第33話

大和型戦艦。

この一番艦の名前を日本で知らない人間はいないだろう。

日本海軍が艦隊決戦の切り札として建造した世界で唯一満載排水量70000tを超える巨大戦艦だ。

主砲には世界最大の46cm砲を前部6門、後部3門配し、これらの砲に対し20000~30000mの距離で耐えられる装甲を備えている。

これらの装備を持ったうえで27ktの速力を発揮できるこの艦は文字通り世界最強の戦艦と言えるだろう。

対するH級戦艦はドイツ海軍が計画した幻の巨大戦艦だ。

複数の計画案があるが今相対しているのはH39型で1937~1939年に設計され実際に予算承認までいっている。

40.6cm47口径連装砲4基8門を備え舷側装甲は300mm、最大速力は30ktに到達する。

完成していれば欧州最強戦艦の一角に名を連ねただろう。


「撃っ!!」


その二隻が今、並びながら砲撃戦を展開していた。

とうとう副砲射程にまで入ったため大和において現在砲撃しているのは一番、二番主砲塔と一番、四番副砲塔だ。

どちらも相手を夾叉したため、いつ直撃弾が出てもおかしくない。

水柱をもろにかぶって見張り員たちは全員ずぶ濡れだ。


「……なかなか当たりませんね」


「大丈夫よ。夾叉はしてるんだから、そのうち当たるわ」


しかし先に直撃弾を得たのは敵艦、H級戦艦「フリードリヒ・デア・グロッセ」だった。

40.6cm砲弾は砲撃を続けていた一番副砲塔を直撃。

副砲には大した防御力は無いので一撃で粉々になる。

しかし、砲戦距離が近かったこともあって火薬庫などに被害は及ばず砲塔上部が大破しただけにとどまった。

しかし、敵は続け様に直撃弾を叩き出す。

船体中央部の舷側に直撃した40.6cm砲弾は410mmのVH鋼板が弾いたが被害は零ではない。

対空砲座などが複数破損する。

しかし、そんなものは大和型にとっては大したダメージではない。

そして大和もとうとう命中弾を出した。


「敵艦艦首に命中弾!!」


「よしっ!!」


しかし、艦首に命中したとはいえ敵艦は依然健在だ。

なおも6門が砲撃を続けている。


「二番主砲塔に直撃弾!!」


三番主砲塔に続いて二番主砲塔も射撃不能に陥る。

残る主砲塔は一基だけ、副砲も一基あるがこれで撃沈に追い込むのは難しいだろう。

艦の傾斜もそろそろ大きくなってきた。


「くっ……」


「……これは負けかな……」


優香が弱音を吐いた。

しかし、それに対して千秋が檄を飛ばす。


「まだです!!戦艦の砲撃戦は最後の一瞬まで勝者はわかりません!!あきらめなかった方に勝利の女神は舞い降りるんです!!」


「第十八斉射用意よしっ!!」


「撃っ!!」


千秋の言った通り、最後まであきらめなかった方に神は舞い降りた。

いや、舞い降りたのは破壊神という方が正しいだろう。

地震か何かのような轟音をとどろかせながら飛来した大和の46cm砲弾はフリードリヒ・デア・グロッセの砲塔前面装甲、385mmを真正面から貫通。

次弾に備えて砲室に入っていた装薬や砲弾を順に誘爆させた。

それが火薬庫にまでおよび、瞬時にして船体がくの字に折れ曲がる。

周囲からは着弾色によってまるで血で染め上げられたかのように真っ赤になった水柱が収まるころには、フリードリヒ・デア・グロッセの姿は海上から消えていた。

まさしく轟沈である。


「試合終了。帝山女子高校の勝利!!」


「「「いやったぁぁぁぁあああっ!!」」」



こうして帝山女子高校初の対外試合は勝利にて幕を閉じた。

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