第1話 脅威襲来 ―B―
「な、なんとか間に合った……」
校門が閉まるギリギリの時間で、俺とアイは登校することができた。
昇降口で彼女と別れ、ダッシュで教室に向かったので息が上がってる。
一年生が終わる時、クラス替えがあったので知り合いは少ない。
今日から一緒のクラスになる人たちに変な目で見られてるのは仕方ないよな。
初日から変な印象を残してしまったかもな……
「みんなおはよう。
全員……揃っているね」
教室の戸を開き、担任の先生が入ってくる。
眼鏡の若い教師……関わるのは今日が初めてだな。
「今日からこのクラスの担任になる、学カオルです。
早速だけど、今日はこのクラスに転校生が来ているんだ」
転校生……??
まさか、まさかとは思うけど……
「じゃあ、入ってくれ」
先生の声に合わせて教室に入ってきたのは、先程まで一緒にいた源アイその人であった。
「と、栃木から引っ越してきました、源アイです。
よろしくおねがいします……」
アイが自己紹介すると、小さく拍手が起こる。
まさか本当に転校生で、俺と同じクラスだとは……
世の中、わからないものだ
「というわけで、みんな仲良くするんだよ。
で、アイさんの席なんだけど……そこだね」
先生は教室の中ほど付近を指差す。
俺の席は窓側なので、流石に隣ではない。
そう上手くはいかないってな。
ゆっくりと彼女が先生の指示した席に向かう。
それを眺めていた俺は、偶然にもアイと目があった。
アイは俺がこのクラスにいることに驚いたようで、小さく声を漏らす。
軽く手を降ってみると、彼女は小さく礼をした。
礼儀正しい子だなぁ。
「あれ、君たちは知り合いかい?
確か……ロウくん、だったか」
「はい、さっき通学路で会いまして。
迷ってたみたいなんで一緒に登校しました」
「そう、か。
知り合いの方がいいかもしれないな」
先生はそう言うと、俺の隣の女生徒にアイと席を交換してもよいか尋ねた。
隣の生徒と面識はないので、まぁ普通に交換は成立。
めでたく俺は本日転校してきたアイの隣の席になったわけだ。
「あの、えっと……よ、よろしくおねがいします」
「えっと、こちらこそ……」
朝はなかったはずのぎこちなさを迎え、俺は授業を受けることになった。
何か、遅刻してよかったな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「や、やっと学校終わった……」
六限が終わり、ようやく学校という拘束から開放される。
初日は体育の後に古文と世界史だったから死ぬほど眠かった。
だが、もう終わりだ!!
早く帰ろう。
今日は月に一度の「レイ様すぺしゃるはんばーぐ ~パセリを添えて~」の日だから早く帰らないと。
俺は早々に学校を出て、帰路についた。
朝と同じ信号に捕まってから、アイと一緒に帰ればよかったかなと思ったがまぁいいや。
信号が青に変わり、自転車のペダルを踏みつけた時。
時間が止まった。
いや、実際には止まったわけではなく、俺以外の人間がみんな空を見ていた。
車も動かず、歩く人もその足を止めて空を見る。
一体どうしたのかと思い、俺も空を見上げた。
そこには、黒い丸があった。
あまりにも黒く、錯覚かと思うような黒い丸。
よくみればそれは、空にあいた穴であることに気づく。
瞬間、どこからともなく声が響いた。
「こんにちは、人類の皆様。
私たちは『Lazy』、人類に変わる新たな地球の支配者です。
人類の皆様には申し訳ありませんが、こちらの都合で殲滅させていただきます。
私たちの世界に、人類は必要ないのですから」
な、なんだ……?
厨二病をこじらせた誰かのいたずらか?
そう思った時、空の穴から何かが現れた。
見たこともない姿……異形のそれは徐々にその全貌を露わにしていく。
灰色の身体に、いくつか手足のようなものが生えているがそれがどんな機能を持っているのかわからない。
背中には触手が生えており、ぐねぐねと動いてる。
頭部のように見える突き出た部位にはオレンジ色の発光体。
規則的に光り、不気味さをより引き立てる。
やがて地面に降り立った異形は、おぞましい鳴き声と共に街を破壊し始めた。
気づけば周りの人たちは逃げ惑っており、街には混沌が広がっている。
俺はまだ現実から抜け出せず、非現実を受け止められずにいた。
非現実の始まりが、こんなにも突然だということに俺はたった今気づいたのである。
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