✬魔獣の大群その✬

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《魔術学校入学式典会場》

此処は、魔獣の大群が攻めて来た事によって今現在、避難所として数多くの戦う力を持たない魔術師の卵と、新入生や数人の教師、そして他国の者が待機していた。



「ねぇ、お姉さんは戦わないの?」

と、式典会場に避難していた1人の魔術師の卵が今日入学式を迎えた生徒を見上げながら尋ねる。

「私達の戦場はここよ‼︎私達は、貴女達を守るのが役目なの‼︎」

と生徒は言うとニッコリと笑った。


とそんな時、

「ふんっ何が守る役目だ‼︎単に戦えるだけの力がないだけだろう‼︎《青臭い》‼︎」

と、背後から声が聞こえた。

生徒は、半ば「うっ」と声を詰まらせ、至極もっともな事を言われた羞恥と、それでも強く努めようとする気持ちに顔を赤くすると、今しがた声を発した人物へと顔を向ける。

そこには、とても恰幅(かっぷく)の良いとは言えないデブの男が立っていた。


もう一度「ふんっ」と鼻を鳴らすとその場から離れようとするデブの男に、

「待ちたまえ‼︎」

と、声をかける白いスーツにシルクハットを被り、丸い眼鏡を掛けた男が声をかけ引き止める。

「なにか私にようかね?」

と、残念ながら恰幅(かっぷく)の良いとは言えないデブの男は白いスーツの男に返答すると両腕を胸の前で組む。


いえいえ、と前置きしながら

「今しがたうちの生徒に、何やら侮辱したような声が聞こえたものでねぇ」

ですから訂正して頂こう、と言うと腕を組み眼鏡の端をトントンッと右手の人さし指で軽く叩いていた。

「何だね君は、王都魔術学校の校長である儂に喧嘩でも売ってるのかね?それに」

と続け、間違った事を言った覚えはないと言った。

「ほほぉ、王都魔術学校校長である貴方に喧嘩を売っているのか?ですか、貴方が《どこの誰》であろうと我輩には関係ありませんなぁ」

と言うと、困惑した表情でこちらを見る女生徒にニッコリと笑って、

「入学おめでとう‼︎何も恥じる事は一つも、アリンコ程度も、ミジンコレベルも無いぞ‼︎胸を張りたまえ。君が守りたい《誇り》はそこにいるのだろう?」

と、女生徒の右手に繋がれている小さな少女を見ると、王都魔術学校校長に視線を向ける。

「さて、貴方が《どこの誰》かは我輩知りませんが、先程の口振りから察するにとても、お強いのでしょう?」

と、言いながら白いスーツの男は、全身から魔力が溢れ出し、その濃度を上げていく。

「だったら、貴方がいる場所はココじゃぁない、此処はその子のような《強き誇り》を守る場所である」

去りたまえ‼︎と言うとさらに魔力の濃度を練り上げ威圧する。

白いスーツの男から、どこの誰かは知らない《デブの男の立場的にお前の事は忘れてやるからさっさと何処かに行け》と言われ、顔を真っ赤にして、

「ふん、もぉ十分だ‼︎こんな《生ゴミの臭い》がする場所いたくもないわ‼︎」

と先程、《青くさい》と言った言葉を今度は《生ゴミの臭い》と称して、踵を返すと従者を連れて式典会場を去っていく。

フッと魔力を止めると、未だ困惑と言った表情の女生徒に、ふふふっと優しく笑みを浮かべると、

「君の誇りは我輩が守ろう、だからその手はどうか話さないように守り抜くんだ」

と言い、その場から離れて行く。

女生徒は、薄っすらと瞳に涙を浮かべうんうんと2度頷(どうなず)くと、去って行く白いスーツの教員の後姿(うしろすがた)に向け、スッとほぼ直角に近い75度の姿勢で礼をした。

その右手には、女生徒の守りたい《誇り》がしっかりと繋がれていて、未だ手を強く握られている少女は満面の笑みを浮かべ女生徒を見上げており、信頼のこもった目で女生徒を讃えていた。


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場所は戻り東側、巨大な召喚用魔方陣(サモンペンタクル)のほぼ中心に位置する空間の裂け目からは、すでにその身体全部をこの世界へと現している巨大な悪魔がいた。

とはいえ、未だ白い靄(もや)と輪郭のボヤけによって、全貌は見えないが。



「みんな第何節まで覚えてる?」

とフロストは、言いながらみんなを見る。

「あれ間違いなく【最上級悪魔(マリリン)】だから第節まで必要よ?節まで覚えてる人なんてこの中にいるの?」

とはアリアナだ。

確かに返還魔術の呪文は【魔導書(マジックブック)】なしに扱う者はそうそういない。

「はいはーい‼︎ルンちゃん第節までしか無理だよー」

とルーナは元気に言うが、それに対してアリアナが、

「8節までって十分凄いじゃない‼︎私なんて節までしか覚えてないわ‼︎」

今まで必要なかったから、とかなり悔しいようだ。

「俺は節までだなぁ、第節から急に呪文がややこしくてとても覚える気になれなかった」

とヤナギは言いながら、今だに呪文を唱えているレゾナを見ると、

「やっぱりレゾナを待つか?」

と言った。

「心配するな、第節までちゃんと記憶してるよ」

とフロストが言うと、

「レゾナだけじゃなかったのねあんなややこしい《変態呪文》覚えているの」

変態だわ‼︎ドMだわ‼︎と、アリアナはこの中で自分が一番返還呪文覚えていない事に悔しいのか、フロストに罵声を浴びせていた。

おいおいそんな褒め言葉いらねぇよ、と軽口を叩くとレゾナを見て、

「今は第節あたりか、アリアナは第節、ヤナギは節、ルーナは節、僕は節を担当する。」

と言って目を閉じ、返還呪文の第節を唱え始める。

3人もそれに倣(なら)って呪文を始めるのだった。


✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼


「くそぉきりがない。南の奴らこっちに手伝い来てくれんかな」

とは、東側にいた街の魔術師達だ。

流石に体力的にも既に疲労困憊といった感じだ。

あの、巨大な魔方陣(ペンタクル)は彼等に任せ、周りの魔獣討伐に精を出していた。


「どーやら人手足りてねぇみたいだにゃあ」

と、言いながら着物を来た二本脚で歩く猫が、帯刀していた刀を抜くと真横に一閃。

前方、広範囲に渡って魔獣の胴体を真っ二つにした。


「な、あの猫はなんだ?どうやら助っ人みたいだが」

と言い、今現在もにゃははっと笑いながら魔獣をぶった斬る二本脚で歩く猫をまじまじと見た。


もっとにゃ‼︎もっと来いにゃ‼︎と叫びながら着物を着ている猫はどんどん前へ前へと進んでいく。


✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼✻✼


その頃、巨大な魔方陣(ペンタクル)内では、今現在も返還呪文を唱える5人の生徒と、悪魔と1人で対峙する教員がいた。



髑髏(ドクロ)モチーフのステッキ【冥王ベルゼブブの爪楊枝】を今もクルクルと回してはピタリと止め、悪魔に向け強烈な一撃を与え続ける男、ブルフ=ダーティは、

「成る程成る程、流石【最上級悪魔(マリリン)】だ、まったく持って手応えを感じられない」

と額に汗を浮かべながら言うと、視界の隅で後方にいる5人の若き魔術師を見る。



「レゾナっち1人で第節までお疲れ〜♪」

と、ルーナはレゾナを抱き締めながら、ルンちゃん感激だぁと言っていた。

「後は陰湿野郎1人だな」

とヤナギはフロストを見ながら呟く。

「一番ややこしくて難しい呪文やけん、ゆっくり確かめながら唱えとるんよ」

と、レゾナは言いながら前方の悪魔を見据える。

「いくら私達が天才って言われてても全然まだまだね。1人であの悪魔と対峙するなんて無理だもの」

と、アリアナは悪魔と対峙する黒くて長い鍔(つば)のある帽子を被る教員を見ると言った。

「今はまだな」

と、今しがた呪文を終えたフロストが言うと悪魔を見据える。



空間の裂け目が一際大きく口を開ける。

するとたちまち悪魔の全身を空間の裂け目から伸びる黒い無数の手が覆い、引きずるように悪魔を引っ張り始める。


そして、悪魔は一度大きな雄叫びをあげると空間の裂け目に押し込まれて言った。


「ふむふむ成る程、上手く行ったようだねぇ」

と、ステッキをクルクルと回しブルフは呟くと、ステッキを今度はカツカツと地面に描かれた魔方陣(ペンタクル)に打ち付ける。


そして、一言呪文を唱えると魔方陣(ペンタクル)全体にヒビが広がり、パキンと割れて無くなった。


するとブルフの元へ返還呪文を終えた5人が集まる。

「恐らくこの悪魔の召喚には10人程度の魔術師が関与しているはずだけど、見つけてもどうせ亡骸でしょうなぁ」

と、ブルフは呟いた。

とりあえず君達は残りの魔獣をお願い出来るかなと、言うとマントを翻しその場を去っていった。


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