✬フロスト=マスカーティ✬

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「黄金期だそうです」

とミリヤは帝都での事をピエロに話した。


なるほど、とピエロは頷き顎に手をやると

「少年を入れて5人も才能のある子がいるのか」

とニヤニヤしていた。

しかも、と言いながら羽ペンをクルクル回し

「イデアの弟子も同時期か」

と、言うとクルクル回していた羽ペンをピタと止め

そりゃ、黄金期と言える程の事やね、とピエロはつぶやき

「再来年の魔術学校は荒れるばい」

と、さも楽しそうに言うのだった。


ところで、とミリヤは前置きし

「以前、マスカーティ様が魔術学校長と同期と仰いましたが、当時の魔術学校は」

黄金期ではないのですかと、ピエロに聞くと、

「あははっそりゃ僕も当時の黄金世代ばい。とは言っても」

僕とイデアともう一人の3人だけだったけどね、とあっけらかんと言ったのだった。


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眠らぬ街【シュテラ】

この日はいつにも増して街は賑わいを見せている。

理由は明白。

明日は、新年を迎えるのと同時に《魔術師達の誕生祭》が行われるのだから。


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「って事でミリヤ」

ここは執務室である。

今しがたピエロから簡単な雑務の指示を受けたところで名前を呼ばれる。

「少年呼んでくれる?名前決めんといかんばい」

そうか、もうすぐ《魔術師達の誕生祭》だったとミリヤは思い出す。

明日は世界をあげての祭りになるのだ。

この眠らない街では毎日お祭りのようなものだが、明日はそれ以上の盛り上がりを見せるのだ。

「畏まりました」

とミリヤはお辞儀をすませると執務室を出て行こうとするが、

「あ、あと人名録(ヒューマル)も取ってきて」

と後ろから声がかけられ、

少しだけため息をつくと

「畏まりました」

と再度お辞儀をすませ、今度こそ執務室を後にするのだった。


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「名前ですか」

と少年はピエロに尋ねる。


誕生日は明日、つまりあと2時間後だ


そう、とピエロは答え人名録(ヒューマル)をトントンッと叩くと何か候補ある?と少年に尋ねる。

「えっ?」

自分で決めても良いのですか?とピエロに尋ねると、帰ってきた返事は

「別にいいよ」

と実にあっけらかんと言った。

少年は少し考える素振りをして、

やはり、思い浮かばないので決めて下さいとピエロに返答する。

だが、

「僕は全然センスないけん変な名前になっても知らんばい」

と、言いながら少年の斜め後ろにいるミリヤへと視線を向ける。

少年もつられてミリヤに顔を向けると、まるでこの世の終わりとでも言うような表情で、

「まさか私に決めろと言うのですか?」

と、驚きと戸惑いの表情でミリヤは言った。

あははっと笑いながらピエロは人名録(ヒューマル)をミリヤへ渡す。

それを見ながら少年は

「良い名前お願いします」

と、さらに追い打ちをかけられたミリヤは、

一度少年へ視線を向け、フッと微笑み、

ピエロに視線を戻し

「承りました」

と答え、じっくり考えて来ますのでと執務室を後にした。

すでに去ったミリヤに聞こえるように、少年は大声で

「あ、ちょっ、ミリヤさん‼︎ちゃんとした名前でお願いしますよ‼︎」

と慌てて叫ぶ。

それじゃあ、とピエロは前置きして

「エントランスに移動しよか」

コーヒーでも飲みながら折角の誕生日をお祝いしようとピエロは言う。

あと、

「新年のお祝いもね」

と、付け加えた。



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《魔術師達の誕生祭》

年の始まり、新年最初の世界的行事

この日、世界中の魔術師が一斉に誕生日を迎える。

同時に、世界中の魔術師の卵が産声をあげる日だ。


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エントランスに移動して、少年はピエロと雑談しながら軽く魔術の講義を受けていた。


おっ、とピエロは時間を確認し

「そろそろ時間ばい」

と言うと低級悪魔を呼び出しミリヤを呼ぶように命令する


数分もしないうちに、エントランスにミリヤは現れ、手にはトレイを持っている

「大変お待たせしました」

とお辞儀をし、素早い動作でテーブルにケーキと、フォークやナイフなどが置かれた。


ずっと名前を考えているのかと、思っていた少年はすぐに考えを改め、流石はマスカーティ邸のメイド、ミリヤだな。

と、何が流石かよく分からない事を考えていた。


おっほん。

と、さもわざとらしくピエロが咳払いをすると、いつの間にか少年の隣に座るミリヤと少年とを順番に見て

ではでは、と前置きし

「お誕生日おめでとう、そしてあけましておめでとう」

と、シャンパングラスを掲げ、

隣ではミリヤも同じく「お誕生日おめでとうございます、今年もよろしくお願いします」

と言いながらグラスを掲げる

少年も二人にならい

「ありがとうございます、今年もよろしくお願いします」

と言うのだった。


テレビを見やると帝都での誕生祭が中継されていた。

『中継です』

『どーも皆様、あけましておめでとうございます。そして魔術師の皆様お誕生日おめでとうございます。今年も、帝都では大きな花火とともに…』

と、中継が行われていた。


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「フロスト…ですか」

と、今しがた決まった名前を少年は口に出していた。

ケーキを食べ終え、あらかた掃除を済ませ、3人で談笑しているとミリヤが思い出したように言ったのだ。

そうよ、文句ある?とでも言いたげな顔をしながら少年へとミリヤは目を向ける。

その様子を見ながらピエロは

「やっぱりミリヤに決めて貰って正解ばい」

と笑いながらコーヒーを啜った。

人名録にはすでにフロストと言う名が5人記されているが

「見事に皆死んどるね」

とピエロは不穏な事を言う。


まさか僕にも死ねと言いたいのか、とミリヤを見て一瞬思うのだが

「契約している悪魔は氷の女王シヴァだと伺っていますので、氷=フロストと安易な考えではありますが」

良い名前だと思います。とミリヤは自信満々にピエロに言う。

(なんだ、ちゃんと考えてくれてたのか)

と、少年は先程の考えを捨てると

「良い名前ありがとうございます。文字通り一生大切にしますねミリヤさん」

とミリヤにお礼を言うと

「どういたしまして」

とミリヤが微笑み、

ただ、と前置きしてから

「見事に皆死んどるね。」ふふふっ

と、微笑みながら言葉を残して執務室を去っていく。


なんて人だ、一瞬前の僕の気持ちを返して欲しいと、去っていくミリヤの背中を眺めていた。


「本当、二人とも仲がよかね」

とピエロがなんとも的外れな事を言うもんだから

一体全体、この人は何を聞いて言っているのだろうかと、少年、あらためフロストは思う。


よし、と言いながらピエロは両手を合わせると

「それじゃ、名前も決まった事だし、家名にマスカーティを名乗る事を許すばい」

と言うと

「今日から少年、君は【フロスト=マスカーティ】だ」

と言った。


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