✬魔術の素養✬
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ピエロ=マスカーティ邸
この眠らぬ街【シュテラ】でも一際目立つ大きな西洋の屋敷。
少年はアルシュにつれたれて、ピエロの家へと赴く。
アルシュは門の前に近づくと門番の騎士に一言二言耳元でつぶやいていた。
すると門番の騎士は軽く会釈をし、足早に屋敷内へと駆けていく。
五分としないうちに先程の騎士は帰ってきた。
「アルシュ様とお連れの子、どうぞ中へ」
と騎士に促され門をくぐる。
なんて大きな屋敷だ、さすが一流である。
と少年は片目を大きく開け驚いていると
「なははははっ立派なもんやろぉ‼︎僕の自慢のお・う・ち・ばいっ♪」
とどこから現れたのかピエロその本人が目の前にいた。
気品漂う高級そうな黒いドレスコードを身に纏い、髪はきっちり7:3でオールバックにまとめ上げている。
が、問題はやはりこの顔だろう......
顔面白塗りに鼻と唇は真っ赤、濃いめのアイシャドウ
素顔を知る人物はいないと聞く。
魔術師達の逸話という本でピエロ=マスカーティについて書かれたエピソードを読んだことがある。
曰く、15の歳に名前を授けられると同時に顔を捨てたと。
どんな時でも笑顔を絶やさないように道化となったことなどがつづられていた。
「アルシュから聞いとるよ」
と独自の叱りで喋る彼の声に、思考もそこそこに、この男こそが近代魔術の英雄史に名を連ねる大魔術師であり、今日から自分の師匠になるのかと浮足立つ。
さて、まずは部屋を案内させるけん荷物置いたらエントランスにおいでね、と少年に告げアルシュと共にエントランスへと移動して行く。
そして彼らと入れ替わるように、メイド服の女性が少年の元へとやって来ると、とても愛らしい笑顔で会釈をし、言った。
「おい、くそガキ。部屋案内するけん早(は)よついてこんと《ぼてくりまわす》わよ‼︎」
と、なんともメイドらしからぬ物言いに少年は固まる。
え?ぼてくりまわす?
意味は分からないが、ニュアンスでだいたい伝わるから怖い物だ。
と遠い目をしていると、メイドの舌打ちが聞こえ慌てて後をついていくのだった。
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「おっ?来たね」
とアルシュが少年へ目を向けると、酷く疲れた表情の少年がそこにいた。
「早速気に入られたんやね」
と能天気で的はずれな回答に目眩を覚えながらもピエロとアルシュの方へ足を運ぶ。
ここはピエロ邸のエントランス。
豪華なシャンデリアと壁一面に飾ってあるよく分からない物(魔術的な道具)が特徴の部屋だ。
「とりあえずそこのソファーに腰掛けりー」
と促されアルシュの横に腰掛ける。
「さてと、それじゃ少年のこれからの2年間についてやけど」と話し始めるピエロを手で制し、一言、と少年が言う。
話しを始める前に、と前置きし
「弟子として迎えてくださりありがとうございます。これからよろしくお願いします」
と言うと、アルシュはとなりで目を瞑り満足そうに頷き、ピエロは嬉しそうに
「あぁこちらこそよろしくね。弟子に君みたいな天才を貰えて僕は嬉しいかぎりばい」
と言いながら少年の手元を見やる。
気付いているのか。
この少年が右手の人差し指につけている指輪が何なのかを…
流石は超一流魔術師、きっと【ランクの高い目】を持っているのだろう。
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「それじゃ話し戻すばい」
とピエロが言うと続けて、これからの2年間について、と本題にふれるのだった。
「まぁ少年、君はかなり勤勉みたいやけん理解しちょると思うけど」
おさらいと思って聞いてくれとピエロは言う。
そこでアルシュにバトンタッチし、アルシュが話しだす。
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まず魔術師になる為には15歳までに魔術学を師匠の元で学び、魔術師としての基礎を叩き込む。
そして、15歳の誕生日を迎えると新しく名前を授かる。
名前とは、魔術の一つで魔術師は生涯二つの名前を持つ事になる。
初めは産まれたばかりの時に名前をもらい、
15歳の誕生日を経て新しい名前を基本的には師匠から授かる。
悪魔を操る事において本当の名はカセでしかない。
悪魔に本名を知られることは、命を握られる事と同意義なのだから。
だから魔術師は本名を誰にも明かす事はなく、ほとんどの者が本名自体忘れている事が大半である。
産まれたばかりの赤子は親から名前を授かり、2歳になる頃には、魔術の素養が魅入だされ、親元を離れ魔術師の所に預けられる事となる。
さらに、15歳を迎えた魔術師の卵達はもう一つ、授けられる物がある。
それが、悪魔である。
本来は、15歳の誕生日を迎えた後、魔術師の師とともに初めての召喚、使役を行使するのだが…
さて、話しを戻そう。
ここまでが魔術師人生の第一歩であり、15歳の誕生日を迎えた魔術師のひよこ達は、翌年、16歳の春に晴れて魔術学校へと入学出来るのである。
魔術学校での3年間を無事終えれば、本物の魔術師だ。
とはいえ、魔術学校へ入学し無事に卒業出来るのは、約半数にも満たない。
何故なら、留年する者はもちろん、ギルドで冒険者のバイトに行ったっきり帰らぬ人となる者や、行方不明になる者と様々だ。
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