✬魔獣の大群その✬

*****************


まだ昼前だというのにこの場所では人がごった返していた。

「がははっ今日入学式だろ?何も起きなきゃいいがなぁ」

と、酒を飲みながら豪快に笑う男。

「流石に今日はあの【賢者の再来】も静かに式展に参加してるだろ」

と、向かい側の男は答えていた。


ちなみに【賢者の再来】とは、黄金世代の代わりについ最近この帝都で呼ばれるようになった異名である。


「おいおい、そんなに酒飲むと魔術の波動が狂っちまうぜ?」

と、豪快に笑う男の横にいる男は、もう少し控えろよ、と言っていた。

「こんなんじゃ麦茶とかわんねぇよ」

と、言いながらまたしてもグビグビと酒を飲んでいた。


ドパァァァァァァアン


「な、なんだよ‼︎」

「花火か?」

「魔術学校の方角からだぞ」

「「「あいつらか‼︎」」」

と、きっとそんな事するのはあの5人しかいないと、信じて疑わない人が帝都では周知の事実だ。


*****************


いち早く、異変を察したのはルーナだった。


「なんか変」

空気がおかしい、とルーナは言いながら左足の太股(ふともも)のホルスターから魔導式マイクを抜き取る。

「ん、確かにおかしいね」

とフロストが言いながら右目を瞑って左目の真実の瞳に神経を集中しながら遠くを見る。

「なんかおかしいのか?」

と、言いながらヤナギは首を傾げる。

アリアナは、

「私、察知能力全然ないから分からないわ」

と言いながら、両手を胸の前でバッテンを作っていた。

「東の方から魔力の塊が向かって来(き)ようばい」

なんやろねアレ、とレゾナは手を丸め、まるで双眼鏡のように見立てて言った。

そんななか、ルーナは

「あ、あ、テステス」

とマイクの調子を確かめると、ちょっとみんな耳塞いでてねと言うと、マイク越しに空気が振動を始める。


30秒程だろうか。

おもむろに、マイクを左足のホルスターに戻すと言った。

「南と東から同時に魔獣が来てるみたいだよー」と。

「空気の振動使ってそんな事も出来るのか。流石だな」

と、呑気に感想を述べるフロストを横目に、

「それよりも、どーするのよ」

とアリアナが言うと、

「とりあえず東の魔獣はなんとかしよ」

と、レゾナは可愛い笑みをうかべて言った。

「それじゃぁ、1番足の速そうなヤナギ君にひとっ走りしてもらって」

とアリアナが言うと、

「遊撃だな‼︎」

任せろ、と息巻くヤナギに、

「違うわよ、ギルドに伝えて南をなんとかしてもらうのよ」

と、言った。

「畜生そっちかよ‼︎さっさと済ませて合流してやるからな」

と、言って一瞬でその場から去っていく。

「あ、ちょ、まだ話し終わってないのに‼︎学校長にも知らせて貰わないと‼︎」

と、アリアナは遥か遠くにいるヤナギの後ろ姿に叫んでいた。

「まぁ学校に集まっているあれだけのメンバーなら直ぐに異変察知するだろ」

と、なんとも呑気にフロストは答え、

「とりあえず早く行こうぜ‼︎」

と、楽しそうに言った。

「遠足じゃなかけん、そんなワクワクせんと‼︎」

と、レゾナに窘(たしな)められる。


*****************


未だに魔術学校での花火の話しで盛り上がりを見せるのは、帝都のギルドである。

そんなギルドの扉が勢い良く開けて

「おいコラ、親父共‼︎酒ばっかり飲んでねぇでちょっと表出ろや‼︎」

と、まるでギルドにいる全員に喧嘩でも売ってるような言い方でヤナギは言った。

ほとんどの者が、

「おいおい粋がってんのか?俺ら全員つえーぞ」

「いくら凄い魔術使えるからって言っても、俺らもそこそこ強い魔術師の集まりだぞ坊主」

と、既に戦闘態勢だ。

「?そうか‼︎そりゃ助かるわ‼︎南に魔獣の大群だから」

よろしく‼︎っと、言うと直ぐにその場を去っていった。


「「「「………………。そっちかよ‼︎‼︎」」」」



*****************


「うわっ私にもアレは分かるわ」

とは、アリアナだ。

向かっている途中で既に肉眼でも見える位置に魔獣は押し寄せていた。

「見た所、推定Rばかりね。十数体程R以上も混じっているわ」

と、【イブリナ】のギルドでバイトしていた時の魔獣のランクの知識を元にアリアナは言った。


すると、おいっと声をかけられ

「それ本当か‼︎」

と店先にいた酒場の主人が言う。

「ええ、間違っていないわ、ちなみに多分だけど南にもこっちと同じぐらい押し寄せて来てるみたいですよ」

この子が言っていたものと、ルーナを見やる。

「ギルドには友達が知らせに向かっとるけん、おじちゃん学校に知らせてくれると嬉しかばってん…」

と、レゾナは申し訳なさそうに俯くと

「そ、そそれなら俺が学校に知らせて来てやるよ」

こっちは任せたぞ、とバタバタと魔術学校の方面に向かって行く。


それを見やるとレゾナはペロッと下を出してお茶目に笑った。

「流石男の扱いは師匠譲りか」

とフロストは言って、さっピクニックだな‼︎

と、東に向かって歩き出す。

「ルンちゃんもピクニック大好きだよぉ〜」

と、ルーナも後をつけていく。

「私はピクニックも良(よ)かばってん、桜とか観ながら弁当食べたいんやけどー」

と、レゾナは見当違いな事を言いながら追いかけて行く。

「遠足でもピクニックでもないわよ‼︎」

と、言いながらアリアナも後を追いかけていった。


*****************

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る