✬大気震わす雷鳴✬
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新年を明けて、はや5ヶ月つまり巳月(みつき)だ。
現在マスカーティ邸の庭、と言っても裏山であるが、そこでピエロはフロストに戦闘訓練を施していた。
「ほら、また、脇が甘いばい」
と言いながら、木刀で思いっきりフロストの脇腹に向けフルスイングするのは、
現在45歳のピエロである。
声にならない叫び声を上げ一度歯ぎしりし、
「手加減って言葉知っていますか?」
大人気ない、と軽口を叩くが表情はとても苦しそうである。
あははっと笑いながら早く構えろとピエロは言う。
「お得意の氷魔術ぶっ放せば、勝てると思い込んどる天狗の鼻を」
へし折るのも師匠のつとめばいっ、と言いながらまたしても脇腹に強烈な一撃を与える。
「もぅ既にボッキボキですよ‼︎って言うか最初から天狗になんて」
なっていませんよっ、と言いながら、ピエロの鼻っ面に突きを放つが、軽くあしらわれてまたしても脇腹にキツイ一発をもらう。
「それよりもさっきから何なんですか‼︎ネチネチと同じ場所ばかり攻撃してきて‼︎」
と、フロストは自身の脇が甘い事は棚にあげ
「この、陰湿魔術師‼︎独り身男‼︎ヘンテコリンな道化師」
と、剣術で勝てないならと暴言を繰り出す始末だ。
それを
「ヘンテコリンな道化師は認めるばってん、陰湿じゃないもんねー、独り身でも彼女は沢山いるもんねー」
あははっと、笑いながらまたしてもキレッキレのスピードでフロストの脇腹へと一撃を加えるのだった。
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「おかえりなさいませピエロ様」
あ、後フロスト様、とミリヤが迎える。
あの後、散々にやられたフロストは現在泥だらけであり、隣のピエロは実にツヤツヤした顔で、満足だと言わんばかりの表情だ。
「それじゃ、僕は仕事に戻るけんね」
と、言いながらピエロは執務室のある方へと去っていく。
その後ろ姿を見ながら
「さてはあの師匠、僕をストレス発散に使いやがったな」
と、フロストがつぶやいていると
「フロスト様、早く洗濯したいけん直ぐにお風呂に入って貰ってもよか?早くせんと〈ぼてくりまわす〉けんね」
と、ミリヤから言われ〈ぼてくりまわされる〉のはごめんだと、いそいそと浴場へと向かった。
実はつい最近になって〈ぼてくりまわす〉の意味を知ったフロストだった。
今まで、何と無しにニュアンスだけで意味を捉えていたのだがあながち間違ってはいなかった。
とはいえ、ミリヤの言葉を借りるなら、つい先ほど師匠に〈ぼてくりまわされた〉ような物だが。
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所変わって
ここは最先端の科学魔術を誇る都市
【イブリナ】である
最先端の魔道具が、日夜生み出されては、
世に送り出されている。
ちなみに、近年一番の注目魔道具はコンタクトレンズである。
理由は…言わずもがなだ。
そんな都市の北側の外れには、森林が広がる。
さらにそのはるか奥には、世界一大きな山があり、
まるで数億年もの間、この世界を見守ってきたとでも言わんばかりの、
悠々堂々とした姿である。
そんな山にはR(アールセブン)のドラゴンを筆頭に様々な魔獣が生息している。
そして、そんな山の麓から広がる森林にも、
当然R(アールファイブ)以下の魔獣が、犯罪シンジケートのようにナワバリを持っており、我が物顔で森林内を闊歩している。
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ジジジジッズドオォォォォォォォオン‼︎
と、森に大気を震わせながら、けたましく雷鳴が轟く。
【イブリナ】では数年前から、ほぼ毎日のように雷鳴が聞こえるようになっており、
住人達の間では、既に周知の事実だ。
「また、雷少女が暴れているよ」
と、街のギルドでは話題になっていた。
コレで、
「Rのブラックファング討伐は持って行かれたも」同然だな、
とギルドの酒場では、大柄な男がケタケタ笑っていて、
「おいおい、ダズ‼︎そんな笑ってやんなって」
みろよ、とダズと呼ばれた男の正面に座る男は
掲示板の前でブラックファングの手配書を手に持ってうなだれていた男を指差していた。
「まったく、たいした女の子じゃ」
賞金51万ベルだよ、
大の大人8人がかりで仕留める獲物だぜ?
と、ダズは正面に座る男に言いながら酒を煽る。
正面に座る男は、まったくだなと言いながら同じく酒を煽り、
「そんな雷少女は来年魔術学校へ入学って話しだぜ?」
と、ダズに言いながら、信じられるか?と肩をすくめていた。
「って事は、来年からは稼ぎ時じゃのぉ」
と、ダズはまたしても笑いながら言い、
そう言えば、と前置きして
「以前シュテラで男の子を拾った話しをしたよな?」
覚えているか?と、未だ酒を煽る男に聞く
「あぁもちろんだ、そーいや来年だっけか」
魔術学校入学だったな?と、ダズに確認すると
「そうだ」
と、ダズはニヤリと笑った。
「こりゃ来年の魔術学校は荒れるぞ」
こりゃ良い‼︎と、言いながら男はウェイトレスに本日何杯目かの酒を注文していた。
ダズは
「氷の魔術師に雷少女か」
と、つぶやくと、今は魔術学校で教鞭をとっている元冒険者パートナーの赤髪の女性、
アルシュを思い出し
「あいつも来年は大変じゃな」
と、思いを馳せていると、正面でお酒を煽っていた男が
「うぐぅっ」
と、どこから出したのか変な声を上げながら椅子ごとひっくり返る始末だ。
「やれやれじゃの」
と、つぶやき
ダズは近くのウェイトレスに、
お水と冷えたお絞りを頼むと、
男の介護にまわるのだった。
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