも、創り上げる方が正確だ。」


 ミナの髪を、爽やかな風が撫でた。

 彼女の涙はもう、止まっていた。














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