第34話
試合を終えるともう一度代表同士であいさつしなければならない。
試合後の挨拶は敗者が勝者の乗艦に訪れる。
大和に訪れたリンデは沈没に巻き込まれたせいで少し濡れているかと思ったがそんなことは無かった。
救助された駆逐艦の内部でしっかり拭いてきたようだ。
「いい試合だった。今度やるときは負けない」
「次に戦うのは大会ですね」
バトル・オブ・バトルシップスの全国大会は夏休みに行われる。
男子は夏の甲子園、女子は夏のバトル・オブ・バトルシップスというのが現在の定番だ。
本来ならば予選から始まるのが普通だが、帝山のような優勝経験を持つ学校は普通の学校に枠を開けるために予選を行わず出られる永久出場権を持っている。
よって彼女たちは予選には参加しない。
「そうなるな。決勝まで負けるなよ」
「はい!!」
固い握手を交わした二人。
沈没した艦の乗員を含めた全員を乗せた大和は母校へと針路をとった。
沈没した他艦は既に分子分解が開始され復旧作業に入っている。
ゲートを通過して日本の海に戻ると北海では夕方だったが日本は早朝だった。
まだ日が昇っていないので辺りは真っ暗で、大和の航法灯等の灯しかない。
千秋は防空指揮所に上がると思いっきり風に当たった。
艶のある黒髪が風で揺られる。
「凄い試合だったなぁ……」
今日の試合を振り返ってそれに思いをはせる千秋。
ドイツ海軍の戦艦を主力としたプロイセンの艦隊。
カタログスペックではこちらが勝るはずなのに勝利はギリギリだった。
相手も練習試合に全力は出していないだろうし、大会では戦艦を改装してくる可能性も高い。
自分たちの練度の低さを改めて実感する千秋だった。
「……こんなところにいたのか」
「栞菜ちゃん!!それにみんなもどうして!?」
「お前の姿だけ見えなかったからな。探しに来たんだ」
女っ気を全く感じさせない男口調で喋る栞菜。
その後ろには部員たちが全員勢揃いしていた。
来た数があまりにも多すぎて防空指揮所がパンクしそうになる。
見張り員のアンドロイドも困惑気味だ。
「もうすぐ港に着くぞ。っとお出迎えだ」
「?」
栞菜が指をさす方向を見ると海上に小さな漁船がちらほらと。
漁師のおじさんたちがこちらに手を振っているのが見える。
さらに港には深夜から早朝になろうとしている時間にもかかわらず同じ学校の生徒たちがたくさん集まっていた。
皆、応援旗のような物を振ったりして口々に何か叫んでいる。
何を言っているかまではわからないがどうやら応援してくれていたようだ。
「そういえば先生が言ってましたね。全校に流すって」
「……どうする?」
「応えるしかないでしょう!!」
千秋の一言のもと、全員で同級生たちに答えた。
さらに登舷礼の命令が千秋達からアンドロイドに下されて操艦に最低限必要な数を残して全員が甲板に並んだ。
ラッパやら何やら大量の楽器も持ち出されて盛大に「軍艦行進曲」が演奏される。
その演奏と共に太陽が姿を現した。
「千秋、あれ……」
「軍艦旗……」
眩いばかりの朝日に照らされる大和。
軍艦旗を背にして入港してくる大和の姿はそれはそれは美しかったという。
ちなみに、港に入港した千秋達は疲れが一気に襲ってきて昼過ぎまで眠りこけていた。
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