第1話 脅威襲来 ―C―

「か、怪物だああああああ!!

 怪物が出たぞおおおおおおおおお!!」


 叫び声を上げ、人々が逃げる。

何処に……?

ただ闇雲に、人は異形から逃げようとしている。


「な、何やってんだ……!

 俺も早く逃げねえと!!」


 自転車のペダルを深く踏み込み、その場から逃げ出す。

しかし、逃げ惑う人々を避けることが難しくスピードが出せない……!

これじゃあ走った方が早いっての!


「すまない……ブラスト号!

 必ず戻ってくる!」


 俺はブラスト号を道路端に寄せて走りだした。

家にいるレイが危ない……!

ニュースか何かでこれを見て逃げる準備をしてくれていることを祈る。

とにかく、早くここから逃げなければ。


 夢中で異形から逃げていると、人々の叫び声がしなくなっていることに気づく。

先程まで、あれほど声がしていたのに。

後ろを振り返ると、何故かわからないが人が倒れている。

一人や二人ではなく、数十人……いや、数百人の人間が。

目からは光が消え、まるで魂が抜かれたようだ。


 異形を見ると、下腹部から紫色の霧のようなものを放出している。

まさか……あれか?

あの霧を吸い込んだ人が、倒れているのか!?

急いで手で口と鼻を覆うが、これで大丈夫なのだろうか。

くそっ……!

こんな時のために、ちゃんとハンカチを持ってればよかった!!


 異形はたしかに、そしてゆっくりと俺の方に向かってきている。

動けない。

腰が抜け、地面に情けなく尻もちをついた。


「な、なんだよこれ……」


 俺は死ぬのか?

俺たちの住む世界は平和で、こんなアニメや特撮みたいなことは起こらないと思っていた。

それなのに、現実は非現実に変わる。

いとも簡単に、俺たちの世界は崩れたのだ。


 異形が攻撃を放つ。

もう終わりだ。

ここで俺は死ぬんだ。

全てを諦め、目を閉じる。


だが、未来は世界を見捨てなかった。


 異形の攻撃は、俺に届かない。

いつまでもやってこないその瞬間ときに違和感を覚え、瞼を開く。

そこには、もう一つの非現実が聳え立っていた。


「ロボッ……ト?」


 巨大なロボットが、異形の攻撃を受け止め俺を救った。

赤と白のカラーリングで、大きさは大体20メートルくらいだろうか。

そのロボットは確かに、異形の攻撃を受け止めているのだ。


『うぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!!』


 驚いたことにロボットから声がしたかと思えば、ロボットは異形を持ち上げ、そして投げ飛ばした。

なんてパワーだ……!

自分よりも大きい相手を吹き飛ばすなんて!


『そこの青年ッ!

 大丈夫か!?』


 ロボットが俺を見つめて言う。

そこで初めて、ロボットではなく中のパイロットが喋っているのだと気づいた。


「あ、はい!

 大丈夫です!」


『そうか、ならわかった!

 ひとまず今は動くな、今は動くほうが危険だ』


 ロボットは再び異形にターゲットを合わせる。

異形はゆっくりと体勢を立て直し、ロボットに向き合った。


『人々の平和を乱すLazyが刺客、グータランスよ!

 この気鋭ロボ、ガンバーとオレが相手だァッ!!』


 ロボット……ガンバーは地面を揺らしグータランスへ走った。

グータランスは背中の突起から触手を伸ばし攻撃する。

だが、ガンバーは攻撃をいとも簡単にかわし、相手の懐に潜り込んだ。


『その程度の攻撃では、倒せんぞッ!』


 連続で鉄の拳をグータランスへ叩きつけるガンバー。

柔皮を破壊している。

確かにダメージは入っているんだ。


「これなら……イケる!」


 叫んだその時、触手の動きが妙なことに気づいた。

普通ならすぐにでも攻撃してくるガンバーをはねのけようとするはずの触手が、今もなお伸び続けている。

もしかし、あの触手はガンバーではなく――


「俺を、狙ってるのか!?」


 予想は的中。

触手は真っ直ぐ俺の方に向かってきていた。

ヤバイ……回避が間に合うか怪しい。


 気合いで立ち上がり、その場から駆け出す。

触手は今まで俺が座り込んでいた場所を叩きつけ、地面の形を変えた。

そしてすぐに逃げる俺へ向かう。

早っ!?

これじゃ避けきれない……!!


 触手が今度こそを俺を捉えようとするが、その攻撃はガンバーに防がれる。

触手を手で掴み、俺に届かないようにしてるのだ。


『クッ!

 なかなか姑息な手を使うじゃないか!

 正々堂々戦えッ!』


 ガンバーは再びグータランスを投げ飛ばそうとするが、なぜかできない。

まるでグータランスが、先程よりも重くなっているような……


『コイツ!

 さっきよりも重く……!!』


 触手は勢い良くガンバーを吹き飛ばした。

ビルに背を叩きつけ、瓦礫に埋もれるガンバー。

ガンバーの動きが鈍る。

ギギギギギと金属が悲鳴を上げ、なかなか今までのように動けない。


『パーツがイカれたか……!

 仕方ない、最終手段だ……!!』


 ガンバーはその拳をグータランスに向け、標準を合わせる。

動きに気づいたグータランスは三度触手を放った。

この攻撃を受けたら、ひとたまりもない。


『喰らえぇッッッッ!!

 ロケットオオオオオ!!! パアアアアアアアアンチッ!!!』


 叫んだ瞬間、拳がグータランス目掛けて飛んで行く。

しかも、凄まじいスピードで!

ガンバーのロケットパンチは、触手を掻い潜り相手に命中する。

肉体の一部を貫通するほどの威力をロケットパンチは持っていた。

だが、その代償としてガンバーには触手がお見舞いされる。

轟音とともにガンバーは吹き飛び、しばらく宙を舞った後に地面へと叩きつけられた。


「あ、相打ち……?」


 グータランスは嘆きのようにも聞こえる鳴き声とともに、溶けるように消えた。

静寂。

どうやらグータランスは本当に消滅したらしい。


「……!!

 あのロボットのパイロット!!」


 俺はガンバーの方まで走って行き、倒れたガンバーのコクピットを探す。

よく見れば胸部がコクピットのようだが、どこにコクピットを開くスイッチがあるんだ?

たいてい外にもあるけど……


 しばらくの時間をかけて、俺はコクピットハッチを開くスイッチを発見した。

足についてるなんて思わないわ、普通。

ぎこちなく開かれたハッチから、パイロットの安否を確認する。


「う、嘘だろ……」


 パイロットは目を閉じ、動かない。

腹部から血が流れていて、左脚も変な方向に曲がっていた。

俺は思わず膝をつき、ひたすらにパイロットを見つめる。

視界が揺れピントが合わない。

次の瞬間、不自然に視界が傾いたかと思うと、俺の記憶はそこで終了していた。

そこから先、何があったかはわからない。






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