第5話「鬼」
「逃げてばっかじゃつまらなくないか?」
月明かりが差し込むビル群の空き地に、くぐもった声が響く。
「個人的には一方的な狩りも嫌いじゃないが。俺はまぁ、ヒーローだからな。ブラッドスポーツもフェアにやるべきなんだよ。」
シニカルな響きを帯びるその声の主は、お面で顔を隠していた。
それは中つ国の伝統芸能に使われる面で、「般若」と呼ばれる「鬼」の面だ。
だがその鬼が、これから古き良き古典を演じようとしているとは到底思えない。
黒いエンジニアブーツに、ナイロン質の黒のプルオーバー。
お面の上に黒いフードを目深にかぶった彼は、伝統よりも現代的な印象を与える。
その鬼の体格は、一見子供のそれほどしかないように見えるが、彼の一挙手一投足は、かえってその「小柄さ」を「恐怖」に変換するような洗練さを感じさせる。
彼の手元で、月明かりに妖しくきらめく、銀色のナイフのように・・・・。
黒衣をまとい、不穏な雰囲気を放つ彼に対面しているのは、これもまた、黒衣をまとう女性だ。
ある少年は、彼女を称して「ハロウィン」だと表現した。
そのハロウィンは、傷だらけの体で肩をすくめ、困った風な顔をみせた。
「いやぁハハ・・・私、アナタに何かしましたっけ?」
「なにも。ただ俺のスポンサーの気前が良いだけさ。ボスに
「それを言うなら、アナタも似たようなもんじゃないですかねぇ、ヘンギスト。」
「この国じゃ違法かどうかは応相談なのさ。・・・なぁ、ごたくはもういいぜ。ちょっとくらい見せてくれよ。アンタ結構「使う」んだろ?え〜っと何だ、サバトの女王さま?」
「それがその、ハハハ、ちょっとコードを忘れちゃいまして」
「・・・なら思い出させてやるよ。」
笑みを含んだ台詞とともに、鬼が手元のナイフをハロウィンに投げ放とうとしたその時、けたたましい破裂音が広場に響いた。
音は、ビルのコンクリートに反響してエコーがかかり、鬼の注意をハロウィンから逸らした。
「あ?」
鬼はかったるそうに、音源へとその面を向けた。
鬼が見たのは、自分に銃口を向けた少年だった。
「おいコラ、イカレポンチども」少年は続けた。
「財布渡すか、
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