いふのいふの陰陽師パロ小話集



[ ATTENTION ! ]


・特殊設定もいいところ


・なんでもやりたい放題


・設定捏造激しい


・リツアヤくっついてるマジック起きてる


・なんでもあり


・なんでも許して














【テーマ:器用貧乏】






「でかいくせにすばしっこいなー、もう、」



蠟色の狩衣を翻し、真夜中の国立公園を駆け抜けるのは千里。その手に握られた、包帯の巻かれた刀は何度かガリガリと地面に当たり、砂を切り刻んでいるようで。

生い茂った木々の隙間を抜け、広く開けた空間へ出た。にぃ、と口角を上げた千里は刀を地面へとぶっ刺し、「律樹!そっち行った!」真夜中だと言うのに声を張り上げた。ご近所迷惑?そんなの関係ないない。


「応!」


それに元気よく応えた律樹は、待機していた木の枝からひらりと飛び降り、千里と同じ様に蠟色の狩衣を靡かせる。


右手の人差し指と中指で長方形の薄い紙を5枚取り出すと、地面へと着地。同時に宙へと放った。その5枚はまるで意志を持っているかのように風に逆らって、そして律樹の指定した位置へと飛んでいく。1枚は律樹の目の前、もう1枚は千里の刀の目の前、残り3枚も等間隔に、まるで円を書くように、丁度律樹が腕を伸ばし肩まで上げた位置に、その紙は停止した。


右手を前へと突き出し、左手の人差し指と中指を立て、口の前へと持ってくる。ぽわり、暖かそうな橙色の小さな炎がその指先に灯る。


「オン、デイバヤキシャ、バンダバンダ、カカカカ、ソワカ」


律樹がそう唱え、ちょん、と右手が紙へと触れた瞬間、その紙から橙色の線が伸び、隣の紙へ、目の前の紙へ、伝染していく。それらが全て繋がった瞬間、その線はぶわりと天高く伸びた。


ひらり、ひらりと落ちてきた葉がその橙色に触れると――バチッと悲鳴を上げ、炭へと変化する。いわゆる、結界というやつだ。


「ってバカー!逃がしてんじゃんか!!」


「えっ、うわ、やらかした」


橙色の結界の中はもぬけの殻だった。なんてこった。千里と律樹が追い詰めたはずの獲物は、その大きな巨体から考えられぬ素早さで律樹の斜め候補の木の上へ移動し、「ひひひひ」とめちゃくちゃ笑っている。笑いすぎて唇がめくれあがって目を隠している。


今回の討伐依頼は狒々。猿を大型化した様な存在感のある姿をしている狒々は、馬鹿みたいに怪力だ。更にいえば女を攫う、とも言われている。山の中に住む妖怪だが、何故だかこんな街中へと降りて来ていた為にこのような依頼が出されたのだ。

それを3日程かけやっとの思いでこの国立公園へと追い詰めた。


さすがに連勤は疲れるわー。


意味を成さない結界の一角を担っていた刀を引き抜き、千里はぐるりと肩を回した。刀が引き抜かれた事により、結界の陣は崩れ、紙はへたりと地面へと落ちた。


その様子を見ていた律樹は眉を下げながら肩を竦めた。


「人には得意不得意があるよな、仕方ねえ仕方ねえ」


「狒々に引きちぎられて殺されたいのー?」


「怖いこと言うなよ!?」


片目を眼帯で覆われている千里の目がにこりと三日月に細められる。その表情に背筋が凍ったのは言うまでもない。


さて、どうしたもんか。


木の上で両手を叩いて「うひひひひ」と未だ大爆笑をする狒々を見て、ぽりぽりと頬をかいた律樹。ゴリラの様だ。


あんなでかい図体を即席の札じゃあ縛れねーし、結界符はあと1組しか持ってきてねーし、千里は縛術なんて論外だしなぁ。やべ、これ結構ピンチじゃね?


冷静に考え、意外とヤバイ状況に陥っていると悟った律樹は、再度獲物を観察しようと狒々に視線を向けた、その時。


「縛縛縛」


突然現れた黄色に輝く輪が、狒々の図体をきつく縛り上げた。ぽかん。みたいな効果音がつきそうな顔をしていると、「ちぇすとぉぉお!!!」「ぐっふぉ!?」横から飛んできたなにかに横腹を蹴り飛ばされ、存外簡単にごろごろごろごろと律樹は吹っ飛んだ。


そのなにかは、すたんと着地すると千里へ向けてぶんぶんと手を振る。


「あ、綾瀬。そっちは終わったの?」


「うん、案外簡単だったよ。んで、律樹がヘマしたの?」


「律樹は縛り系苦手だしねー」


二人と同じく蠟色の狩衣に、矢筒を背負って現れた綾瀬は、あの器用貧乏野郎が、と先程飛び蹴りをかました相手を見詰めた。


千里は輪っかに締めあげられ苦しげに悲鳴をあげる狒々を見る。あいっかわらずえげつない力の入れ具合。



「綾瀬、遊んどらんと律樹起こせ」


「起きてるっしょ。早く起きて律樹」


「あれ、菊も来てたんだー。良かった良かったー」


「俺来とんの知っとったやろ」


とんとんとん、木の枝を飛んで渡ってきた菊も、矢張り蠟色の狩衣を着ていて。右手は人差し指と中指を立て口の前へ構えられている。その格好から先程の術式の声は菊だと分かった。まあ前からわかってたけど。


そんな二人の姿を認識した千里は、へらへらと締りのない笑顔を見せた。これで今日のあたしの仕事終わりだわ。そう確信したからだ。


綾瀬に再び足蹴にされた律樹はよろよろと何とか起き上がった。


「お前なぁ!出会い頭に蹴っ飛ばすのやめろって何度も言ってんだろ!?」


「挨拶じゃん」


「どこがだよ!!」


「痴話喧嘩とかええから、律樹、はよ」


「へいよ」


菊に急かされた律樹は、再び札を取り出した。先程と同じようにひょいと軽く投げると、札は定位置へ飛んでいった。札に囲まれた狒々は慌てふためき縛られながらもじたばたと暴れていた。その力が余程強いのか、菊は眉間に深く皺を寄せ、小さくぶつぶつと何かを唱えていた。そんな菊を尻目に、律樹は素早く不動明王の印を結び、詠唱を唱え始めた。


「しめよ、しめよ、金剛童子。搦めよ童子、不動明王正末のご本誓を以てし」


ぼわり、先程より明確に札から伸びるその線は歪な五芒星を描く。それを見届けた綾瀬は、背負った矢筒から一本の弓矢を引き抜き、左手に持った弓に構えるとギリギリと引き、弓矢を放つ。綺麗な弧を描いて一枚の札を射抜き、地面へと刺さった。その矢が刺さったことにより、歪だった五芒星は完璧なものへと変貌し。



「ノウマク、サンマンダ、バサラダン、センダ、マカロシャダ、ソワタヤ、ウンタラタ、カンマン」


真言を唱え終わると同時、描かれた五芒星は天高く登り線は面へと変化して、狒々を覆う結界へと早変わり。


刀を再度握り直した千里は、軽やかに地面を蹴り、何度か空中を蹴り空高い場所まで行くと、刀を高々と振り上げた。月明かりに照らされ、鈍く光る刀。にんまりと笑った千里は重力に従い地面へと急降下。


「ばっ、はや!?」


急降下する千里を見て菊は慌てて「解」狒々を縛っていた術を解いた。危ない、あいつのあの刀で斬られたら俺まで危ないやん。まじあいつ、なんなんや。


縛り術を解かれた狒々はこれ幸いと結界を破るべく再び暴れ出した。が、そんなのお構い無しに千里は思い切り刀を振り下ろした。


「さっさとお山に帰んなさい――水斬 雨祝い」


振り下ろした軌道から紺碧に鈍く輝く三日月型の剣圧が狒々に向かって飛んで、それは結界をすり抜け狒々の体のど真ん中を通り抜け、消えた。狒々は何が起こったのか分からない、そんな顔で千里を見詰めて。そんな千里は結界に触れる前に空気を蹴り、距離を取った。そしてひらひらと手を振る。




ばいばい。




次の瞬間――狒々の体は、鈍く光り、体内から膨張し、風船が割れるように弾け飛んだ。びちゃびちゃと狒々の体液が結界に張り付く。だらりと下げていた刀を垂直に構えると「もう悪さしちゃダメだからね」千里はへらと笑って、刀から手を離した。自分の遥下の足元にそれは垂直にぶっ刺さると同時、千里の足下の地面は紺碧色でセーマンを描き、ぐちゃぐちゃに弾け飛んでいた狒々の体は徐々に水へと変化し始める。


律樹は結界の印を解いた。シュン、と音を立て、結界は消え去る。


完全に水へと変化したのを見届けてから、千里は腕を下から上へと突き上げた。それに呼応するように、水は一本の柱へと変化し、天高く登っていった。狒々は水へと浄化され、そしていつか、雨となり人々に恵みをもたらすだろう。


それが、千里の力であり、――律樹の力である。



「あーあ、つっかれたー」


とん、と千里は静かに地面へと降りる。東の空が少しずつ明るくなってきた。もうすぐ、夜が明ける。



「お疲れ、さんきゅーな!」


「楽しかったねー。律樹、あと宜しく」


「応」



律樹は何処からか取り出した1枚の形代を手のひらに乗せ、ふっと息を吹き掛ける。形代はひらりひらりとひとりでに宙へと浮くと、律樹が指パッチンする事で、遥か東の空へと消えていった。これで、御本家への連絡は良し、と。


菊がそれと並行するように動作を開始した。コメカミを人差し指でとんとん、と二度叩く。


「あ、春樹?終わったから結界解いといてや。ああ、そうや、律樹んとこも。せやせや。今から帰るわ。おー、ほなまた」


ここら一帯の騒音被害を出さないための結界を貼っていた、今菊たちの家――本当は支部というのだが――に居るであろう春樹へ連絡を取った。その連絡を受けた春樹はやっと終わったか、と一息ついてから結界を解いたであろう。


帰ってひと眠りしたら、きっと春樹のほかほかご飯が待ってる。だっておかんだから。



「おい綾瀬起きとんか?」


「んー…」


「律樹、こいつ担いで帰れ。8割寝とるわ」


「はぁっ!?なんで俺が?!」


「律樹があの時狒々を逃がさなかったらこんなに遅くならなかったのになぁー」


「ほんまや」


「ゔっ」


「綾瀬は綾瀬で違う獲物を討伐した上でこっち手伝ってくれたんだけどなぁー」


「それな」


「っ、分かったよ!担ぎゃいーんだろ!」


「いい子でちゅね〜」


「ほんまそれ」


「お前らマジで腹立つ!!!」



約1名眠りに落ちたが、彼らは今日も元気にお仕事を終え、明るくなりかけた空を背に静かな住宅街を歩いて帰っていった。



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