第4話「銃声」
無茶だったかな・・・。彼は息を切らしてそう思った。
あそこまで目立つ格好してりゃ、すぐに見つかると思ったんだが・・・。彼は立ち止まり、小さく息を吐く。
何やってんだかな・・・俺は・・・。
ヒルが自嘲し、踵を返そうとしたその時、どこか遠くの方で、何かの弾ける音がした。
賑わう街の人々には、それは些細な
・・・銃声だ。
彼は無意識に、クリスマスにプレゼントされたかつての風穴をおさえた。
そしてその銃声を引き金にしてフラッシュバックする記憶は、何かイヤなものを彼の第六感に刺激した。
クリスマスの奇跡、消えた黒猫、イカれた女、不気味な棒、視界の端に映る幻覚、そして、彼が初めて死を覚悟した夜・・・。
ヒルは、脳裏によぎる記憶を振り払うかのように、再び走り始めた。
それらは、その点と点は、おそらく、結び付けてはならないものだ。
彼は直感的に、それを悟っていた。彼の第六感は冴えわたっていた。
だからこそ、彼はイヤな予感に任せて走り出したのだが、彼自身、その予感の質を理解していなかった。
彼はその音を無視すべきだったのだ。
しかし彼はそれをせず、研ぎ澄まされた直感に任せて、その銃声のする先へと向かってしまった。
いや、「何かの気配」と呼ぶべきだろうか。
彼が身を任せていたものを「直感」と呼ぶには、あまりにも正確で、一発の銃声が持つ情報量をはるかに超えていたように思えた。
彼は今、自分がどこを走っているのかさえ知らなかった。
視界に入る人は少しずつまばらになり、ついには一人もいなくなった。
しかしそれでも彼は、その場所に辿り着いた。
そこは不気味な暗闇に続く、狭い路地だった。
かろうじて光の当たるその入り口には、制服の警官が倒れている。
そして、意識を失った警官のすぐ近くには、彼を撃ち抜いたものと全く同じ型の拳銃が転がっていた。
ニューナンブ。5連装の旧式の
一説には、奪われたり自殺に使われたりで、もっとも多くの警察官の命を奪ってきた銃だとも言われるが、この21世紀に生体制御の実装されていない骨董品を現役配備すれば、当然そんな結果にもなるだろう。
だが、そんな政府の清貧の美徳は、この時ばかりは、実を結びそうだった。
ヒルは悪い予感に身を任せて、警官からその骨董品を拝借した。
撃たれたんだ。撃ち方くらい、俺にもわかる・・・。
少年は撃鉄を起こし、ゆっくりと、深い暗闇へ、歩みを進めていった。
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