✬眠らない街✬

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朝から晩までこの街は賑わいを見せる。

広場では大道芸の者たちが、日頃の練習成果を見せ合うように、競い合うように、多様な芸を繰り広げている。

また、広場を中心に居住区が広がっているが、家々の間には所狭しと出店が並ぶ。

朝だろうと、昼だろうと、真夜中だろうと、酔っ払いで溢れかえる、この街の名は、



眠らない街【シュテラ】と呼ばれている。



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ここは、【シュテラ】から少し離れた場所。目と鼻の先には、眠りの森と呼ばれる森が広がる。

「おい、ダズ‼︎そのガキはなんだい?」

ダズと呼ばれた大柄な男の肩には少年が担がれて......いや、ブラ下がって......じゃなくて、引っかかって......

うん......つまりダズと呼ばれた男の少年への扱い方が酷い。少年の右腕を掴み肩に担いでいるのだから後ろから見ればぶら下がっているのだ。

「この坊主、眠の森【スリーピングフォレスト】の居住区跡地で拾ってきたんじゃ」

左目から酷い出血の跡があってじゃの、と続けるダズに

「やいやい、そいつぁ魔術師じゃぁないか」

と赤毛の女性は言葉をかぶせると

「ダズ‼︎あんたぁ魔力少ないから分からんやろぉね」

と赤毛の女性は言う。

「とりあえず街の治療院に行くよ」

とダズの肩を叩きその場を後にした。



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身体がだるい。だが心の奥底から脈打つように魔力を感じる。少年はうっすらと瞳を開ける。

「おや?気がついたかい?」

とオレンジを3個お手玉のようにくるくる回しながら赤毛の女性は言った。

「魔力枯渇による脱力症状だとさ」と。

ここはどこですか?と少年は赤毛の女性に尋ねるが、やれやれといった具合に首をふると、ため息交じりに赤毛の女性は

「まずは助けて貰った礼を言うのが礼儀ってもんじゃぁないのかい」と半目で答える。

あっと少年が申し訳なさそうに口を広げ、改めて礼を言おうとするよりも先に

「ここは【シュテラ】の街で一番の治療院だよ」

と赤毛の女性が先に答えたので少年は心底すまなそうに

「すみません。ありがとうございます」と言った。

それを受け取った赤毛の女性は肩をすくめると

「とりあえず、あたしゃアルシュ=イフリームだ」と自己紹介をし

「とりあえず何があったか教えてくれるかい?」と促した。



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少年は軽く頷くと少し考える素振りを見せアルシュを見やると少年は言った。

悪魔を召喚した事(召喚した悪魔のクラスについては触れていない)。魔力が足りずに代わりとなるもので左目を持って行かれた事。そして無くなった左目の代わりに魔水晶(魔力を宿した瞳サイズの水晶)を入れている事を。



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「なるほど、まだ名前ももらっていないガキンチョが魔術師ごっこの末に痛手をくらっちまったんだぁね」

と呆れた口調で罵ると、スっと少年を見る。

そして少し考える素振りをしながらブツブツと自問自答を繰り返し、やがて閃いたように顔を上げる。

「ってこたぁーつまりあんた、師匠がいないんだぁね?」

と何がつまりかよく分からないが、どうやら一人で納得しているらしい。

「どんな事情があるかは分からんが、とりあえず新しく師匠をつけて15歳になって名前をもらわにゃ三流の魔術師にもなりゃしないよ」

と何故かお節介がすぎるアルシャは言う

全くその通りだと少年も思う

「あたしに任せな‼︎知り合いに超一流がいるからねぇ」と胸を張る女性に少年はただただ、目を白黒させるしかなかった。

「ちなみにあんたの新しい師匠はピエロって名だよ」

あんたも知っているだろぅ?といつの間にか本人の意向は無視して師匠は確定したらしい。

ピエロ…

確かに知っている名だ。

ピエロ=マスカーティ

近代魔術の英雄史に記載される程なのだから。

「明日の昼、奴の所に行くよ‼︎」

と半ば強制的に15歳までの約2年間の進路が決定した瞬間である



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