✬帝都マジョリカ✬

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ドンッドンッ

ドンッドンッ


「はーい」

と少年は声をあげる。


ここは少年の部屋である。

師匠より部屋を与えられ勉強しているのだが、


ドンッドンッ


「はーいってば」

と少年が答えるとドアの向こうから声が聞こえる。

「昼食ここに置いとくわよゴミクズ野郎」

と、なんともな言い方である。

「また、間違って足で食べんどきぃねオタンコナス」

と丁寧に注意を促してメイドは去っていった。

と言うのも、以前少年は誤って昼食のスープに足を突っ込んでひっくり返してしまった事があるのだが

その時のミリヤさん(メイド)の鬼の形相と蔑む目は未だ記憶に新しい。


そそくさと部屋のドアをあけ、すでにその場にはいないメイドに大声で、

「いただきまーす」

と声を荒げると、床に置いてあるトレイを持ち上げ部屋へと戻り、好物である魚のアルミホイル焼きに頬を綻ばせるのだった。

少年に対しての言葉使いにはなんともな言い方ではあるが、なんだかんだ少年の好きな食べ物を用意するあたり、憎めない人であると少年は思う。


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「ちょっとお使い頼んでもよか?」

とピエロはミリヤに頼むと、どうかしましたか?とメイドは首をかしげる。

「帝都にある魔術学校にこの封書を届けて貰いたいんよ」

と封書をミリヤに手渡す。

「畏まりましたマスカーティ様」

と封書を受け取る。

「ついに再来年(さらいねん)ですね」

とあの少年がこの屋敷に来て2年、あっという間だとミリヤは思う

「なんだ、寂しいとね」

あははっと笑いながら、なんだかんだ少年を可愛がっていたミリヤにピエロは言う。

「全然違います。では」

行って来ます。とミリヤは執務室を去っていった。

ニヤニヤした顔を引き締めピエロは魔術学校への入学が迫る少年の事を思う。

ちゃんと無事に卒業出来るやか?死ななきゃ良かばってん、と遠い目をし

でもその前に、

「そろそろ名前決めんといかんな」

とつぶやき、【低級悪魔(リリム)】に命令を下し、いそいそと書類を整理し始めるのだった。


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ここは帝都、魔術学校

この都に住むのは主に魔術師ばかりだ

帝都の名前は【マジョリカ】若干メルヘンな名前で、どこぞの魔法少女が出てきそうな…いや、魔法少女はいるのだが、その実バカには出来ない力を持つ魔術師ばかりの場所である

まぁそれはさて置き、物語を進めよう



魔術学校校長室に一人の警備員がやって来る。

「イデア校長、マスカーティ邸より使いの者が来られていますが」

どうされますか?と警備員は魔術学校の校長であり、この帝都の最高責任者であるイデアという女性にたずねるのだった。

イデアは驚いた表情で警備員を見ると

「今なんと?」

ともう一度尋ねる。

警備員は、ですからと前置きし

「マスカーティ邸より使いの者が」

来られています。と先程言った事を伝えるよりも先に

「それは、本当か‼︎早よ通せ‼︎」

と慌てた様子で警備員に言うのだった。

警備員が校長室を出た後、イデアは

ふふふっと笑い

「あのマスカーティが使者をか」

と今この場にいないピエロ顔を思い浮かべニヤニヤしているのだった。


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「失礼します」

とミリヤは校長室に入る。

ただ封書を渡すだけなら警備員にでも渡してしまえば事足りるのだが、とミリヤは思うが

ピエロ=マスカーティの名を出せばこうなる事は明白だった。

早く帰りたい気持ちを抑え、ミリヤは目の前の女性を見やる。

気品のある優雅な立ち振る舞いで落した男は数知れず、とはピエロがよく言っていた。

ピエロ曰く彼女とは昔同期で恋人だったんよ

と笑いながら言っていた事は良く覚えている


「まぁまぁどうぞお座りなさいな」

とイデアがソファーへ手を指し示す。

失礼します、ともう一度ミリヤは言うとソファに座る。

イデアはパンパンッと2度手を鳴らすと、目の前に紅茶が現れた。

イデアがミリヤの向いに座ると、

「それで」

今日はどうしたの?となぜ来たのかを尋ねる。

はい、と軽く頷き、

「本日、この帝都魔術学校を訪れたのはマスカーティ様より封書を預かっており、魔術学校に届けるようお願いされたからです」

こちらです、と封書をイデアに渡すと

ふむ、と軽く頷き封書に目を落とし

「確かにピエロの印だね」

と答え、まぁだいたい内容は想像出来るが、と言いながら封を開け内容に目を通す。

「あ、冷めない内に飲みたまえ」

と一度顔をあげミリヤに言うと、また手紙へと目を通した。


内容は把握した。とイデアが顔をあげ

「まさか、弟子をとっていたなんて知らなかったねぇ」

と笑顔を見せる。

あぁなるほど。この笑顔を見せられて落ちない男はいないと心の中でミリヤは思い、同時に恐ろしい魔女だとも思った。

「末恐ろしい弟子だね。まさか12歳ですでに召喚、それも一人で」

さらには【特級悪魔(カラピエル)】を代表する悪魔だなんて、とイデアは続けるが、

ミリヤは魔術的な知識はあまりない。

だが、あの少年が凄いという事は知っている。

何せ、あのシヴァと契約していると言うのだから。

「再来年の入学とは楽しみだわ」

これで来年の魔術学校は黄金期確定よ、とイデアはケラケラ笑って言った。

「黄金期、ですか?」

とミリヤは今しがた伝えられた事実に首を傾げながらイデアに尋ねると、

ええそうよ、実はね、と前置きし

「再来年入学予定の子供達の中にはとても才能のある魔術師の卵が後4人もいるの」

とイデアは、さも嬉しそうに言う。

ちなみに、と前置きし

「そのうちの一人は、私の弟子よ」

こんなに楽しみな事はないわ、と

イデアは心底楽しそうにケラケラと笑っていたのだった。


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